2016年02月17日

「八朔の雪」

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高田 郁 著
角川春樹事務所 出版

 子どものころに水害で両親を亡くして天涯孤独となり、大坂の料理屋の女将だった芳に勧められて女衆として奉公していたころ、そこの主人に味覚の鋭さを高く評価され、板場に入り料理人となったという江戸時代としては異色の経歴をもつ澪(みお)が主人公です。

 幸薄い澪は、両親を亡くしたあとも困難に見舞われ、料理屋が潰れてしまいひとりになった元女将の芳と一緒に江戸に暮らしています。

 そして江戸でも料理人として働く澪は、東西の味の違いに戸惑いながらも、果敢に新しい料理に挑戦し、それを軸にエピソードが展開されます。

 エピソードごとに登場する料理だけでなく、登場人物にもそれぞれの味があって、あっさりとした描写ながら、じんわりとした温もりを残す作品です。
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2016年02月13日

「ツリーハウス」

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角田 光代 著
文藝春秋 出版

 2011年の第22回伊藤整文学賞受賞作品です。

 主人公の良嗣(よしつぐ)は、特別な理由もなく仕事を辞め、祖父母や両親と一緒に暮らしています。

 ある日、祖父が静かに息をひきとり、残された祖母は、「帰りたい」ということばを漏らします。どこへ帰りたいのか? 良嗣から自然に生まれた疑問を端に、家族のルーツが明かされます。

 良嗣が祖父母や両親の過去を知るにつれ、わたしも母方の祖父がどう戦争を受けとめていたのか、高度成長期をどう思っていたのか、祖父が存命中に訊く機会があったら、何が聞けたのか想像してしまいました。

 そこには、時代が変わっても変わらない何かがあったのではないかと思います。良嗣が見つけられたものがあったように。
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2016年02月11日

「白いしるし」

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西 加奈子 著
新潮社 出版

 自分以外の恋人がいて、しかも、その恋人と別れられないのをわかっている男と関係をもってしまい苦しんだあれこれが綴られています。

 恋人がいることを知っていても、男の口から恋人とは別れられないと言われなければ前に進めない姿を認めて読むのは、なかなか辛いものです。しかも、そういう結末が読む側に伝わるよう冒頭から書かれてあり、明るい展開を期待することもできません。

 もし、同じような経験をしていたら、共感できた作品なのでしょうか。わたしは、いたたまれない重いムードしか感じられませんでした。
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2016年01月17日

「本にだって雄と雌があります」

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小田 雅久仁 著
新潮社 出版

 本が好きで好きで、本で家じゅう埋め尽くされている読書家なら、「本が勝手に増えていっている」と言いたくなるときがあるのかもしれません。では、どのようにして勝手に増えていくのでしょうか? それがこの本のタイトルです。本にも雄と雌があって、その生殖活動によって本が増えていくというわけです。

 そういう言い訳ができたら……と共感してしまう読書家ならきっと、読みたい本を読み尽くすには人生は短すぎると思っていることでしょう。そういう読書家にとってのユートピアがファンタジーとして登場します。

 タイム・トラベルの趣があり、コメディのテイストを備え、駄洒落が連発されるなかにまともなトリビアが埋め込まれているというややこしい話で、どういったジャンルの本と括るのは、わたしにはできそうにありません。ただわたしには、本好きが気に入りそうなフィクションの世界に見えました。
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2015年11月26日

「赤い月」

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なかにし 礼 著
文藝春秋 出版

 満州国の盛衰に翻弄されながらも、自らの感情に素直に生きた女性(作者の母親がモデル)の物語です。昭和初期、女性が家に縛られていた時代に結婚していながらも恋を追い求め、騒乱の世において何がなんでも生き抜こうとする姿はドラマチックではありますが、なんとなく薄っぺらな印象を受けました。

 満州国に渡る以前の恋愛、渡ってからの右肩あがりの発展、諜報活動の密告、敗戦とその後の引き上げなど、あまりに多くのできごとが作品のなかに詰まっていて、登場人物にこまやかな感情の動きが見られないことがその原因かもしれません。やや物足りなさを感じました。
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