2017年04月09日

「JAPAN CLASS それはオンリー イン ジャパン」

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ジャパンクラス編集部 編
東邦出版 出版

 ここ数年のあいだ、『実は、日本人(または国や製品)は、こんなにスゴかった』といったエピソードをつなぎあわせたバラエティ番組をよく見かけるようになりました。これは、その書籍版にあたります。

 ネットの匿名コメントをつなぎあわせた内容がほとんどなので「だから、何?」というのが、おもな感想です。

 それら以外では、納得できる部分もありました。ひとつは、ディズニー映画の日本語版吹き替えを紹介した記事です。唇の動きにあうよう音節に拍をあわせた違和感のない吹き替えで、母音が多く柔らかく聞こえる日本語は、やさしい雰囲気の作品の場合、もとの英語より心地よく響くようです。

 もうひとつは、MATCHAというWebサイトの運営者が考える、日本の情報を発信する意義です。消えつつあるモノやコトも含め、日本の文化を知ってもらう努力は意味があると共感できました。(MATCHAというWebサイトを知ることができただけでも、得るものがありました。)

 そうはいっても、こういった自画自賛を前面に出した書籍やテレビ番組が増えに増えているのは、あまりよい風潮には思えません。むやみと自国やその文化を卑下するのも考えものですが、内輪だけで良さを認めあうよりも、他国や他者に自分たちの良さをどのように伝えていくかという方向のほうが好ましく思えます。
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2017年04月08日

「人はなぜ笑うのか―笑いの精神生理学」

20170408「人はなぜ笑うのか」.png

志水 彰/角辻 豊/中村 真 著
講談社 出版

『笑い』というものが多角的に分析されています。どのような起源か、使う筋肉は何か、文化的にどのような役割を担っているのか、そういったさまざまな切り口で論点が展開されています。

 わたしが一番興味をもったのは、さまざまな感情において笑いがどのような位置づけにあるかというモデリングです。

 感情には、それを表わす側と受けとる側があり、ときには受けとる側が混同することもありますが、混同しやすい感情を隣り合わせに並べると以下のようになるそうです。『笑い』から最初に連想するのは、おそらく『楽しい』といった類の感情だと思いますが、以下のモデルでは、『愛・幸福・楽しさ』に含まれます。ただ、『笑い』には、『冷笑』なども含まれ、こちらは以下のモデルの『軽べつ』に含まれます。その対極にある怒りや苦しみの真っ只中にあれば、笑うことはできません。

20170408 感情の円環モデル.png

 上記と似たモデルに、感情と表情の立体モデルも紹介されていました。こちらは、笑いを分類(@からF)し、それを立体モデルにマッピングしています。この地球儀のように見えるモデルの中心部分は、感情がない状態にあたり、地表に向かっていくにつれ、感情が強くなります。

20170408 感情と表情の立体モデル.png

 普段数値化しやすいものを扱う仕事をしているせいか、感情や表情といったものも、このようにモデリングできると考えたことがなかったので、おもしろく読めました。
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2017年04月07日

「通い猫アルフィーの奇跡」

20170407「通い猫アルフィーの奇跡」.png

レイチェル・ウェルズ 著
中西 和美 訳
ハーパーコリンズ・ ジャパン 出版

 動物が語る小説としては、犬が主人公の『名犬チェットと探偵バーニーシリーズ』が好きですが、この作品の語り手であるアルフィーは、チェットとは違って、飼い主に死なれてしまったかわいそうな猫です。不遇な時期にあっても堅実かつ勤勉に生活を立て直そうとする前向きな姿勢が、とても健気です。しかも、エサを前にして我を忘れてしまうチェットとは違って、人間の心理を鋭く分析しつつ、計画的に自分の家族を助けようと奔走します。

 そんなしっかり者のアルフィーですが、捕まえてきたネズミを持ち帰るという人間にとっては甚だ迷惑な贈り物を繰り返したり、あまり仕事のできないビジネスパーソンのように『忙しい』を連呼したり、意外な面を見せたりもします。随所にユーモアが感じられ、ほのぼのとした気分に浸れるので、風邪をひいて横になっていたときの読み物として最適でした。

 少子化が進む日本では、猫と犬を合わせたペット人口は、子供の人口を軽く上回ると言われているだけに、読めば癒されるこんな作品が増えるのかもしれません。
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2017年04月06日

「心にとどく英語」

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マーク・ピーターセン 著
岩波書店 出版

 タイトルにある「心にとどく」とは、『ニュアンスを正確に』といった意味です。普段なんとなく英語を使っていますが、『なんとなく』使っていただけに、間違って使っていた用語が次々と見つけられて、読んだ価値がありました。

【from now on (for a change)】
『これから』というタイミングを強調したいときに、from now on を使っていましたが、『これまでと違って』というのが正しい『強調』点だそうです。

I'll pay the NHK 'reception fee' from now on.

 上記の例は、単に「これからNHK放送受信料を払う」という意味ではなく、「今までずっとなんとか払わずにすんでいたが、バレてしまったので、これからはちゃんと払うしかない」というニュアンスだそうです。わたしが『これまでと違って』を強調したいときに使っていた for a change は、また『これまでの状態』に戻ることを想定した『たまには』の意味になるようです。

Can we talk about something other than Hollywood for a change? We're educated people.

 上記の例は、「たまにはハリウッド以外の話ができないかな。ぼくたちは知識人だろ?」と訳されています。

【(目的語の正当性を疑う) challenge】
U.S. May Seek to Challenge East German Medals

「米、東独のメダル破棄を要請する」と訳されている上記の新聞の見出しのように、challenge を動詞として使うのは、わたしには思いつかない例ですが、この challenge の語源は「誹謗」であり、正当性等を疑って対決を申し入れるのが、基本となる意味だそうです。そこまで強い意味とは知りませんでした。

I challenged him to run in a marathon.

もうひとつの例は、人が主語になっていますが、「じゃあ、マラソンができるなら、やってみろ」という訳になっています。語調がわたしの認識より強いです。これからは慎重にこの単語を使いたいと思いました。

【(迷惑の) on 】
Don't give up on me now.

 上記の例は、映画からの引用で、足を洗ったはずの主人公がまた犯罪に手を染めようとしているので、弁護士であり恋人である女性が「ちゃんとした人生を取り戻すために、私も一緒に頑張ってきたんじゃないの。あなたがそれをあきらめてヤクザに戻ってしまったら、困るのよ」という感じだそうです。前置詞は、奥が深く、いつまで経っても理解できた実感が持てません。

【(エラそうにならないための) you】
 小説の会話などで、明らかに自分自身のことを指しているのに you が使われていることが時々あります。初めて読んだときは「あれ、自分の話だよね?」と混乱しました。自分のことなのに、一般論の you を使う理由を著者は、自慢話にならないように使われるケースが多いと説明しています。

レポーター: How does it feel to win Wimbledon for the first time? (ウィンブルドンの初優勝は、どんなお気持ちですか?)

選手: Well, when you train hard every day for years with one goal in mind, and some days you are just ready to give up, and then suddenly you find yourself at the top like this, you feel like you must be dreaming. (そうですねぇ、一つの目標を目指して何年も毎日続けて厳しいトレーニングをやってきて、そして、もうやめようかと思う日さえあった上、突然こうして成功の絶頂に達したとなると、まるで夢のような感じですね。)

 日本語と比べて、主語を省くのが難しい英語の場合、こうして『私が、私が』とエラそうになるのを避けるのだと納得できました。
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2017年04月05日

「香妃の末裔」

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波平 由紀靖 著
あさんてさーな 出版

 以下が収められた短篇集です。

−香妃の末裔
−遺稿
−星笛鯛
−天鉄
−摩天楼
−狂気の画廊
−翠窯
−蟷螂の斧

 筋書きとしては、おもしろい作品が多いのですが、あまり楽しめませんでした。平板な説明ばかりで、こまかな描写が少ないというか、読んだことが自分のなかで自分なりのイメージになりませんでした。また意外な結末が用意された作品ほど、登場人物に魅力が感じられず、共感できません。

 たとえば「香妃の末裔」では、主人公の男性が偶然知り合った女性に惹かれていくのですが、最後に意外な事実が明らかになった途端、その女性が屁理屈では秀でていても、おとなのルールを理解しようとしない傍迷惑な人に見えてきます。

 また「遺稿」でも、最後に意外な事実が明らかになった時点で、物語の語り手である作家が白々しい嘘を重ねてきた人になってしまい、共感できなくなってしまいます。もし、作家の物語を生み出す苦しみや葛藤が描写されていれば、多少は違った印象を残すことができたかもしれないと思うと惜しい気がします。

 こんな調子で、どの作品もしっくりときませんでした。わたしには向かない作家なのだろうと思います。
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2017年03月24日

「トレント最後の事件」

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E・C・ベントリー (E. C. Bentley) 著
大久保 康雄 訳
東京創元社 出版

 帯に『乱歩が惚れた大傑作』とあります。半世紀以上にわたって読み継がれている作家、江戸川乱歩が高く評価したのも頷ける作品です。

 妻とはこうあるべきといった常識、携帯電話ではなく電報が最速の通信手段であるといったインフラ、指紋採取が最先端だという科学捜査、さまざまな面で古さを感じるのですが、ストーリー展開は、古さを感じさせるどころか、いまでも斬新にうつります。

 この作品の探偵役は、新聞社から派遣されたトレントで、実業界の大物の死を調査します。トレントは、ほかの探偵同様、精力的に証拠を集め、推理を巡らせ、ひとつの結論に達します。通常の探偵小説なら、探偵役が推理を披露して、犯人が特定された時点で、結末を迎えます。この作品の場合、探偵が新聞社から派遣されている関係で、警察を出し抜いて真実を新聞で報道しようとトレントは文章をしたためます。その記事が新聞に掲載されると思いきや、まったく異なる道をたどります。さらに、これで一件落着と思ってから、またひとつ読者の予想を裏切るできごとが起こります。

 そういった基本展開を裏切るストーリーであるにもかかわらず、プロットに無理が感じられません。トリックを開陳するためだけの推理小説と違って、心理面でも辻褄があうよう巧みに作りこまれています。

 探偵が結論を出した中盤以降が、特に楽しめました。
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2017年03月23日

「明治大正 翻訳ワンダーランド」

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鴻巣 友季子 著
新潮社 出版

 翻訳家である著者がさまざまな切り口から、明治・大正時代の翻訳文とそのエピソードを紹介しています。この本を読むまでは考えたこともありませんでしたが、日本語の外の世界にあるものを、日本語の世界にいる人たちに伝えようとした人たちは、一世紀以上も前から試行錯誤を繰り返してきたのだと気づかされました。

 紹介作品のうち、新聞に連載された、黒岩涙香(るいこう)の翻案作「正史実録 鉄仮面」は、読者を楽しませたいと苦心した黒岩涙香によってストーリーが大胆に変更されました。どれほど面白くなったかは、著者の感想に頼らずとも、この作品が一世紀も経ってから新訳が出るほどの人気を得たことから窺い知ることができます。ここまでストーリーを変えても翻案と呼んでいいのかわかりませんが、「鉄仮面」の面白さを伝えたいという熱意は並大抵ではなかったようです。

 大ヒット作はほかにも、アニメで有名になった「フランダースの犬」があります。初の邦訳者は、日高柿軒(しけん・1879〜1956年)で、本国での出版(1827年)から約40年も経ってから、出版されたそうです。そのとき、ネロは清、パトラッシュは斑(ぶち)、ジャンおじいさんは徳爺さんという名で登場しました。それから約一世紀が過ぎ、ネロとパトラッシュを知る人もいない地元アントワープに日本人観光客が続々と訪れるほど、「フランダースの犬」は日本人に親しみのある作品に育ちました。

 そのほか、数え切れないほど数多くの子供たちに読まれてきた「小公子」は、初出が「女学雑誌」で、そこでは巌本善治妻と紹介されていた若松賤子(しずこ・1864〜96年)が翻訳しています。(翻訳家を誰々の妻と紹介するほど職業婦人が珍しい時代だったということでしょうか。)若松賤子は、早くに亡くなっていますが、もし翻訳を続けていれば、どんな作品が「小公子」のあとに続いたのでしょうか。

 これだけの作品を育てた人たちがいたことに感謝したい気持ちになりました。
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2017年03月22日

「脳科学医が教える他人に敏感すぎる人がラクに生きる方法」

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高田 明和 著
幻冬舎 出版

 一般的にはあまり知られていない HSP (Highly Sensitive Person) について、該当者である著者が、おもに自らの体験を書いている本です。

 HSP とは、タイトルにある『他人に敏感すぎる人』のことで、アメリカの心理学者、エレイン・N・アーロン博士が見出したそうです。およそ 5 人に 1 人がこの HSP に該当しますが、病気ではなく、一種の『気質』にあたるそうです。

 この本を読んだきっかけは、自分がこの HSP に該当するかもしれないと思ったことです。読み終えて、いろんなことに納得がいきましたし、社会に出る前にこういう概念を知っていれば……とも思いました。(ただ、HSP が知られるようになってまだ 20 年経っていないので、物理的に不可能なのですが。)それでも、この 20% という数字や適性について知ることができたのは有意義だと思います。これまで自分ひとりの経験のなかから結論めいた、自分なりの答えを出して、それに従って行動してきましたが、その裏づけのようなものを読むことができてよかったと感じました。

 もし世代に関係なく、この HSP が 20% の割合で存在するのであれば、仕事を決めるとか、さらにはもっと前、学校を決めるとき、該当しそうな人たちに読んでほしいと思います。
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2017年03月21日

「校閲ガール」

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宮木 あや子 著
KADOKAWA 出版

 最近ドラマになったと知り、ライトノベルとは知らず、読みました。

 ライトノベルにリアリティを求めるのは筋違いなのですが、それでもやはり、現実味がなければ、物語の世界に入りこむのは難しいと痛感しました。本を読んだこともない入社2年目が、大御所小説家の校閲を任されるって……、しかも、編集者の仕事もついでにしてしまうって……、と気になりだしたら、先の展開を想像して読む気分になれず、表面を滑るように読んで終わりました。

 そのいっぽうで、出版不況については、かなりリアルな溜息が描かれていて、そんな暗い状況を明るくしたいという希望が、こんな主人公を生んだのかもしれません。そのわりには、明るくなれる要素が少ない気がします。わたしにとっては、中途半端な作品でした。
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2017年03月20日

「コンビニ人間」

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村田 沙耶香 著
文藝春秋 出版

 第155回芥川賞受賞作です。わたしにとって、とても共感できる作品でした。

『普通』であることを求められるものの、『普通』とはどういうことなのか、いまひとつはっきり把握できない主人公の古倉恵子は、世間から弾きだされたような生きづらさを感じつつも、コンビニではその一部としてきちんと役割を果たしていると実感ができ、それがタイトルの「コンビニ人間」になっています。

 周囲と同じであることの安心感を必要としなくても、周囲は、周囲と認識を同じにすることを、容赦なく、しかも暗に求めてくるあたり、現代の空気がよく表現されていると思います。その空気感は、売上目標を達成するというゴールに向かって、POPを作成する、在庫を補充する、明るい挨拶を心がけるなどといった具体的かつ詳細な作業にブレイクダウンされているコンビニのプロセスと対比されることによって、とてもリアルに感じられました。

 機会があれば、またこの作家の作品を読んでみたいと思うほど、気に入りました。
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