2016年06月25日

「麒麟の舌を持つ男」

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田中 経一 著
幻冬舎 出版

 タイトルの麒麟は、想像上の生き物のほうのキリンです。それほど卓越した舌を持つ男は、一流の料理人ですが、経営していた店の借金を背負い、思い出の食事を人生最後に食べたいという願いを叶える仕事で細々と借金を返済する日々です。

 そんなとき、莫大な報酬をエサに奇妙な依頼が舞いこみます。その奇妙な依頼は、簡単には実現できそうになく、その行方を知りたくて読み進めるものの、結末には、その依頼には別の目的があったことが明かされます。

 その意外な結末に向かって巧みに伏線が張り巡らされていて、料理と家族愛という軸のほかにミステリとしての軸もしっかり存在を主張していました。
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2016年04月29日

「今朝の春」

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高田 郁 著
角川春樹事務所 出版

想い雲」の次にあたる、みをつくし料理帖シリーズ第四弾です。料理人である澪は、倹しい暮らし向きの人でも通える料理屋で料理をする庶民という位置づけで前巻まで進んできました。それがここにきて料理屋を一流にして富を得るという大変な目標が掲げられ、この先はサクセス・ストーリーへ転ずる気配も感じられるようになりました。

 現代を舞台にすれば描きにくいことを描くのが時代小説の特徴のひとつであると、そう理解していても、少しばかり寂しい感じもしました。

 お料理のほうは、いままでと変わることなく美味しそうなものが次々と登場します。異色なのは、ほうき草の実です。古くは飢饉食として食べられていたそうです。読んでいてピンときませんでしたが、巻末のレシピで『とんぶり』とあって、本来は食べるものではなかったということを初めて知りました。みをつくし料理帖シリーズのメニューを再現した食堂を誰かつくってくれないかと思いました。
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2016年04月05日

「ゆうじょこう」

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村田 喜代子 著
新潮社 出版

 数えで15の女の子が明治38年の春に熊本の遊郭に売られてきてからの2年足らずを描いた作品です。イチという名のその女の子は、廓のなかにある学校で、女性教員である鐵子さんに宛てて日記のようなものを書きます。作品の軸となっているそのイチの手紙のような日記は、イチが見聞きして感じたこと、やり場のない怒りや悲しみなどがお国訛りで綴られています。

 読む側の鐵子さんも、かつて廓に売られてきた身だからか、イチの気持ちを理解しながらも、口を出すことなく静かにイチを見守ります。イチの感じる辛さや切なさを知り尽くしているのでしょう。

 アメリカの農園を支えた奴隷制度も、人が人を売り買いする悲しい仕組みでしたが、親が自身が生き延びるために子を苦界に売り飛ばす世の仕組みは、さらに切なく感じられました。

 帰る家さえも失ったそんな状況にありながら、イチが考えることをやめなかった結末に、ほんの少し救われました。
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2016年03月13日

「想い雲」

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高田 郁 著
角川春樹事務所 出版

八朔の雪」から始まるみをつくし料理帖シリーズの第三弾です。

 相変わらず厳しい試練が矢継ぎ早に降りかかるものの、それぞれあっという間に解決される展開が続き、ややマンネリな感じになってきました。

 いっぽう、温室もなければ、輸入食物もなく、季節のものをそのときどきで食すという点で、季節が巡り食材も巡ってくる状況で、新しい料理を生みだす展開のほうが、忙しい現代の生活において食を疎かにしがちなわたしの視点から見て、より新鮮な印象を受けるようになった気がします。

 今回は「ふっくら鱧の葛叩き」のエピソードで、初夏の鱧で季節を感じる場面が印象に残っています。上方出身の澪が、江戸では見られない鱧を懐かしむ姿は、わたしの経験とも少し重なり、食べ慣れたものは忘れないのだと、いまさらながら思いました。
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2016年02月18日

「花散らしの雨」

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高田 郁 著
角川春樹事務所 出版

八朔の雪」に続く『みをつくしシリーズ』の第二弾です。「八朔の雪」では、澪が働く『つる家』は、付け火で焼けてしまいましたが、別の場所で心機一転、『つる家』を再開した澪たちに、またもや数々の難題が降りかかります。

 まず、「八朔の雪」で始まった名料理屋『登龍楼』が澪の料理を模倣する問題は、さらに悪質になってしまいますが、一旦の結着を見ます。しかも、かなり胸のすく展開でした。

 次に、澪のご近所さんであり、一緒に『つる家』で働くおりゅうの家族に災難が降りかかりますが、澪も芳もその苦労を分かち合って、江戸での暮らしに根が生えてきたような展開もありました。

 最後に、澪の恋がらみの話題も登場しました。

 短篇連作になっているこのシリーズ、それぞれで問題がもちあがり、眼が離せないだけでなく、その問題を解決する澪が堂に入っていて、小気味よく読めます。人気のあるシリーズのようですし、もう少し読んでみたいと思います。
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