2015年11月14日

「アメリカミステリ傑作選 2003」

20151114「アメリカミステリ傑作選 2003」.jpg

ローレンス・ブロック/オットー・ペンズラー (Lawrence Block/Otto Penzler) 編
DHC 出版

バースデイ・ストーリーズ」でラッセル・バンクスを知り、もっと読みたいと思ったのですが、あまり日本語になっていません。そうしたら、この短篇集をくださった方がありました。ラッセル・バンクスの「ロブスター・ナイト」が載っています。ただ、「バースデイ・ストーリーズ」では、ダントツで気に入ったラッセル・バンクスですが、今回は、そうでもありませんでした。わたしには、点と点をうまく結べない流れというか展開で、もう少し説明が欲しかったように思います。

 ここに収められている20篇のなかから、好きな作品を3つ選んでみました。(これもミステリなのかと驚くような作品も含まれていますが、以下はいずれもミステリ短篇集に違和感なく収まるミステリです。)

『容疑者』クラーク・ハワード 著、芹澤 恵 訳
意外な犯人に驚く作品です。ところどころにヒントが隠されているものの、それでも驚かされてしまうプロットではないでしょうか。ほんの少ししか登場しない人物も含め、その描写も気に入りました。

『大きなひと噛み』ビル・プロンジーニ 著、黒原 敏行 著
IT化が進む時代のなかにあって、アナログに本領を発揮できる熟練探偵が、長年の経験からくる勘をたよりに一挙に全体図を描きだすものの、なんとも切ない結末を迎えます。

『エリーの最後の一日』スティーヴ・ホッケンスミス 著、熊谷 公妙 訳
勤務最後の日、つまり、いまさら何をしても大きく変わらないと思われる日に、もうひと踏ん張り捜査をしようとある事件を選んで出かける警官に親近感がわくと同時に、描かれていない彼の内面を読みとることができます。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月13日

「ホテル1222」

20151113「ホテル1222」.jpg

アンネ・ホルト (Anne Holt) 著
枇谷 玲子 訳
東京創元社 出版

 閉じられた空間を舞台に殺人事件が起こる、いわゆる孤島ものです。

 タイトルのホテル1222は、このミステリの舞台となった<フィンセ1222>(ノルウェーに実在するホテル)からきています。氷点下20度を超える極寒のなか、嵐で脱線した列車の乗客がみな、このホテルに避難します。救助隊が来られるようになるのを待つあいだに事件が起こります。

 そして謎解きをするのは、かつて警察官だったハンネ・ヴィルヘルムセンという女性。職務中の負傷が原因で車椅子生活になったハンネは、人との距離をとろうとしてホテル従業員とも避難仲間とも打ち解ける様子はなく、人当たりがいいとはいえない行動をとるものの、優れた観察眼をもって最終的には、事件を解決に導きます。

 ただ、ミステリとしてはそう高く評価できる作品ではないと思います。この作品で楽しめるのは、謎解きではなく、ハンネの眼を通してみる人々ではないでしょうか。法律を笠にきて権利を声高に主張する有名人、見ず知らずの避難仲間相手に宗教を振りかざす教会関係者、何かにつけ反抗する男の子、最善を尽くそうと頑張るホテル関係者など、個性的な面々が、閉じ込められた空間でお互い関わっていくさまが細かく描かれています。平常時なら交わることのない人々の関わりは、いろいろ考えさせられるところがありました。

 このハンネシリーズは、これで8作目だそうです。巻末の解説によると、7作目の「凍える街」は現在も読むことができ、1作目から3作目までは絶版状態、4作目から6作目は未訳だそうです。主人公のハンネがどのように警官としてのキャリアを積んできたかが読めないと、ハンネの回想部分は、そう楽しめないかもしれません。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月23日

「恐怖の谷」

20151023「恐怖の谷」.jpg

アーサー・コナン・ドイル (Sir Arthur Conan Doyle) 著
深町 眞理子 訳
東京創元社 出版

 いままでわたしが読んだシャーロック・ホームズのシリーズにはない2部構成です。前半の「第一部<バールストン館>の惨劇」は、読者が期待するとおり、シャーロック・ホームズが不可解な事件を解き明かします。ただその謎解きで、そう都合よく稀有な条件が揃うわけがないと読者が思っているところで突入する後半「第二部スコウラーズ」では、稀有な条件が揃った背景が解き明かされます。

 読むまえから期待しているホームズの謎解きも、もちろんよかったのですが、後半部分の意外な展開は、ホームズの謎解きがなくても、じゅうぶん楽しめました。なにより、前半部分でそう都合よく稀有な条件が揃うわけがないと思う読者をある程度納得させられますし、窮地(前半でホームズが登場しなければ乗り切れたであろう窮地)を咄嗟の機転で乗り切ろうとした主人公の豪胆さもよく描かれていて、よくできているとしか言いようがありません。

 ストーリー展開において年代の辻褄が合わないなど、うっかりミスはあるようですが、それでも100年もまえに、こんなエンターテイメントがあったというのは、すごいことだと思います。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月21日

「夏の沈黙」

20151021「夏の沈黙」.jpg

ルネ・ナイト (Renée Knight) 著
古賀 弥生 訳
東京創元社 出版

 小出しにされる過去の断片をつなぎあわせながら読み進めていくのは、楽しいプロセスでした。そのいっぽう、すべてを読み終えた読者を驚かせるための意外な真実を用意しようとするあまり、登場人物の人物像がうまく成り立っていないようにも感じました。

 実際、人というものは理屈では割り切れないものですし、意外な側面を見せることは多々あります。でも、他者の尊厳を簡単に踏みにじった直後、天使のような振る舞いに及ぶのには、なにか描写が必要だと思います。また、自分にとって都合のいい憶測に執着していた人物が、一瞬にして真摯に現実と向き合えるようになったのも不自然に感じられました。ただ、何十年と連れ添った夫婦であっても、伴侶のことを意外に知らないという点は、向き合うことなく一緒にいるだけのふたりなら、ありえるのかもしれないと思いました。

 そうはいっても、結末で語られる意外な真実には確かに驚かされましたし、各国で翻訳されるほど話題になったのも充分に納得できました。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月29日

「7は秘密」

20150929「7は秘密」.jpg

リンジー・フェイ (Lyndsay Faye) 著
野口 百合子 訳
東京創元社 出版

ゴッサムの神々」の翌年(1846年)が描かれた続編です。前作は暑い盛りの時季、今回は凍える冬、前作はプロテスタントとカトリックの対立という宗教問題、今作は黒人問題と、前作と異なる点はいろいろありますが、前作同様、歴史小説としてもミステリとしても楽しめました。そして主人公のティムシーは、27歳から28歳になり、ただただひとりの女性に恋焦がれているだけの状況から、自身とその過去をそれまでより客観的に見られるという成長を遂げています。

 プロテスタントとカトリックの対立に比べ黒人問題は、その背景を含めてある程度理解しているつもりでしたが、それでもタイトルにある<秘密>には、驚かされました。歴史的なことがらとしてではなく、人びとの暮らしのなかのできごととして小説のなかに織り込まれると、伝わってくる悲哀も違うのかもしれませんが、うちのめされるような秘密でした。

 ミステリが好きな方にもアメリカという国に興味がある方にも、お勧めしたい作品です。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする