2009年01月05日

「The Curious Incident of the Dog in the Night-Time」

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Mark Haddon 著
Vintage Books 出版

 24時を7分過ぎたとき、Shearsさんの家の庭で、飼い犬のWellingtonが殺されているのを見つけた。鋤のようなものが突き刺ささっていた。

 主人公のChristopherがそう語るところから始まるこの物語で、一番個性的なのは、語り手です。Christopherは、アスペルガー症候群と診断されています。数字(数学)に強い一方、見知らぬ人と一緒の空間に居たり、ハグしたりなどの人との接触に強い抵抗を示します。

 そんな個性がさまざまな面で発揮されているこの本、独特のペースと語り口調で進められていきます。まず、数字に強いChristopherは、本の章を1から順番に数えるのではなく、1から順番に素数だけで番号をつけていきます。また、そこまで細かく描写しなくても、と思うほどの細かさです。たとえば、牧場の風景でも、牛の色別の正確な頭数に始まって、それぞれの牛の模様なども描かれています。まるで、その瞬間瞬間を頭の中のカメラに収めているようなものです。

 そんなChristopherが年齢を訊かれたときの答えは「15歳3ヶ月と2日」といった感じで、すべて正確でなければ落ち着かないのです。だから、Wellingtonが刺されているのを見つけたのも真夜中ではなく「24時7分」なのです。そして、そのWellingtonが好きだったChristopherは、Wellington殺害の犯人を見つけると決めます。

 そして、いつしかその犯人探しは、自分探求に変わっていきます。母親との関係、父親との関係、自分自身の将来。そして、最後に大きな自信を勝ち得ます。なんとなく、平均的な人とは違う個性を持っている少年だけに、応援したくなる気持ちが湧き起こってくるような本でした。

 まだまだ脳の分野ではわからないことが多いだけに、世の中多種多様な人がいて、それぞれの人生を歩んでいるということを実感させてくれる良書です。
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2008年11月11日

「Luna」

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Julie Anne Peters 著
Little, Brown Young Readers 出版

 主人公のLunaは、性同一性障害の17歳少女(身体は少年で、名前はLiam)。この本の語り手は2歳年下の妹、Regan。

 主人公のことを思っても、語り手のことを思っても、せつない気持ちになってしまいます。

 読んでいるあいだ思い浮かんだことばは、期待と対照。

 Liamは、本当は少女らしく振舞いたい、化粧もしたいと熱望しながら、期待された役割、少年という役割を演じることを強いられます。

 一方、Reganは、Liamから秘密を守ることを期待され、Liamがほんのいっとき少女を演じるために協力することを期待されます。

 このLiamの対照となるのが、このReganであり、彼らの母親です。Reganは女の子でありながら、アイロンのあたっていない皴くちゃな服を着たり、アルバイトを口実に母親の家事手伝いを断ったり、自分が期待されている少女という役割にあまり頓着していません。また、母親は、よき妻、よき母であることを期待されていながら、あることをきっかけに、それらの期待から逃げ出し、今では仕事中心の生活をしています。

 一方、Reganの対照となるのは、アルバイトでベビーシッターをしている家庭、Matera家です。普通でないLiamの秘密に押しつぶされそうになっているRegan、母親が以前のようにお弁当を作ってくれなくなったReganにとって、絵に描いたような夫婦に、人形に興味を持つ女の子、恐竜に興味を持つ男の子の一家は普通そのものです。

 さまざまな期待や、自分がみじめに思えてくる対照に囲まれながらも、特別なできごとが起こるわけではありません。すべてが日常ありふれたできごとばかりです。ただ、Liamが実はLunaだという一点をのぞいては。

 せつない気持ちになるストーリーですが、最後には希望が見えてきます。この本を通してLunaに寄り添ってきた読者は、きっと新しい旅立ちを祝福したい気持ちになるでしょう。そして、それまでLunaを支えてきたReganを褒めてあげたくなることと思います。
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2008年07月14日

「Escape From Memory」

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Margaret Peterson Haddix 著
Simon Pulse 出版

 「Double Identity」と同じ作者だけあって、先が気になってページを繰らざるを得ないような展開になっています。

 物語は、英語ではないことばの会話で始まります。そのことばは、母親が赤ん坊をあやしている声です。その背景には銃のような音が聞こえています。

 いきなり銃の音が背景に聞こえてきて、どんな展開になるのかと一瞬思ったのですが、すぐに場面は移り、15歳の少女が、遊びで友たちにかけられてしまった催眠術から目覚めます。主人公は、この少女です。彼女はこれをきっかけに、催眠術中に自分が口にした知らないことばのこと、母親のこと、などを疑問に思い始めます。そこから、母親が少し変わった習慣や習性をもつこと、父親がいないこと、母親が運転しないにも関わらず車があること、など周辺のことが見えてきます。何かありそう、と思わせる展開で進んでいきます。

 「Double Identity」と同じ作者と思って読み始めたからか、ふたつの物語に共通点が多いことに気づきました。

 たとえば、主人公の少女がひとり娘で、親が目の前からいなくなってしまい、その瞬間からひとりぼっちになってしまうこと。主人公の出生の秘密がつきまとうこと。そして、敵となる存在がいることはわかっても、その相手のことが見えないこと。その上、その相手が見えてからも、何を求めて主人公につきまとってくるのかが、最後の最後までわからないこと。物語の底辺に先進技術があるからこそ、成り立つストーリーだということ。

 伏線がめぐり張らされていて、展開が二転三転しても、なんとなく納得してしまう点も、似ている点といえばいえると思います。

 共通点が多いので、いろいろ比較してみましたが、ひとことでいえば、「Escape From Memory」よりもやはり、「Double Identity」のほうがおもしろいと思いました。「Escape From Memory」は現代の技術との乖離が大きくて、それは無理だろうと思ってしまったりして想像を阻害する要素があるのですが、その点で「Double Identity」は有利だと思います。(「Double Identity」のほうの技術をまったく知らないのでわたしの知識範囲の問題かもしれませんが。)

 この作家が、ほかにも似たような作品を発表しているのかなと思い調べてみたところ、ベストセラー作家のようだとわかりました。シリーズものもあるようなので、機会をみてまた読んでみたいと思いました。
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2008年06月12日

「Groosham Grange」

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Anthony Horowitz 著
Walker Books Ltd 出版

 Anthony Horowitzは、わたしが名前を憶えている数少ない外国人作家のひとりです。そのユーモアが好きで、今までも何冊か読んでいます。今回もAnthony Horowitzらしく、なんとも変わった家庭の子どもDavidが主人公です。

 まずDavidの両親が変わっています。父親は自分が受けたスパルタ教育を肯定し、息子にも同じように厳しくし、学業面で優秀な成績をおさめるよう強く言い張ります。父親はあまりの体罰から車椅子の生活になってしまったのに、同じことを繰り返そうとするのです。誇張の第一歩というところでしょうか。次に母親は、そんな夫に完全服従です。傷を負わされても、ただじっと耐えるのみです。

 そんな環境にいるDavidは、次々と学校から追放されてしまいます。そして、そんな中に舞い込んできたのが、ある全寮制の学校(Groosham Grange)からの勧誘。父親はその案内に飛びつき、その日のうちにDavidは学校に追い払われてしまいます。

 Davidが通うことになった学校は、海に隔たれ、船がなければどこにもいけない場所にあります。それだけでも一風変わっています。その上、この学校にはほかにも不思議なことがありました。まず、先生が普通の人間のように見えません。もう何百年も生きているように見える先生や陽の光に当たることができない先生などです。対する学生も変です。みな進んで勉強し、いじめなどがまったくありません。さらにおかしなことに、学生たちが名乗る名前とそれぞれの持ち物に書かれている名前が違うのです。なぜ、他人の名前を名乗るのでしょうか。あるいは、他人の名前が入った衣服を身に着けているのでしょうか。

 そうこうするうちに、学校の中に不思議な空間があることがわかります。そして、その空間に、全学生が夜中になると集まっているのです。彼らは何をしているのでしょうか。Davidは怖い目に遭いながらも、いろいろ調べあげていきます。そして、わかった学校の秘密。そこは、魔法使い育成所だったのです。

 今回も、怖い雰囲気を醸し出しつつユーモアも感じるAnthony Horowitzを楽しめました。最後のDavidの決断。わたしが子どもでも同じことをするだろうな、と思ってしまいました。
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2008年06月05日

「Walk Two Moons」

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Sharon Creech 著
Trophy Pr. 出版

 「The Midnight Diary of Zoya Blume」を思い出しました。たぶん、母親に対する切ない少女の思い、という共通点があったからでしょう。

 ただ、全体としては、「Walk Two Moons」のほうがよかったです。ひとつは、サスペンスかのように、ひとつひとつの疑問が解けていく展開が楽しめました。あと、主人公の少女Salamancaの成長がより大きくて、より感動できました。Salamancaは、いろんな方法で自分自身の中で考察を重ねていきます。自分と似た経験をした少女を第三者的に眺めたり、差出人不明のカードに書かれた不思議なメッセージを自分の経験に照らし合わせてみたり、周囲のおとなの気持ちを自分の気持ちから推し量ろうとしたり。その一歩一歩進んでいる姿を見て、微笑ましく感じたり、励ましを送りたくなったりします。そして、何よりも、死という誰もが避けられない壁に向かう彼女に、自分にはない逞しさを見て、逆に励まされてしまうのです。

 十代を読者として想定している本にも関わらず、かなり感情移入してしまいました。たぶん、あちらの視線になったかと思えば、こちらの視線になったりと、感情移入しやすい対象が多かったのだと思います。

 もちろん、一番感情移入してしまったのは、主人公のSalamancaに対して。それは、十代という年代がわたしにとって、やり直したい年代であることも関係していると思います。自分でも不思議ですが、わたしの十代の内面は空虚だけに支配されていたのではないか、と今は思えるのです。精神的に成長したとか、葛藤したとか、そういう記憶がほとんどありません。もちろん個人差はあると思うのですが、自分自身の十歳になるまでと、二十代を考えても、何もなかった気がします。もしも、わたしが十代もう少し考えることに時間を費やしていたとしたら、もしも、この主人公と似たようなことを考えていたらと、「もしも」の世界にはまってしまい、今となっては取り戻せない自分を想像してしまうことが多々あります。こちらは、過ぎ去りし日々の後悔です。

 もうひとつは、後悔と反対の希望です。どんなに頑張っても過去のことは変えられません。でも、未来は変えられます。この本を読んで、わたしはSalamancaの祖父母のような年齢の重ね方をしたいと思いました。Salamancaと一緒に旅をするおじいちゃんとおばあちゃんは、無邪気に旅を楽しんでいるように見えるのですが、もちろんそれだけではありません。おおらかな優しい気持ちで彼女を包み込んでいます。子どもとおとなという区切りを感じさせません。子どもであっても、ひとつの別の人格として尊重しているのがよくわかります。こういう本を読むと、わたしもそういうおとなでありたいと思います。普段から心掛けられているわけではありませんが。

 自分ができなかったこと、自分が今できていないことを仮想で体験する。それも小説の愉しみのひとつです。これは、そういう愉しみが成り立つ本でした。
posted by 作楽 at 00:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 洋書(Young Adult) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする