2018年11月10日

「花が咲く頃いた君と」

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豊島 ミホ 著
双葉社 出版

 若手の作家が書いただけに登場人物も学生が多く、いじめなどの描写もあるのですが、まっすぐな主人公たちが語る内容は、読んでいて爽やかです。以下の 4 篇が収められた短篇集です。

- サマバケ 96
- コスモスと逃亡者
- 椿の葉に雪の積もる音がする
- 僕と桜と五つの春

 Amazon の内容紹介では、『祖父との交流を描いた「椿の葉に雪が積もる音がする」は必読』とあります。祖父と中学 2 年生の孫娘の関係を孫娘の視点から描いているのですが、わたしの場合、年齢からいって、考えることは祖父に近く、つい祖父の視点で見てしまいました。彼が孫娘に問うた「この本、要らんか?」、結果的には最後の会話になったこのひとことの意味が身に沁みました。

 Amazon の内容紹介では触れられていませんでしたが、わたしが一番気に入ったのは「僕と桜と五つの春」です。学生が主人公ならやはり成長物語がいいというのもありますが、桜の描写とそれに重ねた一途な恋が気に入りました。
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2018年10月29日

「虚像の道化師」

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東野 圭吾 著
文藝春秋 出版

浪花少年探偵団」のようなミステリ短篇集ですが、こちらはコミカルな雰囲気はありません。

 これを原作とするテレビドラマをたまたま見て、物理学の准教授が書いた難しい数式が原作でどう描かれているのか気になって読んだのですが、もとの小説には、そういった込み入った描写がなく、准教授もドラマほどエキセントリックなキャラクターとしても描かれていません。

 平均 70 ページほどの短篇でトリックを披露するとなれば、人物描写は端折らなければならないという事情はあるものの、やはりドラマでは、脚本家が頑張って話を膨らませ、キャラクターを際立たせているのでしょう。

 収められているのは、以下の 4 篇です。

- 幻惑す (まどわす)
- 心聴る (きこえる)
- 偽装う (よそおう)
- 演技る (えんじる)

「演技る (えんじる)」は、うまうまとミスリードされたものの、動機の面で少し無理が感じられましたが、演技を生業とする俳優という職業での独特の価値観と考えることもできるかもしれません。全体としては、物理学の准教授が思いやりを見せて、ハッピーエンドとなった「偽装う (よそおう)」が一番わたしの好みに合いました。
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2018年10月24日

「美しい星」

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三島 由紀夫 著
新潮社 出版

 自身は火星からきた宇宙人であるという意識に突然目覚めた父親、同様に木星からきたとさとった母親、水星からきたという長男、金星からきたというその妹という顔ぶれの 4 人家族と、白鳥座 61 番星の未知の惑星からきた宇宙人だと名乗る万年助教授とその取巻きふたりのグループが対照的に描かれています。

 なぜ純文学作家が宇宙人を描くのか、理解に苦しむまま読み進めると、4 人家族の父親と助教授が地球人 (人間) について意見を戦わせる場面になります。両者は、人間と自らを切り離して考えている点も人間を不完全な存在として見ている点も全く同じなのですが、前者は人間に平和を与えて救おうと懸命になり、後者は人間を滅ぼそうと躍起になり、目指すところは正反対でした。

 両者の議論において描写された人間の本質は、作家の思想の投影であり、この作品の読みどころでもあります。この場面を読むと、これらの登場人物は、人間を外から見る存在として宇宙人である必要があったのかと納得しかかったものの、そのあとの結末を読むと、その解釈も自信がなくなりました。

 なんとなく宗教における『救い』のように見えた結末は、人間の平和を憂ういっぽうで自らはガンに身体を蝕まれ余命宣告に打ちひしがれる父親にしろ、自らを低く評価する周囲の人間に憎しみを抱き人類の滅亡を願っている助教授にしろ、あまりにも俗っぽい登場人物と相容れないように見えました。あるいは、俗っぽい普通の人たちだからこそ、あの結末だったのでしょうか。すっきりとしない読後感でした。
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2018年09月23日

「浪花少年探偵団」

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東野 圭吾 著
講談社 出版

 最初に驚いたのは、東野圭吾は、こんなタイプの本も書くのかということです。軽快でユーモラスなミステリ短篇集で、25 歳の独身教師しのぶセンセが教え子の小学生たちを引き連れ素人探偵として活躍します。

 次に驚いたのが、会話がほぼ大阪弁で進行する点です。著者プロフィール欄を読むと『大阪府生まれ』と書かれてありました。関西弁話者以外の方々にとっては、読みにくかったり、冗談に聞こえない会話があったりするのではないかと気になりましたが、関西出身者にとっては違和感のない会話で、しかもコメディタッチでサクサク読めます。

 ミステリとしてトリックがどうこういう以前に、漫才と似た感じで、しのぶセンセと周囲の人たちとの掛け合いを楽しむ作品かと思います。

 (関西弁話者が) ちょっとした時間潰しに読んでリフレッシュするのに最適だと思います。わたしは、しのぶセンセの優しいながらも歯に衣着せぬ物言いを読んだら、少しストレスが軽くなりました。
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2018年07月30日

「解夏」

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さだまさし 著
幻冬舎 出版

「解夏」、「秋桜」、「水底の村」、「サクラサク」が収められた短編集です。

 詩のような短い描写のなかに、読み手に想像させる要素が詰まっていたり、相反する気持ちが違和感なく納まっていたり、音楽の世界で活躍する作家の作品を読んで、歌と短篇は通ずるところがあるのかと思いました。印象に残ったのは、「サクラサク」に登場する認知症を患った 80 歳の男性が記憶が失う前に残したいことを書きつけた文章です。

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生きることはもとより恥ずかしきことなりといへども
老いてその恥ずかしさにきづかぬことこそなほ恥ずかし。
我いのち永らへども いのちに恥ずかしきことなし。いのちを恨まず。
ただおのれにみえぬ老いのあはれのみ恥ずかし。
かといひて老いをまた恨まず。
与へられしいのち、与へられし人生、かなしきもまたよろし
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 わたしの友人が子供のころ、痛いと母親に訴えたらいつも、「生きてる証拠」と返されたと話していたことを思い出しました。陰になって見えていなかった部分に気づかされた一節です。

 どの作品も、辛いことのなかにも救いがあり、希望を感じさせる終わり方をしている点で似ていて、読後感が爽やかです。
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