2019年11月26日

「世界の本屋さんめぐり」

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ナカムラクニオ 著
産業編集センター 出版

 まず最初に、やや難点だと思える点がひとつありました。写真ではなくイラストが使われている点です。その理由は、印象が古くなるのを防ぐためだと著者は説明しています。わたしの意見では、その場の雰囲気が伝わってくる反面、そのものの姿かたちを見たいときには向かないと思いました。たとえば、Flex Oneという折れ曲がる電子ペーパーのイラストが載っていたのですが、見てもよくわからず、結局ネット検索に頼りました。

 ただ内容的には主要国以外も網羅されていて読み応えがありました。わたしには、いつか行ってみたい、見てみたいと思っている、本に関係する場所やモノがいくつかあります。この本には、それらすべてが登場し、そのほかにも行きたくなる場所が掲載されています。

 まず、本を読む前から行ってみたい見てみたいと思っていたのは、(1) フランスにある短編小説の自動販売機、(2) 「シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々」という本で知った、パリの『シェイクスピア・アンド・カンパニー (Shakespeare and Company)』、(3) ウェールズの本の町『ヘイ・オン・ワイ (Hay-on-Wye)』です。

 著者は、(1) をパリのリヨン駅で見つけたそうです。(この自動販売機は、駅、空港、病院など 100 か所以上に設置済み。) 1 分、3 分、5 分の 3 種類のなかから選んだボタンを押すと、無料で提供されている物語がプリントアウトされます。わたしが気になった新情報は、アメリカで英語版も実験的に始まったことです。

 新たに行きたい場所に加わったのは、3 か所。ひとつめは、本好きが泊まるべきホテルと著者が評する『バンコク・パブリッシング・レジデンス (Bangkokg Publishing Residence)』です。1960 年代から週刊誌の出版社兼印刷所として使われていて、活版印刷の活字が展示され、タイプライター、インク、紙のロールなどが飾られ、印刷博物館に泊まった気分を味わえるとか。

 ふたつめは、ストックホルムで一番大きい『アカデミー書店 (Akademibokhandeln)』のストックホルム・メステル・サムエルスガータン (Stockholm Mäster Samuelsgatan) 店には、2017 年にオープンした『コーメルク・ブック・アンド・フードカフェ (K-Märkt Bok- & matcafé)』というカフェがあり、ノーベル賞晩餐会で出されたものと同じデザートを食べることができるそうです。ここのパティシエが晩餐会のデザートを担当していることから実現したメニューのようです。

 最後は、カナダのトロントにある古本屋『モンキーズ・ポー』(The Monkey's Paw)。2 ドルを入れるとランダムに古本が出てくる『BIBLIOMAT』という古本自動販売機があるそうです。

 これらすべての場所に行ってみることはなかなか難しそうです。
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2019年11月25日

「黒い紙」

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堂場 瞬一 著
KADOKAWA 出版

 とても大きな箱の蓋を開けたら中にとても小さなものが入っていたとか、美味しそうなジュースを飲んでみたら水っぽかったとか、そういうふうに表現したくなるような作品でした。

 この作品は、34 歳の元警察官長須恭介が企業の危機管理専門の会社で働くようになって 3 か月経ったころ、ある企業に届いた怪文書の事実関係を探る仕事を任されるところから始まります。長須は、公僕である警察官当時に求められたものと、特定の企業のために働く危機管理会社の社員に求められるものの違いに馴染めず、仕事に向き合う姿勢を定めることができません。

 そんな長須が怪文書に書かれた内容の真偽を確かめるとともに怪文書が送りつけられた動機を探り当てます。警察官の視点で動機を見れば理不尽な扱いを受けた者による犯行に見えたかもしれませんし、もちろん登場人物本人にとってはこのうえなく辛かったことでしょう。でも、会社員生活全般で見れば特に珍しいことではないと思います。全体的に、もったいぶって匂わせた割には驚くほどの謎はなかったという出来で、ミステリとしての面白みには欠けると思いました。
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2019年11月02日

「人生を変える 記録の力」

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DaiGo 著
実務教育出版 出版

 記録手法が 33 種類も掲載され、抱える問題に合わせて手法を選べるのはもちろん、実証データが豊富なテクニックばかりだという点が高く評価できます。

 わたしが一番に試したいと思ったのは『心理対比セッティング』です。ある研究によれば、ゴールを達成する確率が 2〜3 倍も高くなったそうです。書くのは、たった 4 点だけです。『いまの目標』『その目標が重要な理由』『目標達成の障害』『その目標にどう対処するか?』です。

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 自分で自分にコミットする効果があるというのもあるかもしれませんが、個々別々に見舞われる障害に対し、まとめて対策を練って自分に言い訳できないようにできる効果があるのではないかと思います。機会があれば、試したいと思います。

 なかには、わたし自身が試したいとも思わなくとも、テクニックの基礎となっている事実に驚かされたケースもありました。それは『感情表現ノート』という手法で説明されています。毎日の暮らしで新鮮に思った感情表現や単語をノートに記録するというものです。

 なぜ感情表現を集めるのか。それは『感情の粒度』が細かい人ほどストレスに強く、人生の満足度も高いことが研究結果から読み取れるからです。馴染みのない用語ですが、この『感情の粒度』とは、ノースイースタン大学のリサ・フェルドマン・バレット博士が提唱する概念で、自分の感情をどこまで詳しく表現できるかという能力を指すそうです。

 ざっくりとまとめてしまうと、感情を詳しく表現できるようになれば、人生の満足度も上がるというわけです。何か大きな結果を出さずとも、人生の満足度が上がるなら、人にもおすすめできる手法だと思います。
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2019年11月01日

「本物のチーズをめぐる冒険 チーズケーキ屋が考える日本の酪農」

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國武 建明 著
文芸社 出版

 学校給食では欠かさず牛乳を飲んでいましたが、その牛乳のことを何も知らなかったと驚かされました。

 著者は、埼玉県でチーズケーキ専門店を経営しています。この本には、無添加で美味しいチーズケーキを作るため、本当に美味しいチーズを探そうと思い立ったところから、本当に美味しいチーズを作るための美味しい牛乳に辿りつくまでの過程が書かれています。

 牛乳には『高温殺菌牛乳』と『低温殺菌牛乳』があり、高温だと悪い菌だけでなく良い菌も死ぬいっぽう、低温だと悪い菌は死んでも良い菌は残ります。つまり質を求めるならば、低温殺菌牛乳のほうがいいわけです。これを読むと、こんどから低温殺菌の牛乳を買おうと思いますが、もうひとつ問題があります。

 それは『ホモジナイズド (ホモ) 牛乳』とそうではない『ノンホモジナイズド (ノンホモ) 牛乳』の違いです。ホモジナイザーという機械にかけて均質化すると、牛乳を揺らしても分離することがなくなりますし、生クリームになることもなく、扱いやすくなるため、日本で一般的に手に入るのはノンホモ牛乳です。しかし、均質化することにより、飲むとおなかがごろごろする人の割合が増えます。それならノンホモ牛乳を飲みたいと思いますが、日本の現状ではよほど頑張らないと手に入りません。

 著者は、消費者がそういった牛乳の違いを知って、ノンホモで低温殺菌 (ノンホモバスチャライズド) 牛乳を欲しいという人が増えれば、日本の市場も変わり、酪農も変わるのではないかと考え、まずは消費者に牛乳のことを知ってもらうため、この本を執筆されたそうです。
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2019年10月21日

「インスマスの影 クトゥルー神話傑作選」

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H・P・ラヴクラフト (Howard Phillips Lovecraft) 著
南條 竹則 編訳
新潮社 出版

 科学がすべてを明らかにしてくれると思って生きている多くの現代人とは違って、これらの作品をラブクラフトが書いた時代の大半の人には、地球ができる前から存在する生命体といった人智の及ばない領域を容易に信ずることができる土壌があったのだと思います。

 つまり、暗闇を見つけるのが難しいような暮らしをしているわたしが、ラブクラフトが作り上げた怪奇世界に惹きこまれることはないだろうと思って読み始めましたが、結果的に、その予想は裏切られました。

 以下の七篇のうち「暗闇の出没者」では、謎の生物が地球の外から来たことや高度な科学技術を有することなどが事細かに描かれ、その地球外生命体との接触に対し想像が膨らみました。怪奇小説と呼ばれても、SF らしさもある作品だと思います。

−異次元の色彩
−ダンウィッチの怪
−クトゥルーの呼び声
−ニャルラトホテプ
−闇にささやくもの
−暗闇の出没者
−インスマスの影

 また「インスマスの影」は、語り手が自らの恐ろしい体験を披露しているのですが、その体験を凌ぐ恐ろしい事実が最後に明かされます。伏線が張られて回収されるさまは、ミステリーを思わせます。

 初めてラヴクラフトを読みましたが、思いのほか楽しめました。
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2019年10月10日

「校閲記者の日本語真剣勝負」

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東京新聞・中日新聞 編
東京新聞出版局 出版

 東京新聞の校閲担当者が、校閲という仕事のなかで修正を入れるべきか迷った経験などを交えながら、誤用といわれる日本語や簡単には想像できない語源などを紹介しています。

 この手の本を読むと、間違えないようにわたしも気をつけなくては……と思うことも多いのですが、今回は誤用よりも、新聞という立場の難しさを垣間見ることができました。ことばの意味が少しずつ変わり、本来の意味ではなくいわゆる誤用のほうの意味で解釈する読者が増えると、きちんと伝わっているか、気になるようです。

 そういう事情があって、ことばによっては新聞としての暫定的な方向性を決めて対処なさっている様子でした。

 たとえば『悲喜こもごも』。大学の合格発表のように喜ぶ人もいれば落胆する人もいる状況を描写するときに使われることがあります。でも「広辞苑」には、『一人の人間の中で悲しみと喜びが交互に訪れること、同じ一人の心の中で悲しみと喜びが入りまじる様子』とあります。そのため新聞では、一人の感情・心境についてではない、複数の人の情景描写には『悲喜こもごも』を使わず、なるべく『明暗を分ける』などとしているそうです。

 また『極め付けの芸術品』のように使われる『極め付け』。本来は『極め付き』だそうです。大辞泉には『書画・刀剣などで鑑定書の付いていること。優れたものとして定評のあること。また、そのもの。折り紙付き』と説明され、昔はこの鑑定書のことを『極め書き』といい、これが付いていることを『極め付き』といったそうです。それがいま『極め付け』が多用されるようになり、『極め付きに同じ』と辞書に書かれるようになってきているそうです。しかし、新聞ではなるべき『極め付き』を使うようにしているそうです。

 最後に、翻訳ではない新聞でそんなことばが使われているのかと思ったのは『孫息子』です。著者は、『孫息子』はおかしいといわれると明かしたうえで、『孫息子』に違和感を覚える理由は、かつての家制度があるのではないかと述べています。男性優位社会では、孫といえば男の孫を指し、あえて息子を付ける必要がなかったことが理由ではないかと推察しています。これは、子といえば男の子どもを表していたことからも納得ができるという意見です。そういう背景があって、あまり馴染みのないことばですが、孫の男女を区別したいときに便利であり、男女平等の観点からも、新聞では『孫息子』を使っているそうです。
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2019年10月09日

「源氏姉妹 (げんじしすたあず)」

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酒井 順子 著
新潮社 出版

 源氏物語を紐解き、光源氏と関係をもったシスターズを著者の解釈を加味して比べるという企画です。物語の流れや背景を説明したあと、女性たちになりかわって著者が独白するのですが、その独白は、それぞれの個性がうまく描き分けられ、かつ現代女性にとってもわかりやすいよう語られています。

 観察眼に優れた著者の的を射た分析と好みの表明は読んでいると楽しくなります。

 戦後、男性に比べて女性の生き方は多様化してきました。専業主婦に限られず、共働きという選択肢も生まれ、働くにしても補助的な仕事はもちろん、高度に専門的な仕事に就くことも不可能ではなくなりました。

 それぞれの女性がそれぞれの生き方を模索する時代、さまざまな価値観で光源氏と交わった女性たちを見てみることは、時間という距離がある安心な場所から眺められるだけに意外と楽しいものです。

 わたしがもっとも共感を感じられなかった女性は六条御息所です。夕顔、葵上、紫上と 3 人のシスターズを怨み殺してしまったほどの気持ちを哀れに思うもののそこまでの気持ちは理解できませんでした。著者は『どれほど源氏から疎まれても憎まれても、死んだ後まで、一個の人間として生きる道を選んだ』と評しています。一個の人間として生きることは確かに大切ですが、他人の命を巻きことはまた別の問題だと思いました。

 いっぽう、恋しいと思っている相手が閨をともにするため足繁く通ってくることがなくなっても『ひがむことなくおっとりと対応し、言いつかった仕事を粛々とこなしていた』花散里には、共感できました。著者も、そんな花散里は結局のところ幸福に恵まれたと書いています。

 ほかにも源氏の父の妻にあたる藤壺宮、その藤壺宮の面影のある紫上、床上手だったのではないかといわれる夕顔、源氏が幅広い世代の女性に手を出していた証のような源典侍(げんのないしのすけ)など様々なシスターズが登場し、様々な立場の女性の気持ち窺い知ることができ、源氏物語が長年にわたって読み継がれてきた理由のようなものをあらためて知ることができた気がします。
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2019年10月08日

「行動経済学まんが ヘンテコノミクス」

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佐藤 雅彦/菅 俊一 原作
高橋 秀明 画

『行動経済学』とは、有斐閣の経済辞典によると、実験などで繰り返し観察される行動様式を取り入れて経済主体の行動の公理をつくり,それを基に理論を構築する手法の経済学のことだそうです。

 行動経済学者リチャード・セイラーは、行動経済学によって得られた知見は、普段の生活の中で、非合理的な行動を起こしそうな時に、わたしたちをナッジ (nudge:注意をひくために、人を肘でそっと小突いて知らせる) ためのものになっていくべきと述べています。

 つまり、非合理的な自分たちの行動を知り非合理な判断を避けるため、行動経済学を学ぶことは有益であるというわけです。

 ただなかには、マイペースなわたしには当てはまらないと思える行動パターンが稀に紹介されていました。たとえば性格診断を使って説明されていた『バーナム効果』です。提示のされかたによってわたしたちは、実際はどんな人にでも当てはまる性格に関する記述を自分のためのものとして解釈してしまうことがあるそうです。これにより、占いなどで何に対しても『当たってる!』と思ってしまうようなことが起こります。例として用意された性格診断を読んで、わたしには当てはまらないと思ったわたしは性格に偏りがあり、バーナム効果が及ばないのかもしれません。著者が期待していない学びを得られました。

 逆に、期待されたとおりの学びがあったのが『代表制ヒューリスティック』です。わたしたちは様々な物事を見聞きしたときに、すでに抱いているイメージに囚われて偏った判断をしてしまうことがあります。その心のはたらきが『代表制ヒューリスティック』と呼ばれます。

 なぞなぞ形式で問われます。『ある教授のお父さんのひとり息子が、その教授の息子のお父さんと話をしていますが、その教授はこの会話には加わっていません。こんなことは可能でしょうか。』

 答えは『可能』です。性別が限定される単語が 2 種類出てきますが、教授の性別には触れられていません。女性なら可能なわけです。でもなんとなく男性だと想定してしまいます。それが『代表制ヒューリスティック』というわけです。自分が抱いた漠然としたイメージに悲しくなりましたが、いい勉強になりました。
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2019年10月07日

「つながりに息苦しさを感じたら読む本」

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村上 剛 著
セルバ出版 出版

 サブタイトルとして「心が 9 割ホッとするコミュニケーションスタイル」と書かれていますが、これはこの本の内容をあらわしていないと思います。

 NLP University 認定マスタートレーナーという著者の立場から推察すると、NLP のあれこれを伝えるため、この本を書かれたのでしょう。しかし残念なことに、その幅広い知識が細切れに披露されるだけで、コミュニケーションの改善に絞った適切な助言にはなっていません。

 ただその細切れの知識のなかに、納得できる点がいくつかありました。

 そのひとつが『表象システム』です。視覚優位、聴覚優位、体感覚優位にわかれ、それぞれ行動、思考、価値観などの観点から異なるそうです。この本の内容を読む限り、わたしは、聴覚優位に該当するようです。

 聴覚優位の場合、思考が論理的で思考パターンは情報の配列となり、長所は、話の筋が通っている、言語に対し厳密で定義づける傾向があるそうです。短所は、柔軟性に乏しく、コンピュータのようだとのことです。

 視覚優位の場合、思考が直感的で情報の全体な統合を得意とし、長所は、頭の回転が速く、絵画的表現に優れ、モデリングが得意ということです。短所は、話題が飛びがちで、非難が多く、憶測や歪曲も多いそうです。

 体感覚優位の場合、思考が感覚的・情緒的で、情報を現実化する傾向があり、長所は、情け深く優しく、鋭敏な身体感覚を持ち、共感性が高いところです。短所は、感情に取り込まれやすい点です。

 自分を再確認し、他者との違いを把握するのに、この『表象システム』は、役立つように思いました。ただこの差異を越えて良いコミュニケーションを取るにはどうすればいいのかという観点からの記載がなく残念でした。
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2019年09月15日

「王とサーカス」

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米澤 穂信 著
東京創元社 出版

 7月26日の日本経済新聞で、作家の島本理生氏が『女性ジャーナリストの主人公がネパールで王宮の殺人事件の謎に挑む「王とサーカス」も素晴らしいです』と書かれていました。

 謎に挑むのでミステリといっていいのですが、わたしはミステリ好きにもかかわらず、今回は謎解き以外の要素に惹かれました。主人公である万智が旅先のネパールで親しくなった 10 歳くらいと思しき少年サガルのしたたかさや意外性、他人に対してフェアに自身に対して正直にあろうとする万智の姿、そして何よりストーリー全体を通して知りたいという気持ちが尊重されていることに好感が持てました。

 だからといってミステリとして魅力がないわけではありません。実際に事件が起こるまでのあいだに丁寧に伏線が張られ、それぞれきちんと回収されているうえ、行動に合理性があって、ミステリ小説のために取ってつけたような謎は見当たりません。

 加えて、社会的な問題が投げかけている点も印象に残りました。題名の「王とサーカス」は、ネパールの王族たちが 2001 年 6 月 1 日に首都カトマンズ、ナラヤンヒティ王宮で殺害された事実がこの作品で扱われていることからきています。万智が王族たちに関する取材を頼んだとき、事件がマスメディアに報道されれば、王がサーカスのだしものと同じ扱いを受け、王族の悲劇が大衆に消費されるという理由で取材を断られます。報道にそういった側面があるのは事実ですが、そのうえで報道をどう捉えるかが問いかけられています。

 読者ひとりひとりにそのことを考えてみる機会が与えられたのではないかと思います。
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