2018年09月23日

「浪花少年探偵団」

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東野 圭吾 著
講談社 出版

 最初に驚いたのは、東野圭吾は、こんなタイプの本も書くのかということです。軽快でユーモラスなミステリ短篇集で、25 歳の独身教師しのぶセンセが教え子の小学生たちを引き連れ素人探偵として活躍します。

 次に驚いたのが、会話がほぼ大阪弁で進行する点です。著者プロフィール欄を読むと『大阪府生まれ』と書かれてありました。関西弁話者以外の方々にとっては、読みにくかったり、冗談に聞こえない会話があったりするのではないかと気になりましたが、関西出身者にとっては違和感のない会話で、しかもコメディタッチでサクサク読めます。

 ミステリとしてトリックがどうこういう以前に、漫才と似た感じで、しのぶセンセと周囲の人たちとの掛け合いを楽しむ作品かと思います。

 (関西弁話者が) ちょっとした時間潰しに読んでリフレッシュするのに最適だと思います。わたしは、しのぶセンセの優しいながらも歯に衣着せぬ物言いを読んだら、少しストレスが軽くなりました。
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2018年07月30日

「解夏」

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さだまさし 著
幻冬舎 出版

「解夏」、「秋桜」、「水底の村」、「サクラサク」が収められた短編集です。

 詩のような短い描写のなかに、読み手に想像させる要素が詰まっていたり、相反する気持ちが違和感なく納まっていたり、音楽の世界で活躍する作家の作品を読んで、歌と短篇は通ずるところがあるのかと思いました。印象に残ったのは、「サクラサク」に登場する認知症を患った 80 歳の男性が記憶が失う前に残したいことを書きつけた文章です。

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生きることはもとより恥ずかしきことなりといへども
老いてその恥ずかしさにきづかぬことこそなほ恥ずかし。
我いのち永らへども いのちに恥ずかしきことなし。いのちを恨まず。
ただおのれにみえぬ老いのあはれのみ恥ずかし。
かといひて老いをまた恨まず。
与へられしいのち、与へられし人生、かなしきもまたよろし
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 わたしの友人が子供のころ、痛いと母親に訴えたらいつも、「生きてる証拠」と返されたと話していたことを思い出しました。陰になって見えていなかった部分に気づかされた一節です。

 どの作品も、辛いことのなかにも救いがあり、希望を感じさせる終わり方をしている点で似ていて、読後感が爽やかです。
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2018年07月09日

「リセット」

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北村 薫 著
新潮社 出版

スキップ」と同じく、時を巡って不思議なことが起こる作品です。

 ただ「スキップ」と違って、登場人物の感情に寄り添うことができました。その不思議なできごとが、わたしの身にふりかかったとしたら、登場人物と似たようなことを感じ、似たような行動をとったに違いないと思えました。

 それ以外にも「スキップ」より「リセット」のほうを好ましく思った理由があります。

 時が、第二次世界大戦中、戦後、現代と移り変わっていくなか、それぞれの時代で鍵となるモノや歌などが登場し、時代と時代が結びつけられるような仕掛けになっているのですが、そのつながりを辿っていくことが楽しかったことがひとつです。

 もうひとつは、辛く厳しい戦時下の淡い恋が、長い年月を経て実るという結末で、読後感が爽やかだったことです。

 ここでの「リセット」は、ゲーム慣れした子供たちが死を軽く「リセット」と呼ぶのとは違って、果たせなかった夢を果たすもう一度のチャンスのように、耳に心地よく響きました。
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2018年07月03日

「判決の誤差」

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戸梶 圭太 著
双葉社 出版

「人を裁く準備はあるか?」「瞠目の法廷ミステリー」という帯に騙されてしまいました。こういうのをブラックユーモアというのかわかりませんが、下品な人々がひたすら下品に走る群像劇といったところです。

 裁判員制度は、裁判員になった人たちに相当の負担を強いるものであり、その裁判員がここまで茶化され続けるというのは、読後感が悪すぎました。この作家の作品はもう読まないと思います。
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2018年05月21日

「首都圏大震災」

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牧野 武則 著
幻冬舎 出版

 いちおうフィクション作品ですが、著者が大学教員なので、人物や心理の描写に小説らしさはありません。内容においても、過去 (この本の出版は 2018 年 2 月) のできごとは事実がもとになっていて、タイトルの首都圏大震災のみがフィクションのように見受けられます。

 南海トラフ地震に関する情報が気象庁から発表されたといった報道に接することはあるものの、どのように観測し、予測しているか、具体的にイメージしたことがなかったのですが、この本を読むと、そのあたりのことがよくわかります。

 観測地点を決めたり、集めたデータの分析方法を決めたり、技術面での難易度が高いだけでなく、技術を有した数少ない人材を確保したり、そのための予算をうまく確保するといった調整面での難易度も高いということが理解できるよう工夫されています。

 ただ恐ろしいことに、この作品では、首都圏のビルが倒壊し、高速道路や鉄道が不通になり、証券取引所など経済の中心となっている都心でも被害が発生する大規模な地震が起こってしまいます。

 この本を読んで恐怖心が植えつけられないようにという配慮かもしれませんが、作品内の政府は、目を瞠る素晴らしい活躍をします。森友・加計問題といった、ちゃんとした社会人には考えられないような過ちを連発する政府には到底望めないような働きなので、もし本当に首都圏大震災が起こったらどうなるか、読者がそれぞれ頭のなかでシミュレーションしてみる機会が得られる作品だと思います。
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