2019年03月24日

「日本語のレトリック―文章表現の技法」

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瀬戸 賢一 著
岩波書店 出版

 レトリックが 30 種類にわたり簡潔に説明され、どんな技法があるのか俯瞰するにはもってこいの入門書です。

 以下が巻末に収められていて、これに説明や例が加えられたものが本文です。ここまで簡潔にまとめられていると清々しいです。

名称 別名 説明
隠喩 暗喩、メタファー (metaphor) 類似性にもとづく比喩である。「人生」を「旅」に喩えるように、典型的には抽象的な対象を具象的なものに見立てて表現する。 人生は旅だ。彼女は氷の塊だ。
直喩 明喩、シミリー (simile) 「〜のよう」などによって類似性を直接示す比喩。しばしばどの点で似ているのかも明示する。 ヤツはスッポンのようだ。
擬人法 パーソニフィケーション (personification) 人間以外のものを人間に見立てて表現する比喩。隠喩の一種。ことばが人間中心に仕組まれていることを例証する。 社会が病んでいる。母なる大地。
共感覚法 シネスシージア (synesthesia) 触覚、味覚、嗅覚、視覚、聴覚の五感の間で表現をやりとりする表現法。表現を貸す側と借りる側との間で、一定の組み合わせがある。 深い味。大きな音。暖かい色。
くびき法 ジューグマ (zeugma) 一本のくびきで二頭の牛をつなぐように、ひとつの表現を二つの意味で使う表現法。多義語の異なった意義を利用する。 バッターも痛いがピッチャーも痛かった。
換喩 メトニミー (metonymy) 「赤ずきん」が「赤ずきんちゃん」を指すように、世界の中でのものとものの隣接関係にもとづいて指示を横すべりさせる表現法。 鍋が煮える。春雨やものがたりゆく蓑と傘。
提喩 シネクドキ (synecdoche) 「天気」で「いい天気」を意味する場合があるように、類と種の間の関係にもとづいて意味範囲を伸縮させる表現法。 熱がある。焼き鳥。花見に行く。
誇張法 ハイパーバリー (hyperbole) 事実以上に大げさな言い回し。「猫の額」のように事実を過小に表現する場合もあるが、これも大げさな表現法の一種。 一日千秋の思い。白髪三千丈。ノミの心臓。
緩叙法 マイオーシス (meiosis) 表現の程度をひかえることによって、かえって強い意味を示す法。ひかえめなことばを使うか、「ちょっと」などを添える。 好意をもっています。ちょっとうれしい。
曲言法 ライトティーズ (litotes) 伝えたい意味の反対の表現を否定することによって、かえって強い意味を示す法。 悪くない。安い買い物ではなかった。
同語反復法 トートロジー (tautology) まったく同じ表現を結びつけることによって、なおかつ意味をなす表現法。ことばの慣習的な意味を再確認させる。 殺人は殺人だ。男の子は男の子だ。
撞着法 対義結合、オクシモロン (oxymoron) 正反対の意味を組み合わせて、なおかつ矛盾に陥らずに意味をなす表現法。「反対物の一致」を体現する。 公然の秘密。暗黒の輝き。無知の知。
婉曲法 ユーフェミズム (euphemism) 直接言いにくいことばを婉曲的に口当たりよく表現する方法。白魔術的な善意のものと黒魔術的な悪徳のものがある。 化粧室。生命保険。政治献金。
逆言法 パラレプシス (paralepsis) 言わないといって実際には言う表現法。慣用的なものから滑稽なものまである。否定の逆説的な用い方。 言うまでもなく。お礼の言葉もありません。
修辞的疑問法 レトリカル・クエスチョン (rhetorical question) 形は疑問文で意味は平叙文という表現法。文章に変化を与えるだけでなく、読者・聞き手に訴えかけるダイアローグ的特質をもつ。 いったい疑問の余地はあるのだろうか。
含意法 インプリケーション (implication) 伝えたい意味を直接言うのではなく、ある表現から推論される意味によって間接的に伝える方法。会話のルールの意図的な違反によって含意が生じる。 袖をぬらす。ちょっとこの部屋蒸すねえ。
反復法 リピティション (repetition) 同じ表現を繰り返すことによって、意味の連続、リズム、強調を表す法。詩歌で用いられるものはリフレーンと呼ばれる。 えんやとっと、えんやとっと。
挿入法 パレンシシス (parenthesis) カッコやダッシュなどの使用によって、文章の主流とは異なることばを挿入する表現法。ときに「脱線」ともなる。 文は人なり (人は文なりというべきか)。
省略法 エリプシス (ellipsis) 文脈から復元できる要素を省略し、簡潔で余韻のある表現を生む方法。日本語ではこの技法が発達している。 これはどうも。それはそれは。
黙説法 レティセンス (reticence) 途中で急に話を途絶することによって、内心のためらいや感動、相手への強い働きかけを表す。はじめから沈黙することもある。 「……」。「――」。
倒置法 インヴァージョン (inversion) 感情の起伏や力点の置き所を調整するために、通常の語順を逆転させる表現法。ふつう後置された要素に力点が置かれる。 うまいねえ、このコーヒーは。
対句法 アンティセシス (antithesis) 同じ構文形式のなかで意味的なコントラストを際だたせる表現法。対照的な意味が互いを照らしだす。 春は曙。冬はつとめて。
声喩 オノマトペ (onomatopoeia) 音が表現する意味に創意工夫を凝らす表現法一般を指す。擬音語・擬態語はその例のひとつ。頭韻や脚韻もここに含まれる。 かっぱらっぱかっぱらった。
漸層法 クライマックス (climax) しだいに盛り上げてピークを形成する表現法。ひとつの文のなかでも、また、ひとつのテクスト全体のなかでも可能である。 一度でも…、一度でも…、一度でも…。
逆説法 パラドクス (paradox) 一般に真実だと想定されていることの逆を述べて、そこにも真実が含まれていることを伝える表現法。 アキレスは亀を追いぬくことはできない。
諷喩 アレゴリー (allegory) 一貫したメタファーの連続からなる文章 (テクスト)。動物などを擬人化した寓話 (fable) は、その一種である。 行く河の流れは絶えずして…。
反語法 皮肉、アイロニー (irony) 相手のことばを引用してそれとなく批判を加える表現法。また、意味を反転させて皮肉るのも反語である。 [0点に対して] ほんといい点数ねえ。
引喩 アルージョン (allusion) 有名な一節を暗に引用しながら独自の意味を加えることによって、重層的な意味をかもし出す法。本歌取りはその一例。 盗めども盗めどもわが暮らし楽にならざる。
パロディー もじり (parody) 元の有名な文章や定型パタンを茶化しながら引用する法。内容を換骨奪胎して、批判・おかしみなどを伝える。 サラダ記念日。カラダ記念日。
文体模写法 パスティーシュ (pastiche) 特定の作家・作者の文体をまねることによって、独自の内容を盛り込む法。文体模写は文体のみを借用する。 (例文省略)
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2018年08月06日

「ことばの波止場」

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和田 誠 著
白水社 出版

 有名なイラストレーターが書いた本なのですが、絵についてではなく、『ことば』について書かれています。子供のころから、ことば遊びが好きで、ことばに対する関心が高かったようです。

 子供のころに遊んだ替え歌についての考察は、考えさせられました。もちろん、好きな歌をおもしろおかしく替え歌にしたという例もありますが、著者の子供時代は戦争と重なる時期でもあり、何かを強いる歌をナンセンスな歌に替えて風刺をきかせていたという意見です。

 また、「クマのプーさん」の翻訳版を読み、原文をあたってみないと訳文だけではわからない翻訳もあると気づいたエピソードも考えさせられました。

◎The thing to do is as follows. first, Issue a reward.

 これは、イーヨーがしっぽをなくしてプーさんが探しにいく場面で、森のフクロウに相談したとき、フクロウが出したアイデアです。著者が小学生時代に読んだころ、この Issue a reward が懸賞にするという訳になっていたそうで、その直後プーさんが (フクロウはいま) 咳をしたでしょと言うのですが、話の前後が繋がらず、疑問に思ったそうです。高校生になって著者は原文にあたり、Issue の発音とくしゃみの音がかけてあったことに気づいたそうです

 エピソードとして驚かされるのはそのあとで、著者の小学校の同級生も同じ疑問をもって同じく原文にあたり、訳者である石井桃子氏に手紙を出し、『懸賞』を『薄謝』に変更するよう提案し、採用されたそうです。その同級生のことばのセンスにも驚きますが、行動力にも驚かされました。

◎A fly can't bird, but a bird can fly.

 こちらも著者が子供のころ疑問に思ったフレーズで、『スズメは はえないが ハエは すずめる』と訳されていて、bird と fly がそれぞれ『鳥』と『鳥を捕まえる』、『ハエ』と『飛ぶ』のふたつの意味をかけた遊びなのですが、『鳥』と『ハエ』を忠実に訳すことをとったために、日本語としては意味がわかったようなわからないような微妙な感じになっています。Cottleston, Cottleston, Cottleston Pie で始まるなぞなぞの部分なので、同級生のような名訳を目指して頑張ってみた著者も、なんともできなかったそうです。

 ことば遊びは、遊びといっても、なかなか奥が深いものです。
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2018年07月24日

「頭がいい人、悪い人の話し方」

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樋口 裕一 著
PHP 研究所 出版

 この本から何をどう学べばいいのか、戸惑いました。タイトルを見て、頭のいい人と悪い人の話し方の差異から、頭がいいという印象を与えるにはどういった話し方をすればいいのか、ヒントを得られるかと期待したのですが、実際は違っていました。

 頭が悪い人の話し方をいくつかのパターンに分け、それぞれ例を交えて説明したあと、そういった人たちにどう対処すべきか、自分がそういった人たちに該当しないかチェックするにはどうすべきか、といった内容が続きます。つまり、反面教師とすべき人たちの話し方だけが取りあげられています。

 頭が悪い人の話し方に関する説明に異論はありません。迷惑以外の何ものでもないといえる、わかりきった例があげられ、それほど周囲に迷惑をかけている人は頭が悪いと思うからです。しかし、そういった人たちへの対処は、正論であっても職場など上下関係がはっきりしている場で簡単に実践できるものではありません。また、この本で取りあげられているほど迷惑な人たちは、自らの行ないを自らチェックなどしないと思うのです。

 著者は、頭が悪い人の話し方がわかれば、頭のいい人の話し方も当然わかると書いていますが、その意見には賛成できません。タイトルに掲げている以上、頭のいい人の話し方も具体例をあげて説明して欲しいと思います。
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2018年07月04日

「この一言で「YES」を引き出す格上の日本語」

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山口 謠司
幻冬舎 出版

 これまでに読んだ日本語をテーマにした本は、多いほうだと思います。そのほとんどは、誤用 (あるいは正しい日本語) といった観点で数々の単語が紹介されたものでした。それらと違ってこの本は、ふたつの単語のニュアンスの違いを理解するとか、単語の来し方や単語を構成する漢字の本来の意味を知るとかといった視点で書かれてあり、わたしの目には新鮮に映りました。

 たとえば『日本』。『にほん』とも『にっぽん』とも読みますが、読み方がこれまで決められてこなかったのはなぜか、といったことが、発音の移り変わりとともに説明されています。

 もともと『日本』は、700 年頃『ニェットプァン』と発音されていたと推測されるそうです。『日本』とは、唐王朝から名づけられた国名であり、中国語で読めばそういう音になるというのが根拠です。そして繰り返し発音され『ニッポン』に変化したのではないかと考えられています。それが 1000 年頃『パ、ピ、プ、ペ、ポ』という発音が『ファ、フィ、フゥ、フェ、フォ』と変わったのを機に『ニフォン』へと変化し、さらに江戸時代に現在とほぼ同じ『ニホン』になったとされています。

 そして昭和の時代、1934 年に『日本』の読み方を『ニッポン』に統一しようという動きがあったそうです。力強く響く国名にしたいという軍の意向から生まれた案です。しかし、皇室を中心とした和歌の世界が促音を嫌い、濁点や半濁点、促音のない世界こそが和語の伝統だと反対し、統一されませんでした。

 ありとあらゆる外来語をカタカナで日本語に取りこんでしまっているいま『和語の伝統』の意味を問いたい気分ですが、反対があったからと、国名の読み方をはっきりせずにここまで来たのは、いかにも日本らしいと思えました。

 この『日本』に限らず、それぞれ丁寧な解説で新しい発見がありました。ただ、タイトルにある『格上』という観点には、疑問を感じました。日本語のなかに格上も格下もないと思います。
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2018年06月20日

「恋する日本語」

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小山 薫堂 著
幻冬舎 出版

 普段あまり使われない日本語、著者がちょっといいなと思ったことばを使って、短い恋のお話が仕立てられています。

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同窓会で、
昔のボーイフレンドと再会した。

帰る方向が一緒だったので、
タクシーでうちの前まで送ってもらった。
でも、着いたところで……
今の彼と偶然、はちあわせ。

彼は「今のは誰?」と
私に尋ねることもなく、
ただ、「おかえり」と笑顔で迎えてくれた。

私は彼の、そんなところが大好きだ。
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 このお話ができたのは、『赤心』ということばから。赤心は、「偽りのない心。人を心から信用して、 全く疑わない心」。

 とてもシンプル。世の中すべてがこれほどまっすぐならいいのに、と思うくらいに。
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