2018年04月09日

「オノマトペの謎――ピカチュウからモフモフまで」

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窪薗 晴夫 編
岩波書店 出版

 8人の専門家がそれぞれのオノマトペに関する論点を披露しています。とりわけ面白かったのは浜野祥子氏の『「スクスク」と「クスクス」はどうして意味が違うの?』と坂本真樹氏の『「モフモフ」はどうやって生まれたの?』です。

 ひとつめの『「スクスク」と「クスクス」はどうして意味が違うの?』。まず前提として、オノマトペでは、個々の音が意味を持っていると知る必要があります。聞いたことのないオノマトペでも、なんとなく言わんとすることが理解できるのは、そのせいです。しかし、「スクスク」と「クスクス」は、同じ音を同じ数だけ使っているのに、受ける印象が違うのが不思議だという意味で、このタイトルになっています。結論は、子音の位置が 1 番目になるか 2 番目なるかで、象徴するものが以下のように違ってくるというものです。

第 1 子音第 2 子音
k/g 硬い表面 空洞、上下、内外の動き 
t/d張りつめていない表面 打撃、接着
s/z流動体、滑らかな表面摩擦
p/b張りのある表面破裂

 以下は、オノマトペを訓令式のローマ字 (例外として撥音「ん」には N、 促音「っ」には Q) を使ってあらわした例文です。

(1) 子供が階段をストン (sutoN) と滑り落ちた。
(2) 大きな葉をバサバサ (basabasa) 切った。
(3) 濡れた紙が顔にペタッ (petaQ) と張り付いた。
(4) 名人は、刀で竹をスパッ (supaQ) と二つに切った。
(5) 酒をトクトク (tokutoku) 注いだ。
(6) きつつきが木の幹をコツコツ (kotukotu) つっついている。

s は、(1) の第 1 子音で「滑らかさ」を感じさせ、(2) のように第 2 子音になると、「運動」を感じさせています。
p は、(3) の第 1 子音で「張りのある表面」を感じさせ、(4) の第 2 子音では「破裂」を感じさせています。
t は、(5) の第 1 子音で「弛緩した表面」を感じさせ、(6) の第 2 子音では「外に出る運動」をあらわしています。

 ひとつひとつ説明されると、オノマトペの場合、聞いたことがなくてもかなり正確にニュアンスが汲みとれるのは、気のせいではないと納得できます。

 次に『「モフモフ」はどうやって生まれたの?』。『「スクスク」と「クスクス」はどうして意味が違うの?』を読んだあとだったので、最近まで存在しなかった「モフモフ」という表現が伝える感触が瞬時に理解され、広く使われるようになった事実を容易に理解することができました。

 それでも、紹介されていたオノマトペの数値化プログラムには驚きました。ひとつのオノマトペを入力すると、明るいと暗い、暖かいと冷たい、厚いと薄いなど 43 の反意語ペアそれぞれに 0 から 1 の範囲の数値が表示されます。モフモフを入力すると、『やわらかい』が 0.82、『(『鋭い』の反意語としての) 鈍い』が 0.57、『(『シャープな』の反意語としての) マイルドな』が 0.56、『暖かい』が 0.54、『(『薄い』の反意語としての) 厚い』が 0.44、『(『激しい』の反意語としての) 穏やかな』が 0.42 といった納得できる数値が並んでいます。ここまで数値化できると示されると、わたしたちが音に対して何かを感じていると思っても、感性などまったく関係なく、理詰めで考えているのではないかと思わずにはいられません。
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2017年09月14日

「日本語でどづぞ」

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柳沢 有紀夫 著
中経出版 出版

 タイトルは、ケアンズの射撃場が出していた広告の間違いだそうです。オーストラリアの観光地でこんな間違いが見つかるのかと驚いて見たところ、この本の出版は2007年と、古い情報のようです。

 いまは、翻訳ソフトの精度もあがり、ソフトの出力をコピペすれば、この手の間違いは避けられ、実際同僚の外国人のなかには、日本でタクシーに乗って行き先を伝えたり、ちょっとした依頼を告げるとき、すべて翻訳ソフトで間に合わせている人もいます。そういった時代の流れを考えると、何とかして日本人観光客の気を惹こうと頑張ったものの、驚くような日本語の間違いを披露する羽目になった光景が目に浮かぶと懐かしい気分になります。

 ただ、そこに日本語を使う必要があるのかと疑問に思うケースもかなりあり、著者も紹介例の『多くは日本人ではなく、基本的には現地の人を対象にした商品』と認めています。では、なぜ日本語を見てわからない人々のためにわざわざ日本語で表記するのかを、著者は『「日本語はカッコいい」と思っているからにほかならない』と説明しています。著者がいた広告業界では、意味がわからなくてもおしゃれに見えるものを「単なるデザインエレメンツ」と呼び、日本では英語を「デザインエレメンツ」としていたという例を挙げています。根拠薄弱な説明ではありますが、否定する根拠もありません。なにしろ日本でも意味不明な英語が氾濫していたのは事実ですから。

 著者のこの考察は、わたしにとって興味深いものではありますが、この本の扱いとしては、こうなった原因を考えるのではなく、あれこれツッコミながら、笑って読むのが正解だと思います。
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2017年07月27日

「ことばの教養」

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外山 滋比古 著
中央公論新社 出版

 ことばに関する考察のエッセイがまとめられた書籍です。興味が湧いた話題が2点ありました。

 ひとつめは、句読点です。以下の文は、句点(。)と読点(、)の使い分けに用いられた例文です。

ひとりぼんやり考えた。このままではしかたがない。何とか動き出す必要がある。それには、しかし先立つものがほしい。それをどうするか。そのとき台所の方でガタンという大きな音がした。われにかえってあたりを見回す。

 上記の「ぼんやり考えた」内容は、どこまでかと著者は問うています。答えは、「それはどうするか。」という文までです。日本語を母語としない読者を想定すれば、考えた内容を「このままではしかたがない。」までとする解釈もあり得るとして、以下のように読点を用いることを検討しています。

ひとりぼんやり考えた。このままではしかたがない、何とか動き出す必要がある、それには、しかし先立つものがほしい、それをどうするか。そのとき台所の方でガタンという大きな音がした。われにかえってあたりを見回す。

 著者は、このような読点の使い方を推奨しているわけではありませんが、おもしろい考察だと思いました。

 ふたつめは、ことばの当たりに関する話題です。コカ・コーラのうたい文句であるドリンク・コカコーラ(コカコーラを飲め)を例にあげて、日本人はつよいことばをはばかると著者は主張しています。このうたい文句が世界中でその国のことばに訳されて使われているのにもかかわらず、日本だけは命令形が受けつけられず、"スカットさわやかコカコーラ"になったというのです。

 著者は、こういったつよいことばをはばかる慣習を重んじ、ことばの当たりをソフトにするよう提言しています。そのとおりだと思ういっぽう、著者が「イエスかノーかをはっきりさせる」ことと「マアマア、どうぞよろしくのアイマイ」を対立させて考え、「イエスかノーかをはっきりさせる」こととソフトな当たりが相容れないような印象を与えていることが残念でした。
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2017年06月22日

「もっと声に出して笑える日本語」

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立川 談四楼 著
光文社 出版

 笑える言い間違いなどが軽妙なツッコミで紹介されている「声に出して読みたい日本語」をもじった本です。

 頑張って思い出したものの間違えてしまった、滑舌よくいくはずが上手くいかなかった、そういったものも面白いのですが、普段パソコンに向かっているばかりなので漢字の誤変換が一番笑えました。頭をひねって考えたのか体験談をまとめたのか不明ですが、もし誰かの体験だとすると、日本語入力ソフトも文節単位で入力されると困るのだろうと、外国生まれであろうソフトウェアに思わず同情してしまいました。

正:共済課の鈴木様
誤:恐妻家の鈴木様

正:テレビの発する情報
誤:テレビのハッスル情報

正:根気よく待った甲斐があった
誤:婚期よく待った甲斐があった

正:君といると超幸せだよ
誤:君といると調子合わせだよ

正:だいたいコツがつかめると思います
誤:大腿骨がつかめると思います

正:誰かビデオとってるやついないか
誤:誰か美で劣ってるやついないか

正:あなたの顔何回も見たい
誤:あなたの顔何か芋みたい

 最後に、すごく納得したものの、頭で理解できなかったのは、以下です。
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 木の上に鳥がいる。さて鳥はどこに?
 あなたはどこにいると思いますか。木の上空、木の天辺、木の枝。この三つが考えられるわけですが、これ誰も間違えないんだそうで、十人が十人、木の枝と答えるそうです。私もそう思いましたが、あなたも?
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 わたしも木の枝しか思い浮かびませんでした。でも、日本語を勉強している外国人に対して説明らしい説明ができるとは思えません。なぜなんでしょう。
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2017年06月09日

「お笑い」日本語革命

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松本 修 著
新潮社 出版

全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路」の著者です。新しいながらも日本語としてすっかり定着したことば、あるいは一般的には使われなくなった時期を経て再び頻繁に使われるようになったことばなどのうち、漫才や落語といった芸能がきっかけで広まったことばを検証していく内容です。革命というと少々大袈裟ですが、ことばの歴史とお笑いが密接に関係してきたことは確かなようです。

 検証されたことばは、以下です。

(1) どんくさい
(2) マジ
(3) みたいな。
(4) キレる
(5) おかん

 著者は、ことばに対する探究心だけでなく、朝日放送勤務という、過去の放送資料の閲覧や芸能人を相手にしたフィールドワークが実施しやすい立場も持ちあわせていて、芸能が日本語に与えてきた影響を掘りさげて検証するのに適任だと思いました。説得力ある構成で鋭い分析が披露されています。

 唸ってしまったのは、地域や世代による認識のずれに対する指摘や、最近の若者ことばと捉えられていることばが年配の知識人たちにも受け入れられているという例証です。

 いちばん驚いたのは、あの丸谷才一が(3)の『みたいな。』を使って対談した内容です。

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丸谷才一 そうそう、吉行・円地文子・小田島雄志で。
和田誠  三人に迎えられるんですよ。
丸谷才一 そう。あれは何だか、いじめられに出ていくみたいだったな(笑)。敵がすごいんだよね。あの三人、八岐大蛇みたいな(笑)。
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 いちばん意外だったのは、(5)の『おかん』 が、つい最近使われるようになった新しいことばではなく、時代とともに変化し、『おとん』というペアがあらわれた興味深いことばだったことです。

 読み応えのある本で、楽しい時間を過ごせました。
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