2017年02月09日

「少年少女」

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アナトール・フランス 著
三好 達治 訳

 ある女性が愛読書として紹介くださったので読んでみました。

 100ページほどの本に19編収められているので、どれも小品です。すべての虚飾がとりのぞかれたような清楚さを感じる文章です。詩人が訳した作品だけに、声に出して読むのがふさわしいような流れがあります。

 表紙には、「また明日を生きようとする少年少女には、優しい有益な忠告を与えてくれるのである」とあります。その忠告はどれも、大人になってみれば、ごく自然に受け止められることばかりですが、小さな子供たちには知らせたくないような苦い面をもった内容がほとんどです。

 この本を勧めてくださった女性は「学校」という作品で、このアナトール・フランスを知ったそうです。その「学校」では、次のような一節があります。学校の成績でいい点数を得た少女が母親にいい点数が何に役立つかを聞いている場面です。

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「いい点数は、何かの役にたつというような、そんなものではありません。しかしそれだから、いい点数をもらったことを喜ばなければなりません。お前も今に、一番貴いご褒美は、ただ名誉だけが与えられて、それから受ける利益はない、そんなご褒美だということがわかるようになるでしょう。」
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 頑張っていい点をとっても役立つことなど何もないと言い切る大人に、子供を対等に見る視線を感じました。子供を見下ろし「大きくなったらわかることだし、今は頑張ったらいいことがあると言っておこう」という姿勢は微塵もありません。思わず、「問いつめられたパパとママの本」を思い出しました。

 わたしが一番共感できた作品は「ファンション」。ファンションが小鳥にパンを分け与える場面で、ファンションは、どの小鳥にも平等にパンを与えられないことに気付き、注意します。

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 けれども彼女のいうことはいっこう聴きいれられません。正しいことを言い出した時には、滅多に耳を藉してもらえないのが世の常です。彼女はいろいろと工夫をこらして、弱いものたちを引き立ててやり、臆病なものたちに加勢してやろうと試みました。が、どうもうまくはゆきません、どんなふうにやってみても、やせたものたちをさしおいて、肥ったものたちに食べさせることになるのです。それが彼女を悩ませました、彼女はまだほんの単純な子供だったのです、これが世間の常だとは、彼女には思いも及ばなかったのです。
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 静かに真を伝える文章に大人の優しさを感じました。
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2016年11月11日

「逆さの骨」

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ジム・ケリー (Jim Kelly) 著
玉木 亨 訳
東京創元社 出版

「水時計」「火焔の鎖」に続くシリーズです。主人公のフィリップ・ドライデンの妻ローラがどうなったのか気になっていたはずなのに、第三弾の出版を見逃していたらしく、友人から第三作を読んだと聞き、早速読みました。

 一番気になっていたローラですが、彼女の両親が住むイタリアに行く段取りを進めているという描写から、全快とはいえないものの、数時間ならベッドを離れられる状態まで戻っていることがうかがえます。前作で登場したCOMPASSという機会を使って、外部とメールをやりとりしたり文献を検索したり、ドライデンの調査を手伝うところまで回復していました。

 ただ、装置や看護は必要で、そうした妻をもつフィリップの負担や気持ちの変化が、今作でも巧妙に描かれていました。逃れられない現実や束縛、逃れたいと思う本音、本音を肯定できない苦しみ、そういった割り切れないものが、リアルに伝わるよう描かれていて、ミステリ以外の面でも満足できる作品です。

 暗い印象が残りがちなこのシリーズですが、今作では、自立心溢れる老齢の女性がドライデンや周辺人物の優しさに救われる部分があり、読後感は悪くありませんでした。
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2016年07月30日

「日曜哲学クラブ」

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アレグザンダー・マコール・スミス (Alexander McCall Smith) 著
柳沢 由実子 訳
東京創元社 出版

 いわゆるコージーミステリに分類される作品だと思うのですが、コージーミステリによく見られるパターンには当てはまらない作品です。殺人嫌疑をかけられて素人探偵が動き出すわけでもなく(そもそも殺人事件と見なされていない)、素人探偵が果敢に調査に食らいつくわけでもなく(倫理や道徳のあれこれを思索するタイプで、行動的とは言いがたい主人公)、警察関係者やプロの探偵が登場するわけでもなく(したがって素人探偵が彼らと張り合うこともできない)、きわめて静かなタイプのミステリです。

 しかもタイトルにある日曜哲学クラブなるものも、陰らしきものは感じられても、実体は見えず、女性哲学者である主人公以外のクラブメンバーも登場せず……。登場人物がきわめて少ないタイプのミステリです。

 わたしが心配することではありませんが、これでシリーズが続けられるのか、少しばかり気になりました(原作では、すでに5作発表され、次作の日本語訳も決定していますが)。訳者あとがきによると、スコットランド、特にエディンバラの雰囲気を楽しむ作品のようなので、それらに詳しい人は、堪能できるのかもしれません。
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2016年06月24日

「アルケミスト」

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パウロ・コエーリョ (Paulo Coelho) 著
山川 紘矢/山川 亜希子 訳

 読書会イベントで実施された本のプレゼント交換でいただきました。スピリチュアル系小説なので、どちらかといえば苦手な分野ですが、羊飼いの暮らしぶりや旅の描写が思いのほか魅力的で、するすると読めました。

 25周年記念の特別装丁であることも、この本がプレゼント交換に選ばれた理由のひとつかもしれませんが、サンチャゴという主人公の少年が周囲に導かれ素直に自らと向き合う姿に、温もりを感じました。モノと情報に溢れた現代に生きるわたしたちは、溢れかえったモノや情報に振りまわされ、自分と会話することを忘れているのではないかというメッセージを込めてプレゼント交換に選ばれたのかもしれません。
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2016年06月23日

「ミリオンズ」

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フランク・コットレル・ボイス (Frank Cottrell Boyce) 著
池田 真紀子 訳
新潮社 出版

 少し古い本なので、設定も少し古く、通貨にユーロが導入される直前に焼却処分される予定の古い貨幣が盗まれ、その一部がひょんなことからある少年に渡り、あれやこれやのハプニングが引き起こされるというものです。

 その大量の紙幣を拾った少年は、ダミアンという小学五年生で、ありとあらゆる聖人に精通しているものの、まったく空気を読めない風変わりな子です。そしてダミアンの兄アンソニーも弟に負けず個性的で、家を帰る場所だとか住処とかではなく優良資産と捉えるような現実的な子です。

 そんな対照的な兄弟が、ああでもないこうでもないとお金の使い道を考える場面には、ときおり耳が痛くなるような風刺がきいていることもあったり、ハチャメチャなようでいて考えさせられることもあります。映画化されたそうですが、映像のほうがハチャメチャぶりのインパクトが大きくなって、より楽しめたのではないかと思えた作品です。
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