2017年12月21日

「犯罪は老人のたしなみ」

20171220「犯罪は老人のたしなみ」.png

カタリーナ・インゲルマン=スンドベリ (Catharina Ingelman-Sundberg) 著
木村 由利子 訳
東京創元社 出版

老人たちの生活と推理」や「氷の女王が死んだ」と同じように老人ホームに住むお年寄りたちが主人公なのですが、受ける印象は、かなり違っています。

「老人たちの生活と推理」で始まるシリーズの老人ホームは、アメリカのサンディエゴ近郊にあり、この作品のほうは、スウェーデンのソーデル(ストックホルムから車で半時間ほど)にあるという地理的な違い以上に大きな違いは、「老人たちの生活と推理」が高級老人ホームを舞台としているいっぽう、こちらは庶民的な老人ホームのようです。

 庶民的な老人ホームのようです、などと書くと、自信がないように見えますが、実際に自信はありません。なにしろ、この庶民的な老人ホームの経営者が変わったことをきっかけに、入居者であるお年寄りたちは、自分たちの老人ホームに比べて、刑務所のほうがいい暮らしをできるなどと思い始めるのですが、主人公のメッタは、老人ホームで2DKの部屋に住んでいます。なんとも羨ましい話だと思ってしまうのは、わたしだけでしょうか。

 しかし、スウェーデンの解放刑務所と呼ばれる刑務所の待遇は、たしかに悪くありません。監視付きとはいえ、外出もできます。これはスウェーデンの一般的な話なのか、あくまでもフィクションなのか、気になったくらいです。

 そしてタイトルにあるとおり、お年寄りたちは犯罪に手を染めてしまいます。しかし、なぜか憎めず、犯罪にかかわる前よりずっと元気になったお年寄りたちをつい応援してしまいました。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月14日

「ポンド氏の逆説」

20171214「ポンド氏の逆説」.png

G・K・チェスタトン (G. K. Chesterton) 著
南條 竹則 訳
東京創元社 出版

 ミステリを読むことは、ゲームに参加することに少し似ている気がします。暗黙のルールがある程度あって、そのなかで作家は、謎を作って自ら解いて見せますが、読者はその謎解きに一歩先んじよう、つまりゲームに勝ったかのような気分を味わってみたいと思いながら読んでいるのではないでしょうか。そして解くべき謎の定番は、犯人は誰? 手口は? 動機は? といったあたりでしょうか。

 この短篇集は、それら定番の謎解きではありません。タイトルにある逆説が謎です。逆説というのは『急がば回れ』とか『負けるが勝ち』というものです。初めて聞いたとき誰でも、負けは負けであって勝ちではないと言いたくなるものだと思います。この短篇集のポンド氏は、「何も飲み物がなかったので、みんなすぐ酔っぱらいました」とか「当然のことながら、彼は脚がないので徒歩競争に勝ちました」といったことを、さらりと言ってのけます。そして、謎解きにあたる部分は、逆説の解説です。

 この短篇集には、次の作品が収められていますが、どれにもポンド氏の逆説がある程度含まれています。ただ、逆説にこだわるあまり、リアリティに欠けてしまった「恐ろしき色男」のような作品もあれば、眼の錯覚などを利用した「高すぎる話」のような得心がいく作品もあります。わたしが気に入ったのは、「恋人たちの指輪」です。しかし、ゲームのルールが特殊なので、馴染むことはできませんでした。

ー黙示録の三人の騎者
ーガヘガン大尉の罪
ー博士の意見が一致する時
ーポンドのパンタルーン
ー名前を出せぬ男
ー恋人たちの指輪
ー恐ろしき色男
ー高すぎる話
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月10日

「湖の男」

20171110「湖の男」.png

アーナルデュル・インドリダソン 著
柳沢 由実子 訳
東京創元社

 エーレンデュル捜査官シリーズの「」の次の作品です。このシリーズはいつも、周囲にとっては終わってしまったように見える過去も、本人や身近な人にとっては終わっていないということを突きつけてくるように感じますが、今回も冒頭からそれを感じました。1970年前後に殺され、ロシアの盗聴器という重し付きで湖に沈められた中年男性の白骨が、アイスランドのある湖の水位がさがったことにより発見されるところから始まっているためです。

 その殺人事件と並行して語られるのは、第二次世界大戦後、まだ戦争の爪痕が生々しかったころ、奨学金を得てアイスランドからライプツィヒに留学した青年の学生生活です。青年は、大学で知り合ったハンガリー出身の女性と恋に落ち、幸せな日々を過ごしていましたが、それは共産主義独特の監視社会のなかでのことです。自分の眼を信じ、自分の頭で考え、自らの力で未来を切り開こうと考える人たちにとって幸せな環境ではありません。そうして悲劇が生まれました。

 最後の最後まで、青年の学生生活と殺人事件がどう結びつくのかわからず、なぜロシアの盗聴器という特殊な重しが使われたのか疑問に思いながら、最後まで一気に読んでしまいました。すべての謎が解けたとき、事件を解決する警察小説として上出来だと思うと同時に、「一九八四年」を読んだときに感じた監視社会の恐ろしさを思い出しました。

 わたしたちには忘れられないこともあれば、忘れてはいけないこともあるのだと、あらためて思いました。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月06日

「声」

20171106「声」.png

アーナルデュル・インドリダソン 著
柳沢 由実子 訳
東京創元社

湿地」や「緑衣の女」と同じエーレンデュル捜査官シリーズです。このシリーズはどの作品においても、過去のできごとを掘りさげる点と喪失感が感じられる点が共通点だと思います。この「声」では、とりわけ喪失感を強く感じました。子ども時代に大切なものを失い、それを背負って生きていく過酷さは、おとなのそれとは比べ物になりません。それなのに、次々とそういった子ども時代の受難が明らかになります。

 クリスマス直前のアイスランドの寒々とした気候とあいまって、明るい雰囲気とは縁のない作品なのですが、読み始めると止まらなくなります。

 それは、思いもしないシチュエーションで殺人事件が発生(発覚)するところから始まり、ひと息つく間もなく、次々と怪しい、つまり犯人だと疑いたくなる人物が登場し、そんな疑われるような態度や行動におよんだのはなぜかという謎が、ひとつひとつテンポよく解き明かされるからだと思います。また、怪しい人物それぞれが抱えている問題にリアリティがあり、小さなドラマが見え隠れしていて、眼を離せないのかもしれません。そして何より、割り切れない、グレーの部分が残されているために、事件の現実味が増すのだと思います。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月28日

「ガイコツと探偵をする方法」

20171028「ガイコツと探偵をする方法」.png

レイ・ペリー (Leigh Perry) 著
木下 淳子 訳
東京創元社 出版

 原題は「A SKELETON IN THE FAMILY」です。これは「A SKELETON IN THE CLOSET」とか「A SKELETON IN THE CUPBOARD」とか「A FAMILY SKELETON」(直訳すると「クローゼット(戸棚)のなかの骸骨」とか「家族の骸骨」という意味)をモジッています。「英語クリーシェ辞典」(ベティ・カークパトリック著、研究社出版)によると、恥ずべき秘密を指す言い回しだそうです。殺された人の遺体が戸棚などに隠されていて、もう白骨化しているという発想からくるもので、19世紀中頃からクリーシェになったそうです。「Scholastic Dictionary of Idioms」(Marvin Terban著、Scholastic Inc.出版)では、語源は不明としつつも、もう少し踏みこんで、ある男が敵を殺してクローゼットに隠していたものの結局はその骸骨が見つかってしまった話があったと書かれています。

 このクリーシェを文字どおりにとって、その意味としたのが本作品です。つまり、クローゼットのなか(あるいは屋根裏部屋)に骸骨がいて、その骸骨が外聞をはばかる秘密だという設定です。タイトルのとおり、そのガイコツと一緒に謎を解かんと探偵のように奮闘するのですから、そのガイコツ(名前はシド)は、眼球もないのみ見ることができ、脳もないのに考えることができ、舌もないのに喋ることができます。おまけにユーモアのセンス(少し子供っぽいというかオジサンっぽい)も持ちあわせています。そして、その相棒となるのは、一家の次女ジョージアです。ジョージアは、6歳のときに初めてシドと出会い、約30年経ったいまは、ティーンエージャーの娘を抱えるシングルマザーです。

 語源どおり、この作品でもガイコツが見つかってしまうのかハラハラしますが、シドの描写と人格というか骸骨格(純粋に『人』とは呼びにくいですから)が、ことばの遊びにもなっていて、謎解きと同じくらい楽しめました。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする