2016年11月11日

「逆さの骨」

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ジム・ケリー (Jim Kelly) 著
玉木 亨 訳
東京創元社 出版

「水時計」「火焔の鎖」に続くシリーズです。主人公のフィリップ・ドライデンの妻ローラがどうなったのか気になっていたはずなのに、第三弾の出版を見逃していたらしく、友人から第三作を読んだと聞き、早速読みました。

 一番気になっていたローラですが、彼女の両親が住むイタリアに行く段取りを進めているという描写から、全快とはいえないものの、数時間ならベッドを離れられる状態まで戻っていることがうかがえます。前作で登場したCOMPASSという機会を使って、外部とメールをやりとりしたり文献を検索したり、ドライデンの調査を手伝うところまで回復していました。

 ただ、装置や看護は必要で、そうした妻をもつフィリップの負担や気持ちの変化が、今作でも巧妙に描かれていました。逃れられない現実や束縛、逃れたいと思う本音、本音を肯定できない苦しみ、そういった割り切れないものが、リアルに伝わるよう描かれていて、ミステリ以外の面でも満足できる作品です。

 暗い印象が残りがちなこのシリーズですが、今作では、自立心溢れる老齢の女性がドライデンや周辺人物の優しさに救われる部分があり、読後感は悪くありませんでした。
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2016年11月10日

「本当の自分がわかる6眼心理テスト」

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林 吉郎/八木 龍平 著
創元社 出版

 タイトルにある6つの眼というのは、「デジタル」「アナログ」「主体」「客体」「未来」「過去」を指しています。これら6点でできる「デジタル・アナログ」「主体・客体」「未来・過去」の3つの組み合わせにおいて、どちらに偏っているのか、あるいはバランスがとれているのかを知ろうというのが、この心理テストです。

 61問から成るテストに答えるだけなので、テスト自体は簡単です。その結果は、27通りのパターンがあります。(たとえば「デジタル・アナログ」の組み合わせでは、デジタル指向タイプ、アナログ指向タイプ、バランスタイプの3つに分類され、ほかの2つの組み合わせにおいても3つに分類されるので、組み合わせは27通りになります。)

 わたしは、「デジタル・アナログ」ではバランスタイプ、「主体・客体」もバランスタイプ、「未来・過去」では未来指向という結果になりました。このテストでは、「ポジティブな新しい物好き」という分類名が付されています。自他を信じることができるタイプで、ポイントは感謝の心を忘れないことだそうです。

 この心理テストにかかわらず、感謝の心は忘れずにいたいと常々思っているので、その心がけを新たにするいい機会でした。そして、わたし個人に限っていえば、この心理テストは、的を射たアドバイスをしてくれているように見えました。
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2016年09月30日

「日本のタブー」

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副島 隆彦/SNSI副島国家戦略研究所 著
ベストセラーズ 出版

 本質的な部分を知ろうとせずにものごとをイメージで判断してしまうことは、誰にでもあると思います。そしてそのイメージが誰かによって巧妙につくりあげられたものならば、その本質を見極めることは、一種のタブーといえなくもありません。タイトルのタブーは、そういう意味です。

「日本じゅうの人々が間違ったイメージに捉われているが、正しくはこうだ」と、敢えて(禁を破って)真実を披露しようという語調で始まりますが、SNSI副島国家戦略研究所 の関係者がそれぞれ10ページ程度で述べる各論は、そこまで大層な内容ではありません。たとえばある人は、魂は不老不死だと根拠を述べることなく唐突に主張し、あとは延命治療や尊厳死の話題でお茶を濁しています。人の思い込みを覆そうという意気込みなら、もう少し論理的に展開すべきでしょう。

 過激な導入で読者をつって、薄っぺらな内容を言いたいように言っているだけに見えて、あまり印象がよくありませんでした。
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2016年09月29日

「レッドゾーン」

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真山 仁 著
講談社 出版

 普段、経済小説を読まないので、最後まで読みきれるか自信がありませんでした。それが意外にもテンポよく読み進められました。物語の中心に据えられた企業買収が、買収を防ぐ側から描かれていたことが理由のひとつです。

 わたしが勤める会社は小さな会社ですが、その分野では一番手だといわれる会社になりました。もちろん成長もしているのですが、メガ企業が競合会社をみな買収してしまったことも一因としてあります。

 この本を読んでいるあいだじゅう思っていたのは、買収防衛策に費やされる手間や時間を考えれば、株式を公開するリスクを背負わないという選択(わたしが勤める会社のオーナーが採った選択)は、充分合理的なのだということです。資金調達を一気にできなくとも、毎年2桁成長を続けていれば必要な投資はできるという、オーナーの考え方の堅実性が、再認識できた気がします。

 それに加え、日本が中国に買い叩かれる時代の恐ろしさをひしひしと感じるスリルも、読むテンポをあげる効果がありました。
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2016年08月25日

「女子の古本屋」

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岡崎 武志 著
筑摩書房

「え? こんなコトまで?」と驚くくらい、男女で分類する傾向にある日本で出版されただけに、女性が経営・運営している古本屋さんだけを集め、本としてまとめてあります。(そういう分類に目がいかないわたしは、何度か訪れたことのある呂古書房も女性店主だったことは、この本を読むまで気づきませんでした。)

 著者が取材した内容のまとめなのですが、読者に訴えたい方向というか、視点はどこにあったのか、よくわかりませんでした。世には、気配りが感じられる女性店主ならではの素敵な古本屋もあるので、足を運んでみてね。そう訴えるために、店主の人柄や店内の雰囲気が伝わる取材をされたのかな、と思いながら読み進めましたが、最後に『女性が古書店主になるには』という項に辿り着いてしまいました。古本屋になりたいと思っている女性たちに向けた本だったのかもしれません。

 このなかで、わたしが行ってみたいと思ったのは、古書日月堂というお店です。最寄り駅は表参道駅、みゆき通りというおしゃれな場所にあって、フランスで仕入れてきた紙類も扱っているそうです。こういう紹介は、『女子』向けなのかもしれません。
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2016年07月30日

「日曜哲学クラブ」

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アレグザンダー・マコール・スミス (Alexander McCall Smith) 著
柳沢 由実子 訳
東京創元社 出版

 いわゆるコージーミステリに分類される作品だと思うのですが、コージーミステリによく見られるパターンには当てはまらない作品です。殺人嫌疑をかけられて素人探偵が動き出すわけでもなく(そもそも殺人事件と見なされていない)、素人探偵が果敢に調査に食らいつくわけでもなく(倫理や道徳のあれこれを思索するタイプで、行動的とは言いがたい主人公)、警察関係者やプロの探偵が登場するわけでもなく(したがって素人探偵が彼らと張り合うこともできない)、きわめて静かなタイプのミステリです。

 しかもタイトルにある日曜哲学クラブなるものも、陰らしきものは感じられても、実体は見えず、女性哲学者である主人公以外のクラブメンバーも登場せず……。登場人物がきわめて少ないタイプのミステリです。

 わたしが心配することではありませんが、これでシリーズが続けられるのか、少しばかり気になりました(原作では、すでに5作発表され、次作の日本語訳も決定していますが)。訳者あとがきによると、スコットランド、特にエディンバラの雰囲気を楽しむ作品のようなので、それらに詳しい人は、堪能できるのかもしれません。
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2016年07月29日

「怖い絵」

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中野 京子 著
角川書店 出版

 表紙は、ラ・トゥールの『いかさま師』の一部分です。見る人に強烈な印象を残す、胡散臭い人たちの目つきのせいで、この作品が「怖い絵」に挙げられたのは、納得がいきます。

 そのいっぽうで「怖い絵」に挙げられたのが意外な見慣れた絵もあります。たとえば、ドガの『舞台の踊り子』。『エトワール』とも呼ばれているこの絵は、舞台の袖が見えているものの充分に華やかさがあって、怖い絵などと思ったことはありませんでした。それが、著者による解説を読むと、この絵が違って見えてきます。異なる文化や時代のものを鑑賞するときは、その背景を知っているかどうかで印象が違ってくるのだと、あらためて思いました。

 はじめて知った絵もありましたが、いかにもこれは怖い絵だと直感的に思う絵のグループと一見平和に見える絵のグループからそれぞれ3点ずつ選んでみました。

<いかにも怖い絵>
1. 『我が子を喰らうサトゥルヌス』(ゴヤ) 
  構図などこの絵には関係ないと思わせる圧倒的迫力です。
2. 『イワン雷帝とその息子』(レーピン)
  狂気が伝わってきます。
3. 『ホロフェルネスの首を斬るユーディト』(アルテミジア・ジェンティレスキ)
  並々ならぬ覚悟と気迫が感じられます。

<一見平和な絵>
1. 『グラハム家の子どもたち』(ホガース)
  裕福な家庭で大切に育てられている可愛い子たちなのに……。
2. 『ガニュメデスの誘拐』(コレッジョ)
  このあとに待ち受けていることを知っているのか……。
3. 『舞台の踊り子』(ドガ)
  現代のバレエとのギャップが大きくて……。
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2016年07月28日

「さくら」

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西 加奈子 著
小学館 出版

「サラバ!」で直木賞を受賞した西加奈子の代表作として紹介されることの多い作品です。わたしとしては、同じく代表作として挙げられることの多い「きいろいゾウ」のほうが、好みです。

 理由は、ふたつあります。ひとつは、いまのわたしには少し賑やかすぎて重すぎた点です。生きていくのが大変な状況において人生とどう向き合っていくべきか、人を愛するということはどういうことか、たまたまマイノリティ側となったときにどうすべきか、といった、大切ではあっても簡単には答えが導きだせないことが詰め込まれていました。それも関西弁の「いちびり」ということばを思い出させるような賑やかさのなかで語られるので、重く感じられました。

 ちなみに「いちびり」は、市を振るから転じたようです。セリで値を促す際の騒々しさが元になっていることばです。賑やかでよいというニュアンスもありますが、調子に乗ったうるささが少しの不快感をともなっているというニュアンスもあります。ただ、普通のいちびりは目上から疎まれ一喝されたりしますが、桁外れのいちびりとなると賞賛の対象になったりします。

 理由のもうひとつは、主人公がどういう視点で語っているのか、よくわからない場面があったことです。主人公の立場では知りえないことが、時々(後日談といったふうでもなく)さらりと書かれてあり、とまどいました。

 ただ、ベストセラーになったのは、納得できました。手垢のついていない個性的の表現でこの作家独特の世界が広がっているのは「きいろいゾウ」と同じでした。
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2016年07月14日

「日本人の9割に英語はいらない」

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成毛 眞 著
祥伝社 出版

 少しばかり言葉遣いは乱暴に感じられますし、9割という数字の根拠がやや弱い気もしますが、著者がここで主張していることは、ごくごく一般的なことだと思います。この本に書かれてあるとおり、必要のない英語を学ぶことに貴重な時間を費やすくらいなら、本を読んで教養を身につけ、人格を磨くことに労力を割くべきだと思います。英語は、道具でしかなく、道具が立派でも本人が空虚なら意味がありません。

 ただ、この当たり前過ぎる主張のみで適度な厚さの本にするのは苦しかったとみえ、後半にお勧めの本を並べていたりするのは、本のタイトルから離れ過ぎている気がしました。それに、英語を苦手としながら、もし英語が必要になったらどうしよう……という不安に囚われている方々を説得するだけの力強さは感じられませんでした。
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2016年06月25日

「麒麟の舌を持つ男」

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田中 経一 著
幻冬舎 出版

 タイトルの麒麟は、想像上の生き物のほうのキリンです。それほど卓越した舌を持つ男は、一流の料理人ですが、経営していた店の借金を背負い、思い出の食事を人生最後に食べたいという願いを叶える仕事で細々と借金を返済する日々です。

 そんなとき、莫大な報酬をエサに奇妙な依頼が舞いこみます。その奇妙な依頼は、簡単には実現できそうになく、その行方を知りたくて読み進めるものの、結末には、その依頼には別の目的があったことが明かされます。

 その意外な結末に向かって巧みに伏線が張り巡らされていて、料理と家族愛という軸のほかにミステリとしての軸もしっかり存在を主張していました。
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