2018年11月23日

「頭がいい人、悪い人の<言い訳>術」

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樋口 裕一 著
PHP 研究所 出版

頭がいい人、悪い人の話し方」がミリオンセラーになって、この本も書かれたようです。2 冊まとめて買ってあったので、失敗しました。

 読まなくてもいいかと思っていたのですが、ある方の相手をしているとき、ふと手にしてしまいました。期日に間に合わなかったとき、いつも「体調が良くないから」か「昔ならできた」のいずれかで言い訳し、決まって問題を小さめに伝える方がいるのです。この本によるアドバイスは、次のとおりです。

 体調の言い訳には、本当に心配しているところを見せて、病院で検査を受けるよう勧めるのがいいそうです。もし仮病なら、プレッシャーを感じてこの言い訳が減ることが期待できると著者はいいます。

 昔ならできたと見栄を張る人には、あまり追及せずに、温かく見守るべきだといいます。ただ、親が子供に勉強を教える際の言い訳を想定しているので、仕事でのケースに当てはめるのは無理があると感じました。

 過少申告ですませようとする人には、情報は正確に示さないと信用を失うことを教える必要があり、たとえば 15 分遅れるといいながら 1 時間遅れてくる人の場合、15 分待って帰ってしまうといった毅然とした態度をとるよう勧めています。

 最後のケースは、参考にさせていただき、わたしにとっての面倒な人にも態度で示したいと思います。
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2018年11月22日

「覚えていない」

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佐野 洋子 著
新潮社 出版

「100 万回生きたねこ」を描いた著者が絵の話題に触れていて、それには強く頷いてしまいました。

 ひとつは、ナイーヴ・アートです。この本で、『ナイーヴ・アート』ということばを知ったのですが、こう書かれています。

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 私は美術学校行って、遠近法なんかもデッサンなんかも習って、構成なんかも理屈をこねたりしたので、きっと生意気になっちゃっていると思う。そして、どっかのおばあさんが描いた遠近法なんかなくてデッサンなんかも知らなくて、ただ描きたいから描いているのよという絵を見ると、ぎくっとして、胸の真中ニコニコしながら、すごく反省してしまい、本当に絵が好きというもとのもとのところにぐいーっと引き戻されて、本当は絵を描くことは嬉しくて楽しくてやめられないものなのだと思って、オロオロもするのである。
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 これを読んで思わず、損保ジャパン日本興亜美術館に行ったとき、グランマ・モーゼスを見て訳もわからず楽しくなってしまった感覚を思い出しました。

 もうひとつは、著者に向かって、自分は絵を描くために勉強をしていると自慢げに「六十年代のポルシェっていうとコーンナに資料買ってくるんだよ」といった沢野ひとしのことです。

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サワノヒトシがコーンナいっぱいの資料見てポルシェ描くと、ボタモチみたいなポルシェを描く。そんんで横にポルシェなんて字書く。コーンナ資料をコーンナに見ても、全然ポルシェに見えない事は恐しい。見えるのはサワノヒトシだけである。
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「うまいこというなあ」と唸ってしまう表現です。

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2018年11月16日

「不思議なハンコ屋―山本印店物語」

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山本 桃仙 著
マキノ出版 出版

 東京近郊では、とても有名なハンコ屋さんの店主が書いた本です。このハンコ屋さんが有名なのは、ここでハンコを作ると運が開けるという評判と独特な可愛い書体です。

 開運について、著者はこう語っています。
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その人の人生の流れの中で、自然に僕のハンコを持つタイミングが訪れる、ということはあるでしょう。ハンコを作ったから運勢が変わるのではなく、先に運勢の流れがそういうふうに変わってきたから僕の店にやって来るということです。ハンコが先か、運勢が先か。運勢のほうが先なのです。
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 さらに、こうもいっています。
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生まれたときの運勢に合った生き方、その人自身に見合った生き方をしていて、現在使っているハンコがそれをしっかりサポートしていると感じられるときは、ハンコを作り替える必要はありません。
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 著者は、来店予約をとった方に、いま持っているハンコを持ってくるようにいい、そのハンコから新しく作り替えるべきか判断し、不要であればハンコを作らないそうです。

 著者には何かが見えているのでしょう。そして、売上第一に考えないから、山本印店のハンコに運を開く力が備わっているように見えたのかもしれません。
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2018年11月15日

「丁寧を武器にする」

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小山 進 著
祥伝社 出版

 著者がエスコヤマというケーキ店 (カフェも併設) を開いているのは、三田市です。関西の人間は、そこに目を惹かれます。「なぜ、三田 (さんだ) ?」「三田で、どうやって日にロールケーキを 1600 本売るの?」と疑問に思うような場所なのです。

 でも、この本を読めば、納得できます。

『丁寧』と書かれてあることがどれも『当たり前』のことだからです。でもその当たり前を継続することがいかに難しいかは誰もが知っています。だからこれほどの価値がうまれたのだと納得できました。

 もちろん当たり前のことだけではありません。たとえば、『「どんな想いを伝えたいのか」を考える』ことから商品の開発を始めるといいます。『ストーリーを商品に入れ込む』ことが不可欠だというのです。

 また、『今のように「足りている時代」は人と同じことをしていたらむしろ成功はしない』とも語っています。モノが溢れ、欲しいものがない時代に合ったポリシーだと思います。

 風光明媚な三田までわざわざケーキを買いに行って、ついでにアウトドアを楽しんで帰るという日常のイベントを作りだせるパワーのある著者だと思いますが、その著者を育てたスイス菓子ハイジの前田社長という方も秀でた方だったのだと思います。
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2018年11月14日

「さよなら、そしてこんにちは」

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荻原 浩 著
光文社 出版

 以下が収められた短篇集です。

- さよなら、そしてこんにちは
- ビューティフルライフ
- スーパーマンの憂鬱
- 美獣戦隊ナイトレンジャー
- 寿し辰のいちばん長い日
- スローライフ
- 長福寺のメリークリスマス

 共通するのは、現実社会で異論が生まれることがらをユーモラスに描いている点です。

 テレビのバラエティ番組で痩せるとか、健康にいいとか放映された途端、それまで見向きもしなかった食品などに群がり、短ければ数日で忘れてしまって『もっとトクをする』情報へと移ってゆく消費者が多くなっているように思います。「スーパーマンの憂鬱」では、そんな消費者を相手に苦戦するスーパーの仕入れ担当者がちょっとした穴に落ちてしまいます。

 グルメ本で星がついた途端、それまで一度も行ったこともなければ知り合いから評判を聞いたこともない店の予約をとろうと懸命になる消費者も多いように思います。「寿し辰のいちばん長い日」では、ほんのひと握りの常連を相手に見栄を張るばかりで、売上がどん底の飲食店の店主がちょっとした穴に落ちてしまいます。

 情報過多時代の消費者の行動など、ちょっとしたブームに乗ってしまう流れに対して意見は分かれると思いますが、どちらが正しいというのではなく、これらの作品のようにちょっとした笑いでやり過ごすというのもいいと思います。少なくともわたし向きでした。
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2018年11月13日

「Y 氏の妄想録」

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梁 石日 (ヤン・ソギル) 著
幻冬舎 出版

 リアリティの欠片もないという欠点を覆い隠すために、タイトルに『妄想録』と入れたのかと思われるほどの内容でした。

 作品の骨格のようなものも感じられませんし、『とっちらかった』文章という印象しか受けませんでした。読むのは時間の無駄のように思います。

 この著者の本は、これから避けたいと思います。
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2018年11月12日

「忍びの国」

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和田 竜 著
新潮社 出版

 伏線をはり、鍵となる小物を配し、意外性を埋めこみ、売れる小説をそつなく書いた作品という印象を受けました。

 一方が優勢かと思いきやもう一方が盛り返すという先の見えない展開がテンポよく続き、意外に思うものの無理がありません。登場人物の片側だけにあてていたライトをもう片側にもあてるように、心情的に無理なく転換点がつくられているように思います。

 敵の思考を読み巧みな策を練る伊賀の十二家評定衆が身内を斟酌せず策に溺れたり、わが身のことだけを考えていた下人が妻の機嫌をとるためだけに思いもしない行動に出たり、偉大な親に圧し潰された若者が本音を吐露することによって意図せず人心を掌握したり、どの転換点もクライマックスに向けてうまくつながっていました。

 また、わたしにとって意外だったのは、戦に強いだけで共感できる要素の少ない伊賀者が中心に据えられた点でした。自分たちの稼ぎしか考えない地侍に振り回された下人とはいえ、妻と自分のことしか考えられない主役というのも珍しいと思いました。

 ただ、小説の最後で、織田信長の息子に仕えた武士に『自らの欲望のみに生き、他人の感情など歯牙にも掛けぬ人でなしの血は、いずれ、この天下の隅々にまで浸透する』と言わせている点から、この作家は、現代のわたしたちの姿を伊賀者に見ているように感じられました。あるいは、伊賀者ほどは吹っ切れないものの、そうありたいと思っているわたしたちかもしれませんが、わたしにとって意外な主役であっても、多くの読者から共感は得られていたのかもしれません。
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2018年11月11日

「ねみみにみみず」

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東江 一樹 著
越前 敏弥 編
作品社 出版

 あちこちで書かれた翻訳家の文章が、没後編集されて日の目を見るなんてことは珍しいと思います。エッセイストとして活躍する翻訳家も数多くいますが、この著者の場合はそうではありません。訳者あとがきや翻訳 (ミステリ) 関連の雑誌に掲載された翻訳のエッセイがほとんどです。さらに、直接親交のあった方しか読む機会のなかった年賀状も収められているのは、『珍しい』を通り越しているかもしれません。

 やや古すぎる内容も含まれますが、軽妙洒脱で、読んでいて笑ってしまいます。海外作品をおもに紹介するミステリ雑誌、「EQ」に掲載された連載の一部には、こんな文章があります。
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え〜ん、これはつまり、翻訳が悪いってことなのかよう、水曜、木曜。
労力と情熱の対価が、あまりにも安いよう、木曜、金曜。
これじゃあ生計を立てていくことができんよう、土曜、日曜。
というわけで、わたしに残されたのは月曜だけとなってしまった (意味不明)。
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 これはデイヴ・バリーというユーモア・コラムニストが書いた本を翻訳したものの、売上が芳しくないと書いたときの一節です。こういう文章を読むと、技量はもちろんのこと、ユーモア本の売れない日本でデイヴ・バリーの翻訳に挑まれたことも含め、(ミステリだけでなく) ユーモア本を訳すのにも最適任の翻訳家だったのだと思わずにはいられません。

 わたしにとっての一番は、年賀状でした。凝りに凝った内容で、しかも、自虐ネタ満載です。一見笑えるのですが、他ジャンル用のペンネームを持ってノンフィクションの翻訳で生活費を得ながら、細々とミステリを訳していらした様子が窺え、印象に残るおもしろいミステリのあれこれや「ストーナー」のようにこの先ずっと持っていたい本を読ませていただいたことに対する感謝の気持ちが湧きました。
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2018年11月10日

「花が咲く頃いた君と」

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豊島 ミホ 著
双葉社 出版

 若手の作家が書いただけに登場人物も学生が多く、いじめなどの描写もあるのですが、まっすぐな主人公たちが語る内容は、読んでいて爽やかです。以下の 4 篇が収められた短篇集です。

- サマバケ 96
- コスモスと逃亡者
- 椿の葉に雪の積もる音がする
- 僕と桜と五つの春

 Amazon の内容紹介では、『祖父との交流を描いた「椿の葉に雪が積もる音がする」は必読』とあります。祖父と中学 2 年生の孫娘の関係を孫娘の視点から描いているのですが、わたしの場合、年齢からいって、考えることは祖父に近く、つい祖父の視点で見てしまいました。彼が孫娘に問うた「この本、要らんか?」、結果的には最後の会話になったこのひとことの意味が身に沁みました。

 Amazon の内容紹介では触れられていませんでしたが、わたしが一番気に入ったのは「僕と桜と五つの春」です。学生が主人公ならやはり成長物語がいいというのもありますが、桜の描写とそれに重ねた一途な恋が気に入りました。
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2018年10月29日

「虚像の道化師」

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東野 圭吾 著
文藝春秋 出版

浪花少年探偵団」のようなミステリ短篇集ですが、こちらはコミカルな雰囲気はありません。

 これを原作とするテレビドラマをたまたま見て、物理学の准教授が書いた難しい数式が原作でどう描かれているのか気になって読んだのですが、もとの小説には、そういった込み入った描写がなく、准教授もドラマほどエキセントリックなキャラクターとしても描かれていません。

 平均 70 ページほどの短篇でトリックを披露するとなれば、人物描写は端折らなければならないという事情はあるものの、やはりドラマでは、脚本家が頑張って話を膨らませ、キャラクターを際立たせているのでしょう。

 収められているのは、以下の 4 篇です。

- 幻惑す (まどわす)
- 心聴る (きこえる)
- 偽装う (よそおう)
- 演技る (えんじる)

「演技る (えんじる)」は、うまうまとミスリードされたものの、動機の面で少し無理が感じられましたが、演技を生業とする俳優という職業での独特の価値観と考えることもできるかもしれません。全体としては、物理学の准教授が思いやりを見せて、ハッピーエンドとなった「偽装う (よそおう)」が一番わたしの好みに合いました。
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