2016年01月15日

「水晶玉は嘘をつく?」

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アラン・ブラッドリー (Alan Bradley) 著
古賀 弥生 訳
東京創元社 出版

 化学大好き少女フレーヴィア・ド・ルースが活躍するシリーズのひとつです。第2作「人形遣いと絞首台」の次にあたる今作を逃し、第4作「サンタクロースは雪のなか」を読んでいたので、第6作「不思議なキジのサンドウィッチ」の前に読んでみました。

 このフレーヴィア・シリーズはもう4作も読んでいるので、わたしのなかのフレーヴィアのイメージは、かなり固まっています。そのなかでも、一番印象に残っているのは、親子らしい親子関係を知らないという点です。母親は、フレーヴィアが物心つく前に亡くなり、父親はその喪失感から抜け出せないのか、趣味の切手の世界に逃げこんでいる様子です。

 しかし今作でフレーヴィアは、父親と秘密を共有し、無言の関係ながらも親子らしい絆を感じさせて終わります。それは、密やかでありながら心温まるものでした。そういった子どもが見る狭い世界の濃密な関係が細やかに描かれていることと、11歳の女の子らしさとおとな顔負けのパンチが効いた皮肉が同居するフレーヴィアの内なるセリフが、このシリーズの良さだと思います。

 ただ、11歳の女の子が探偵役なので、犯人究明の点からは少し物足りないのも、シリーズのほかの作品と変わりません。
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2016年01月14日

「もうひとりのタイピスト」

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スーザン・リンデル (Suzanne Rindell) 著
吉澤 康子 訳
東京創元社 出版

 1924年のニューヨーク。禁酒法の取り締まりで忙しくなった警察署にオダリーというタイピストが補充されてからのことをローズという先輩タイピストの視点で描かれた作品です。

 恵まれた境遇にあるとは決していえないローズが、女性が職に就くのが珍しい時代に健気に働き自立していたのに、オダリーの出現によって破滅へと向かいつつあるのではないかという良からぬ予感が忍び寄ってくる描写が続くいっぽう、ローズがオダリーと過ごすおしゃれで贅沢で女の子らしい時間はスリルと危険に満ちていて、ローズが心惹かれてその世界に浸ってしまう心情が、巧みに描かれています。

 ただ、ローズが結末に迎える破滅は、女の子が夢想する冒険物語ではなく、現実に起こった事件として扱われた場合、稚拙なからくりに見えてしまいます。結末まで読者をはらはらさせ続けることには成功していると思いますが、読者を驚かせると同時に「そうだったのか!」と納得させるだけのプロットにはなっていない気がします。
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2015年12月10日

「人形遣い」

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ライナー・レフラー (Rainer Löffler) 著
酒寄 進一 訳
東京創元社 出版

 事件分析官である主人公マルティン・アーベルは、「犯罪心理捜査官セバスチャン」の主人公に似たタイプです。一番の類似点は、仕事面では優秀ながら、強烈な個性を前面に出して人を寄せつけない雰囲気を醸しているところでしょうか。そのほか、身近な女性の影響を多大に受けて、変化していく過程も少し似ています。どちらの主人公も、フィクションの登場人物であるかぎり、破天荒で憎めない存在であるところが、作品を面白くしています。

 この作品を面白くしているもうひとつの要素は、犯人にたどり着くまでの展開です。主人公アーベルは、卓越した集中力と分析力を持っていますが、それでも窮地に陥ってしまいます。そして、そうなってしまう原因が読者には事前に明らかにされていて、存分にスリルを楽しめる構成になっています。そのいっぽうで、読者に対するミスリードも埋め込まれていて、何かがしっくりこないと感じながら読み進めることになってしまいます。

 グロテスクな犯罪が続くので、そういった描写が苦手な人には勧められない作品ですが、緻密な人物描写とよく練られたストーリー展開は、ミステリファンにとって読む価値ある作品だと思います。
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2015年11月14日

「アメリカミステリ傑作選 2003」

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ローレンス・ブロック/オットー・ペンズラー (Lawrence Block/Otto Penzler) 編
DHC 出版

バースデイ・ストーリーズ」でラッセル・バンクスを知り、もっと読みたいと思ったのですが、あまり日本語になっていません。そうしたら、この短篇集をくださった方がありました。ラッセル・バンクスの「ロブスター・ナイト」が載っています。ただ、「バースデイ・ストーリーズ」では、ダントツで気に入ったラッセル・バンクスですが、今回は、そうでもありませんでした。わたしには、点と点をうまく結べない流れというか展開で、もう少し説明が欲しかったように思います。

 ここに収められている20篇のなかから、好きな作品を3つ選んでみました。(これもミステリなのかと驚くような作品も含まれていますが、以下はいずれもミステリ短篇集に違和感なく収まるミステリです。)

『容疑者』クラーク・ハワード 著、芹澤 恵 訳
意外な犯人に驚く作品です。ところどころにヒントが隠されているものの、それでも驚かされてしまうプロットではないでしょうか。ほんの少ししか登場しない人物も含め、その描写も気に入りました。

『大きなひと噛み』ビル・プロンジーニ 著、黒原 敏行 著
IT化が進む時代のなかにあって、アナログに本領を発揮できる熟練探偵が、長年の経験からくる勘をたよりに一挙に全体図を描きだすものの、なんとも切ない結末を迎えます。

『エリーの最後の一日』スティーヴ・ホッケンスミス 著、熊谷 公妙 訳
勤務最後の日、つまり、いまさら何をしても大きく変わらないと思われる日に、もうひと踏ん張り捜査をしようとある事件を選んで出かける警官に親近感がわくと同時に、描かれていない彼の内面を読みとることができます。
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2015年11月13日

「ホテル1222」

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アンネ・ホルト (Anne Holt) 著
枇谷 玲子 訳
東京創元社 出版

 閉じられた空間を舞台に殺人事件が起こる、いわゆる孤島ものです。

 タイトルのホテル1222は、このミステリの舞台となった<フィンセ1222>(ノルウェーに実在するホテル)からきています。氷点下20度を超える極寒のなか、嵐で脱線した列車の乗客がみな、このホテルに避難します。救助隊が来られるようになるのを待つあいだに事件が起こります。

 そして謎解きをするのは、かつて警察官だったハンネ・ヴィルヘルムセンという女性。職務中の負傷が原因で車椅子生活になったハンネは、人との距離をとろうとしてホテル従業員とも避難仲間とも打ち解ける様子はなく、人当たりがいいとはいえない行動をとるものの、優れた観察眼をもって最終的には、事件を解決に導きます。

 ただ、ミステリとしてはそう高く評価できる作品ではないと思います。この作品で楽しめるのは、謎解きではなく、ハンネの眼を通してみる人々ではないでしょうか。法律を笠にきて権利を声高に主張する有名人、見ず知らずの避難仲間相手に宗教を振りかざす教会関係者、何かにつけ反抗する男の子、最善を尽くそうと頑張るホテル関係者など、個性的な面々が、閉じ込められた空間でお互い関わっていくさまが細かく描かれています。平常時なら交わることのない人々の関わりは、いろいろ考えさせられるところがありました。

 このハンネシリーズは、これで8作目だそうです。巻末の解説によると、7作目の「凍える街」は現在も読むことができ、1作目から3作目までは絶版状態、4作目から6作目は未訳だそうです。主人公のハンネがどのように警官としてのキャリアを積んできたかが読めないと、ハンネの回想部分は、そう楽しめないかもしれません。
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