2016年01月29日

「マジシャンは騙りを破る」

20160129「マジシャンは騙りを破る」.png

ジョン・ガスパード (John Gaspard) 著
法村 里絵 訳
東京創元社 出版

 わたし好みのコージーミステリでした。

 描写については、主役も脇役も、登場人物の個性が巧みに描きわけられていて、読んでいると自然とイメージが定まってきます。展開については、あちこちに張られた伏線をうまく回収しつつ、読者をところどころミスリードしたりして、中弛みを感じることがありませんでした。このあたりは、一般的な読者なら、それなりに高く評価する点ではないかと思います。

 そのほか、コージーミステリに対するわたしの好みに合っていて、個人的に高く評価した点は、ユーモアのセンスがあちこちに散りばめられている点、マジシャンという一風変わった職業を選んだことを除けば主人公のイーライがきわめてふつうでありながら『いい人』で共感しやすかった点、バランスがよかった点などです。最後のバランスというのは、あまりにものごとを決めつけすぎていないことを指しています。たとえば、マジシャンであるイーライが似非超能力者の種や仕掛けを看破する場面もありますが、超能力を全面的に否定しているわけでも、肯定しているわけでもありません。否定的意見も肯定的意見もバランスよくでてくるため、読んでいて居心地が悪くなりません。

 原作のほうはすでにシリーズ3作目まで出版されていて、2作目も東京創元社から刊行される予定だそうです。2作目が楽しみです。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月16日

「不思議なキジのサンドウィ

20160116「不思議なキジのサンドウィッチ」.png

アラン・ブラッドリー (Alan Bradley) 著
古賀 弥生 訳
東京創元社 出版

 化学が大好きな11歳の女の子フレーヴィアが探偵役をつとめるこのシリーズは、第6弾である今作が大きな転換点になっています。冒頭で、チベットで登山中に行方不明になったとされていたフレーヴィアの母エリオットの遺体が戻ってくるところから、エリオットはいったいぜんたい何者だったのかという疑問が湧いてきます。なにしろ故郷に戻るエリオットを出迎えた人々のなかには、ウィンストン・チャーチル元首相までいたのですから。

 そして例に漏れず事件が起こるのですが、さすがに今回ばかりは、フレーヴィアが犯人の手がかりを得ようと、あちこちに出没するなどという展開にはなりません。フレーヴィアの家族とその過去にスポットが当てられて物語は進むのですが、明かされた過去は、「なんとまあ」としか言いようのない驚きに満ちています。突飛すぎてついていけないほどの過去です。そういう過去があったのに、なぜこれほどフレーヴィアの一家は困窮を極めていたのか、理解に苦しみます。そのいっぽうで、前作から登場したアダム・トラデスカント・ソワビーのような謎の人物がフレーヴィアの前に現れたことの説明はつきます。

 エリオットが何者でどういう経緯で命を落としたのかが明かされた結末では、フレーヴィアを待ち受ける未来も明かされます。次作からは舞台を変えて、でもフレーヴィアの持ち味は(おそらく)変わらず、シリーズが続いていく模様です。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月15日

「水晶玉は嘘をつく?」

20160115「水晶玉は嘘をつく?」.png

アラン・ブラッドリー (Alan Bradley) 著
古賀 弥生 訳
東京創元社 出版

 化学大好き少女フレーヴィア・ド・ルースが活躍するシリーズのひとつです。第2作「人形遣いと絞首台」の次にあたる今作を逃し、第4作「サンタクロースは雪のなか」を読んでいたので、第6作「不思議なキジのサンドウィッチ」の前に読んでみました。

 このフレーヴィア・シリーズはもう4作も読んでいるので、わたしのなかのフレーヴィアのイメージは、かなり固まっています。そのなかでも、一番印象に残っているのは、親子らしい親子関係を知らないという点です。母親は、フレーヴィアが物心つく前に亡くなり、父親はその喪失感から抜け出せないのか、趣味の切手の世界に逃げこんでいる様子です。

 しかし今作でフレーヴィアは、父親と秘密を共有し、無言の関係ながらも親子らしい絆を感じさせて終わります。それは、密やかでありながら心温まるものでした。そういった子どもが見る狭い世界の濃密な関係が細やかに描かれていることと、11歳の女の子らしさとおとな顔負けのパンチが効いた皮肉が同居するフレーヴィアの内なるセリフが、このシリーズの良さだと思います。

 ただ、11歳の女の子が探偵役なので、犯人究明の点からは少し物足りないのも、シリーズのほかの作品と変わりません。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月14日

「もうひとりのタイピスト」

20160114「もうひとりのタイピスト」.jpg

スーザン・リンデル (Suzanne Rindell) 著
吉澤 康子 訳
東京創元社 出版

 1924年のニューヨーク。禁酒法の取り締まりで忙しくなった警察署にオダリーというタイピストが補充されてからのことをローズという先輩タイピストの視点で描かれた作品です。

 恵まれた境遇にあるとは決していえないローズが、女性が職に就くのが珍しい時代に健気に働き自立していたのに、オダリーの出現によって破滅へと向かいつつあるのではないかという良からぬ予感が忍び寄ってくる描写が続くいっぽう、ローズがオダリーと過ごすおしゃれで贅沢で女の子らしい時間はスリルと危険に満ちていて、ローズが心惹かれてその世界に浸ってしまう心情が、巧みに描かれています。

 ただ、ローズが結末に迎える破滅は、女の子が夢想する冒険物語ではなく、現実に起こった事件として扱われた場合、稚拙なからくりに見えてしまいます。結末まで読者をはらはらさせ続けることには成功していると思いますが、読者を驚かせると同時に「そうだったのか!」と納得させるだけのプロットにはなっていない気がします。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月10日

「人形遣い」

20151210「人形遣い」.jpg

ライナー・レフラー (Rainer Löffler) 著
酒寄 進一 訳
東京創元社 出版

 事件分析官である主人公マルティン・アーベルは、「犯罪心理捜査官セバスチャン」の主人公に似たタイプです。一番の類似点は、仕事面では優秀ながら、強烈な個性を前面に出して人を寄せつけない雰囲気を醸しているところでしょうか。そのほか、身近な女性の影響を多大に受けて、変化していく過程も少し似ています。どちらの主人公も、フィクションの登場人物であるかぎり、破天荒で憎めない存在であるところが、作品を面白くしています。

 この作品を面白くしているもうひとつの要素は、犯人にたどり着くまでの展開です。主人公アーベルは、卓越した集中力と分析力を持っていますが、それでも窮地に陥ってしまいます。そして、そうなってしまう原因が読者には事前に明らかにされていて、存分にスリルを楽しめる構成になっています。そのいっぽうで、読者に対するミスリードも埋め込まれていて、何かがしっくりこないと感じながら読み進めることになってしまいます。

 グロテスクな犯罪が続くので、そういった描写が苦手な人には勧められない作品ですが、緻密な人物描写とよく練られたストーリー展開は、ミステリファンにとって読む価値ある作品だと思います。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする