2006年10月23日

「本とその周辺」

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武井 武雄 著
中央公論新社 出版

 このブログを始めるとき、テーマに本を選んだのは、やはり本が好きだからだと思います。でも、本が好き、と言いながら、本がどういうものだか、一度も考えたことがないのではないか、と思うようになりました。

 「」を読んだときも、本の部分部分にもきちんと名前があり、その素材やデザインなどに思いが込められて世に出てくるのだと、今さらながら思いが及んだ自分に呆れてしまいましたが、今回はそれ以上のショックを受けたように思います。

 「本とその周辺」の著者、武井武雄氏は、戦中および戦後の物資のない時代に、豆本と呼ばれる小型本を私刊本として世に送り出し続けた方です。武井氏の本に対する思い入れの深さはこの本1冊を読むだけで十分過ぎるくらい伝わってきます。

 武井氏はこの本の中でこう書いていらっしゃいます。「私のところへ来て私刊の豆本をごらんになるお客さんが、十中七八までは表紙や見返しは見ないで本文の第一頁から見出すので、そのうちまず上等の部類で最後に表紙を一寸おまけとしてみるくらいのものである。」私もその仲間に入ってしまいます。本は読むもの、その中の文章のみに意味があるもの、という考えが染み付いているように思います。そのような習慣に至った経緯、つまり何か考えたという記憶さえないのです。

 武井氏は、その理由をこう書いています。「本は読むものという観念が実に牢固としてしみついていて、本全体が一つの綜合作品だなどという事は夢にも思ってみないのだ。」私に限っていえば、その通りです。

 私は、一冊の本を出すまでに注がれた思いをちゃんと受け止めていないんじゃないか、と不安でいっぱいになりました。

 その一方で、武井氏の豆本を一度でいいから手にとって見てみたいという思いが湧いてきました。物資の乏しい時代に、採算や時間の制限を考えることなく、本を通して新しいことを新しい方法で次々と表現し続けた彼の綜合作品に対する興味は尽きません。

 武井氏のような一生を垣間見ると、私の一生は無駄の塊にしか思えず、憧れを感じながらも落ち込んでしまいます。
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2006年08月01日

「古本道場」

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角田 光代、岡崎 武志 著
ポプラ社 出版

 関西から東京に引越してきて、今までより不便になったと感じることも稀にありますし、物価の高さに辟易することもあります。その一方で、東京って楽しい、と思うこともたくさんあります。その中でもノンフィクションの本を今まで以上に楽しめるようになったことがあげられます。

 もちろん、大阪にもそれなりに大きな本屋は多数ありますし、10年前と違って、オンライン書店があるので、東京と大阪で手に入る本が大きく違うとは思いません。何が違うかと言えば、本を読んでそこに簡単に行ってみることができるケースが多いのです。たとえば、「かみさま」を読んで、その中で紹介されている美篶堂やpress sixに実際に行ってみることができるのです。

 本で紹介されているから、大きなお店を想像して足を踏み入れてみたら、「こんなに小さいんだ」と自分で「感じる」ことができるのです。

 そんな風に楽しめる本にまた出会いました。「古本道場」です。世界に誇る古書街である神保町に毎週でも行ける距離にいるのだから本好きとしては存分に楽しまねば、と思いながら、なかなかそこまでには至りません。とりあえず、「神田神保町古書街―エリア別完全ガイド」で、どこのお店にどんな本があるのかがわかり、ある程度買い物もしてみたのですが、どうもしっくりきません。

 角田光代さんは私ほどレベルは低くないのですが、やっぱり神保町を歩くと「よそ者感」を覚えてしまっていたそうです。そんな角田さんが古本に精通している岡崎武志さんという師匠を得て、古本を極めていくというのがこの「古本道場」の構成です。そして、個性豊かな古本屋、惹かれる古本たちに出会い、あの巨大な神保町に居てもよそよそしい感じを受けなくなっていくのです。

 本の中では、岡崎師匠から角田さんに指令がくだされます。その指令を角田さんが遂行した経過を角田さん自身が書かれる章があり、その成果を評価しコメントする岡崎師匠の章が続きます。もちろん岡崎師匠の章の最後には次の指令が書かれていて次へと続く、という交互の構成になっています。全部で指令は8種類。

 もちろん神保町だけではありません。こんなところに古本屋があるんだと驚く土地も出てきて、それぞれの個性を放っています。そして、探す本も子供の頃に出合ったなつかしい本だったり、古本屋がある土地を出身地とする文士の本だったり、バリエーション豊かです。

 そして何よりも、ひとつひとつの課題をこなす中で角田さんの見せる古本屋や古本に対する観察がとてもいいのです。

 「棚におさめられた本は、みな一度はだれかに読まれ、そのだれかを作り上げるちいさな細胞のひとつになり、そしてここにきました、という感じ。」と角田さんは古本のことを見ています。

 なんとなく私が本を好きな理由もそのあたりにありそうです。空っぽの私を少しずつ埋めて、作り上げてくれる本。そして、一度はその役目を終えた古本が新たな出発を迎える場所、古本屋。

 私の古本屋と古本探しは、まだスタート地点です。
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2006年07月26日

「本」

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永江 朗 著
プチグラパブリッシング 出版

 オンライン書店ではない街の本屋で支払いをするとき「カバーをお掛けしますか?」と聞かれると、「はい。お願いします。」とカバーを掛けてもらいます。本が汚れるのを防いでくれますし、通勤電車の中で本を読むときに、何を読まれているのか知られるのも防いでくれて便利だと思うからです。やはり、はじめてシリーズとか誰にでもわかるシリーズを読むときは、どこかでちょっぴり恥ずかしいのです。

 本を読み終わったら、その本屋のカバーをはずさず、その背の部分にタイトルを記入し、中身が何かわかるようにして、本棚に立てます。もちろん、本屋で購入する際、本のカバーを見ていますが、その後は見ていません。さらにいえば、本のカバーを外して、本の表紙は一度も見ていないことのほうが多いと思います。

 今回、初めて、本のカバー、表紙、見返しなどをまじまじと真剣に見てしまいました。帯には「帯 マットコート 四六判 110Kg 2C刷」、カバーには「NTストライプGA 新スノーホワイト 四六判 135Kg 3C刷」、見返しには「見返し コニーラップ ホワイト ハトロン判 92Kg 2C判」と書かれていました。本を読んだ後の私にはわかることですが、読む前の私にはちんぷんかんぷんだった言葉の羅列です。

 そんなことが書かれていたのは、この「本」。タイトルのとおり、本のことを多岐にわたり紹介している本なのです。自分では本が好きと思いながら、その本の部分部分の名称、その本を作る工程、流通する過程、過去において出版業界に多大な影響を与えた有名人物や有名書物、出版社の種類と知らないことだらけなのに驚いてしまいました。この本は、本の見開きでひとつのトピックを扱う形式をとっているので、ある程度浅い内容にはなってしまいますが、かなり広い範囲のことが取り上げられています。

 これを読むと本に対する視線が少し変わります。カバーを取って表紙を見たくなったり、天地の空きを確認したり、文字の大きさやフォントが気になったり。その本を扱う書店の個性を考えてみたり、行ったことのないタイプの書店を探してみたり。

 作る人たちのこだわりがあって1冊の本ができていること、いろんな人の手を経て私の手の中にこの本が来たことを思うと、より本が好きになりました。
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2006年06月14日

「神田神保町古書街―エリア別完全ガイド」

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毎日新聞社 出版

 関西から関東に引っ越してきて、「そんなに集まらなくても・・・」と思ったのが、月島のもんじゃ焼き屋と神保町の古本屋。同じお店がここまで大規模で集まっているのを見るのは初めてだったので、圧倒されました。

 特に、月島の地下鉄の駅から上がってすぐのところで、「お店はお決まりですか?よかったら、ご紹介します。」と元気よく声を掛ける人々には驚きました。つい、「え?あ、いえ。」みたいな、訳のわからない返事を返してしまい、結局は、なんとなく繁盛してそうな雰囲気のお店に吸い込まれてしまいます。

 一方、神保町では、駅に近いところから、一軒一軒、お店を覗いてしまいます。でも、欲しい本に巡り合うまでに、足が棒になって、「こんなにたくさんお店があっても、好きな本があるお店がわからないと、お店がないのとあまり変わらないなぁ。」とへたり込みそうになってしまいます。

 この「神田神保町古書街」は、そんな私が神保町で見つけたガイドブックです。それぞれのお店が得意とする分野やこだわりが、紹介されています。私が探していた本を扱うお店もこのガイドブックで見つけました。各本屋紹介や古書街マップのほか、古本屋に関連する読み物もあり、楽しめます。中でも、「神保町古書街看板娘 VS マドンナ対談」という若手女性の対談では、色々古本屋さんの事情が垣間見れます。私が「そうそう」と強く頷いてしまったのは、古本屋には、週末は休むし、夕方は早く閉めるし、普通の会社員が行けない店が多い、というものでした。

 「そうだ、そうだ。もっと商売っ気を出して、土日も夜も営業して、月島みたいに探しているお店を案内するくらいのサービスを考えてー。ガイドブックなんか売らないで〜。」と心の中で叫んでから、気が付きました。
 あ、本を売るのが商売だから、それでいいんだ。
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2006年06月05日

「本屋大賞2006」

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本の雑誌編集部
本の雑誌社 出版

 日本のバブルがはじけたとき、私は情報システム産業でシステムエンジニアと呼ばれる仕事をしていました。なんとか1人前の仕事はできるけど、まだまだ駆け出しで、給料も最低ライン。労働組合に入っている典型的な平社員でした。こんな私が会社の人員整理対象になるなんてことはありません。でも、私の周りでは人員整理は行なわれました。整理を決めた方の中には、クライアントの中から比較的人員の多い情報システム部署を持つ企業に対し、システム開発ノウハウのある整理対象者を受け入れてもらえないか調整していた方も居ました。しかし、実際に受け入れ先が見つかりそうな方の中には、その申し出を断ってコンビニエンスストアのフランチャイズオーナーになられた方もいらっしゃったと聞きました。

 システムエンジニアといえば、3K職種で、長く続けられない仕事のひとつです。日本経済が右肩上がりの成長期には、システムエンジニアの次は管理職、と漠然と考えられていましたが、バブルがはじけたとき、それはありえないと、末端の私でさえ思いました。お金を貯めたら、コンビニエンスストアの店長になれるかもしれないけど、潰さないようにやっていけないだろうなぁ、などと思ったことを覚えています。「いつ」「どこへ」「どうやって」キャリアチェンジしていくのか、この大きな課題がこの時以降ずっしりと重く私の心の隅に居座り続けるのでした。

 この本屋大賞というのは、本屋が売りたいと思う本、という視点から現役の書店員が選ぶ大賞です。そういう説明だと、売れている本と本屋が売りたい本は別、という主張をなんとなく想像してしまうのですが、2006年に1位から11位にランキングされている本を見る限り、売れている本と売りたい本に大きな差はないと結論付けてしまいそうになります。この本の内容としては、まず、ランク入りした本に対する書評(現役書店員の投票にあるコメント)がこれでもか、というくらい載っています。次に得票数は少ないもののぜひ紹介したい本に対する書評があります。どれも一個人としての感想で、一読者として参考になります。

 そのほかで、私が個人的に興味を惹かれたのは、紙幅は本当に限られているのですが、この大賞に対して投票した書店員の方々についての紹介です。大体男女同数の割合で、年齢は20代および30代中心になっています。書店員の低い賃金では40代以降も働き続けることは難しい環境下にあるのだとか。書店員もシステムエンジニアと同じく、中高年になっても続けるのは困難な職種なのだと意外な本で知りました。

書店員の方々はどんなところへ、どうやってキャリアチェンジをされていくのでしょうか。
posted by 作楽 at 23:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(本) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする