2017年02月25日

「聖エセルドレダ女学院の殺人」

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ジュリー・ベリー (Julie Berry) 著
神林 美和 訳
東京創元社 出版

 物語の舞台は、1890年のイングランドのイーリー。聖エセルドレダ女学院というのは、大きな屋敷に住む未亡人が自ら校長をつとめ、たった7人の女生徒を引き受ける寄宿学校(フィニッシングスクール)です。

 わたしが好きなコージーミステリだと思って読み始めたものの、すぐさまその展開にとまどってしまいました。タイトルにあるとおり、寄宿学校で殺人が起こったのですが、女生徒たちは遺体を見つからないように埋め、殺人があった痕跡を隠そうと躍起になり、次から次へと嘘を繰り出していくのです。『素人探偵はどこに?』そんなわたしの疑問をよそに、ありえない幸運に次から次へと恵まれた生徒たちは、おとなのいない学校生活を続けます。そんななか、7人の生徒のうち、リーダーシップを握る生徒が財務責任者に、最年少の生徒が探偵に仲間内から任命されます。その12歳の探偵に調査らしいことができるはずもなく、物語はどんどん進み……。

 嘘に嘘を重ねる生徒たちが一番会いたくない人が大詰めに登場し、あらたな悲劇が起こり、物語がどこに向かっているのか、予想もつかなくなったところで、しゅるしゅると大団円へと収束していきました。意外性に満ちてはいましたが、消化不良を起こしそうなシュールな流れについていけませんでした。コージーミステリでも、もう少しリアリティが欲しいと思う筋書きだったので、この続編が出されても読むことはないと思います。
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2017年02月22日

「四人の交差点」

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トンミ・キンヌネン (Tommi Kinnunen) 著
古市 真由美 訳
新潮社 出版

 フィンランドを舞台とした長篇です。フィンランドに対する知識が皆無に近いので、読んでいてすんなりと理解できない場面もありました。訳者あとがきを読んで初めて合点がいったこともあります。たとえばフィンランドでは、同性愛行為は男女ともに刑事罰の対象となる犯罪でした。この法律が撤廃されたのは1971年で、北欧諸国の中では最も遅かったそうです。しかも、そこからさらに10年を経て、同性愛が病気の一種に分類されなくなったそうです。宗教の面で日本とは違うとはいえ、1968年の裁判まで公立学校で進化論を教えることを禁じていたアーカンソー州法と同じくらいのインパクトがわたしにはありました。

 タイトルにある四人は、助産師のマリア、その娘のラハヤ、ラハヤの息子の妻であるカーリナ、ラハヤの夫であるオンニです。それぞれの視点で、各章が語られるのですが、並行して語られるわけでも、まったく同じ場面がとりあげられるわけでもないので、読みながら、ジグソーパズルのピースを嵌めこむように全体像をつくりあげることになります。

 そのプロセスにおいて重要な役割を果たすのは、家です。その時々に応じて、経済的自由であったり、支配であったり、慈しみであったり、さまざまな思いの象徴として描かれる家は、家族が集い、語り合う場ではありません。孤独を感じる場所であり、他者の侵入を阻む場所であり、秘密を隠す場所です。それらの秘密を紐解くようにこの本を読んでいくのですが、ミステリ本のように手がかりを拾いながら読むうち、そうであって欲しくはないと思う事実に行き着きます。それぞれの思いが語られ過ぎることもなく、想像の余地を残して終わるので、わたしとしては好みの作品でした。
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2017年02月09日

「少年少女」

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アナトール・フランス 著
三好 達治 訳

 ある女性が愛読書として紹介くださったので読んでみました。

 100ページほどの本に19編収められているので、どれも小品です。すべての虚飾がとりのぞかれたような清楚さを感じる文章です。詩人が訳した作品だけに、声に出して読むのがふさわしいような流れがあります。

 表紙には、「また明日を生きようとする少年少女には、優しい有益な忠告を与えてくれるのである」とあります。その忠告はどれも、大人になってみれば、ごく自然に受け止められることばかりですが、小さな子供たちには知らせたくないような苦い面をもった内容がほとんどです。

 この本を勧めてくださった女性は「学校」という作品で、このアナトール・フランスを知ったそうです。その「学校」では、次のような一節があります。学校の成績でいい点数を得た少女が母親にいい点数が何に役立つかを聞いている場面です。

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「いい点数は、何かの役にたつというような、そんなものではありません。しかしそれだから、いい点数をもらったことを喜ばなければなりません。お前も今に、一番貴いご褒美は、ただ名誉だけが与えられて、それから受ける利益はない、そんなご褒美だということがわかるようになるでしょう。」
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 頑張っていい点をとっても役立つことなど何もないと言い切る大人に、子供を対等に見る視線を感じました。子供を見下ろし「大きくなったらわかることだし、今は頑張ったらいいことがあると言っておこう」という姿勢は微塵もありません。思わず、「問いつめられたパパとママの本」を思い出しました。

 わたしが一番共感できた作品は「ファンション」。ファンションが小鳥にパンを分け与える場面で、ファンションは、どの小鳥にも平等にパンを与えられないことに気付き、注意します。

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 けれども彼女のいうことはいっこう聴きいれられません。正しいことを言い出した時には、滅多に耳を藉してもらえないのが世の常です。彼女はいろいろと工夫をこらして、弱いものたちを引き立ててやり、臆病なものたちに加勢してやろうと試みました。が、どうもうまくはゆきません、どんなふうにやってみても、やせたものたちをさしおいて、肥ったものたちに食べさせることになるのです。それが彼女を悩ませました、彼女はまだほんの単純な子供だったのです、これが世間の常だとは、彼女には思いも及ばなかったのです。
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 静かに真を伝える文章に大人の優しさを感じました。
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2016年11月11日

「逆さの骨」

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ジム・ケリー (Jim Kelly) 著
玉木 亨 訳
東京創元社 出版

「水時計」「火焔の鎖」に続くシリーズです。主人公のフィリップ・ドライデンの妻ローラがどうなったのか気になっていたはずなのに、第三弾の出版を見逃していたらしく、友人から第三作を読んだと聞き、早速読みました。

 一番気になっていたローラですが、彼女の両親が住むイタリアに行く段取りを進めているという描写から、全快とはいえないものの、数時間ならベッドを離れられる状態まで戻っていることがうかがえます。前作で登場したCOMPASSという機会を使って、外部とメールをやりとりしたり文献を検索したり、ドライデンの調査を手伝うところまで回復していました。

 ただ、装置や看護は必要で、そうした妻をもつフィリップの負担や気持ちの変化が、今作でも巧妙に描かれていました。逃れられない現実や束縛、逃れたいと思う本音、本音を肯定できない苦しみ、そういった割り切れないものが、リアルに伝わるよう描かれていて、ミステリ以外の面でも満足できる作品です。

 暗い印象が残りがちなこのシリーズですが、今作では、自立心溢れる老齢の女性がドライデンや周辺人物の優しさに救われる部分があり、読後感は悪くありませんでした。
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2016年07月30日

「日曜哲学クラブ」

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アレグザンダー・マコール・スミス (Alexander McCall Smith) 著
柳沢 由実子 訳
東京創元社 出版

 いわゆるコージーミステリに分類される作品だと思うのですが、コージーミステリによく見られるパターンには当てはまらない作品です。殺人嫌疑をかけられて素人探偵が動き出すわけでもなく(そもそも殺人事件と見なされていない)、素人探偵が果敢に調査に食らいつくわけでもなく(倫理や道徳のあれこれを思索するタイプで、行動的とは言いがたい主人公)、警察関係者やプロの探偵が登場するわけでもなく(したがって素人探偵が彼らと張り合うこともできない)、きわめて静かなタイプのミステリです。

 しかもタイトルにある日曜哲学クラブなるものも、陰らしきものは感じられても、実体は見えず、女性哲学者である主人公以外のクラブメンバーも登場せず……。登場人物がきわめて少ないタイプのミステリです。

 わたしが心配することではありませんが、これでシリーズが続けられるのか、少しばかり気になりました(原作では、すでに5作発表され、次作の日本語訳も決定していますが)。訳者あとがきによると、スコットランド、特にエディンバラの雰囲気を楽しむ作品のようなので、それらに詳しい人は、堪能できるのかもしれません。
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