2017年04月07日

「通い猫アルフィーの奇跡」

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レイチェル・ウェルズ 著
中西 和美 訳
ハーパーコリンズ・ ジャパン 出版

 動物が語る小説としては、犬が主人公の『名犬チェットと探偵バーニーシリーズ』が好きですが、この作品の語り手であるアルフィーは、チェットとは違って、飼い主に死なれてしまったかわいそうな猫です。不遇な時期にあっても堅実かつ勤勉に生活を立て直そうとする前向きな姿勢が、とても健気です。しかも、エサを前にして我を忘れてしまうチェットとは違って、人間の心理を鋭く分析しつつ、計画的に自分の家族を助けようと奔走します。

 そんなしっかり者のアルフィーですが、捕まえてきたネズミを持ち帰るという人間にとっては甚だ迷惑な贈り物を繰り返したり、あまり仕事のできないビジネスパーソンのように『忙しい』を連呼したり、意外な面を見せたりもします。随所にユーモアが感じられ、ほのぼのとした気分に浸れるので、風邪をひいて横になっていたときの読み物として最適でした。

 少子化が進む日本では、猫と犬を合わせたペット人口は、子供の人口を軽く上回ると言われているだけに、読めば癒されるこんな作品が増えるのかもしれません。
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2017年03月24日

「トレント最後の事件」

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E・C・ベントリー (E. C. Bentley) 著
大久保 康雄 訳
東京創元社 出版

 帯に『乱歩が惚れた大傑作』とあります。半世紀以上にわたって読み継がれている作家、江戸川乱歩が高く評価したのも頷ける作品です。

 妻とはこうあるべきといった常識、携帯電話ではなく電報が最速の通信手段であるといったインフラ、指紋採取が最先端だという科学捜査、さまざまな面で古さを感じるのですが、ストーリー展開は、古さを感じさせるどころか、いまでも斬新にうつります。

 この作品の探偵役は、新聞社から派遣されたトレントで、実業界の大物の死を調査します。トレントは、ほかの探偵同様、精力的に証拠を集め、推理を巡らせ、ひとつの結論に達します。通常の探偵小説なら、探偵役が推理を披露して、犯人が特定された時点で、結末を迎えます。この作品の場合、探偵が新聞社から派遣されている関係で、警察を出し抜いて真実を新聞で報道しようとトレントは文章をしたためます。その記事が新聞に掲載されると思いきや、まったく異なる道をたどります。さらに、これで一件落着と思ってから、またひとつ読者の予想を裏切るできごとが起こります。

 そういった基本展開を裏切るストーリーであるにもかかわらず、プロットに無理が感じられません。トリックを開陳するためだけの推理小説と違って、心理面でも辻褄があうよう巧みに作りこまれています。

 探偵が結論を出した中盤以降が、特に楽しめました。
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2017年03月07日

「失踪者」

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シャルロッテ・リンク 著
浅井 晶子 訳
東京創元社 出版

『疑心暗鬼を生ず』ということばがありますが、そういった心境に似た思いで登場人物の誰も彼も疑ってしまうくらい、犯人が誰だかわかりませんでした。いかにも犯人といった特徴の人は、下巻に入ってから疑いの目を向けられなくなってしまい、犯人ではないという印象をもつ登場人物に目を向けざるを得なくなったからです。ミステリ作家の思惑どおり「はやく結末が知りたい!」と先を急ぐ始末です。

 それだけでもじゅうぶんに作品として成功しているのですが、この作品では、謎を解く立場にあるロザンナやその周辺人物の心理描写が巧みで、それぞれの望み、焦り、疑い、怒りなどの感情に共感してしまい、犯人探しがさらに難しくなります。

 そして最後に「そういう可能性があったのか!」と唸ってしまう結末が待っています。最後の最後に本音が出てくるあたりは、辛い事情や感情の機微がそれまでの描写を活かしたかたちで描かれ、さらに惹きこまれました。

 登場人物の心理描写が巧みなこと、社会的な問題に触れていること、登場人物それぞれが自分が抱えている問題に向き合い成長していくことなどの要素が以前読んだことのあるアンナ・ヤンソンの「消えた少年」に似ている気がしますが、こちらの結末のほうが、ずっとリアリティがあり、犯人探しの面ではすっきりできました。
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2017年02月25日

「聖エセルドレダ女学院の殺人」

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ジュリー・ベリー (Julie Berry) 著
神林 美和 訳
東京創元社 出版

 物語の舞台は、1890年のイングランドのイーリー。聖エセルドレダ女学院というのは、大きな屋敷に住む未亡人が自ら校長をつとめ、たった7人の女生徒を引き受ける寄宿学校(フィニッシングスクール)です。

 わたしが好きなコージーミステリだと思って読み始めたものの、すぐさまその展開にとまどってしまいました。タイトルにあるとおり、寄宿学校で殺人が起こったのですが、女生徒たちは遺体を見つからないように埋め、殺人があった痕跡を隠そうと躍起になり、次から次へと嘘を繰り出していくのです。『素人探偵はどこに?』そんなわたしの疑問をよそに、ありえない幸運に次から次へと恵まれた生徒たちは、おとなのいない学校生活を続けます。そんななか、7人の生徒のうち、リーダーシップを握る生徒が財務責任者に、最年少の生徒が探偵に仲間内から任命されます。その12歳の探偵に調査らしいことができるはずもなく、物語はどんどん進み……。

 嘘に嘘を重ねる生徒たちが一番会いたくない人が大詰めに登場し、あらたな悲劇が起こり、物語がどこに向かっているのか、予想もつかなくなったところで、しゅるしゅると大団円へと収束していきました。意外性に満ちてはいましたが、消化不良を起こしそうなシュールな流れについていけませんでした。コージーミステリでも、もう少しリアリティが欲しいと思う筋書きだったので、この続編が出されても読むことはないと思います。
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2017年02月22日

「四人の交差点」

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トンミ・キンヌネン (Tommi Kinnunen) 著
古市 真由美 訳
新潮社 出版

 フィンランドを舞台とした長篇です。フィンランドに対する知識が皆無に近いので、読んでいてすんなりと理解できない場面もありました。訳者あとがきを読んで初めて合点がいったこともあります。たとえばフィンランドでは、同性愛行為は男女ともに刑事罰の対象となる犯罪でした。この法律が撤廃されたのは1971年で、北欧諸国の中では最も遅かったそうです。しかも、そこからさらに10年を経て、同性愛が病気の一種に分類されなくなったそうです。宗教の面で日本とは違うとはいえ、1968年の裁判まで公立学校で進化論を教えることを禁じていたアーカンソー州法と同じくらいのインパクトがわたしにはありました。

 タイトルにある四人は、助産師のマリア、その娘のラハヤ、ラハヤの息子の妻であるカーリナ、ラハヤの夫であるオンニです。それぞれの視点で、各章が語られるのですが、並行して語られるわけでも、まったく同じ場面がとりあげられるわけでもないので、読みながら、ジグソーパズルのピースを嵌めこむように全体像をつくりあげることになります。

 そのプロセスにおいて重要な役割を果たすのは、家です。その時々に応じて、経済的自由であったり、支配であったり、慈しみであったり、さまざまな思いの象徴として描かれる家は、家族が集い、語り合う場ではありません。孤独を感じる場所であり、他者の侵入を阻む場所であり、秘密を隠す場所です。それらの秘密を紐解くようにこの本を読んでいくのですが、ミステリ本のように手がかりを拾いながら読むうち、そうであって欲しくはないと思う事実に行き着きます。それぞれの思いが語られ過ぎることもなく、想像の余地を残して終わるので、わたしとしては好みの作品でした。
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