2018年07月04日

「この一言で「YES」を引き出す格上の日本語」

20180704「格上の日本語」.png

山口 謠司
幻冬舎 出版

 これまでに読んだ日本語をテーマにした本は、多いほうだと思います。そのほとんどは、誤用 (あるいは正しい日本語) といった観点で数々の単語が紹介されたものでした。それらと違ってこの本は、ふたつの単語のニュアンスの違いを理解するとか、単語の来し方や単語を構成する漢字の本来の意味を知るとかといった視点で書かれてあり、わたしの目には新鮮に映りました。

 たとえば『日本』。『にほん』とも『にっぽん』とも読みますが、読み方がこれまで決められてこなかったのはなぜか、といったことが、発音の移り変わりとともに説明されています。

 もともと『日本』は、700 年頃『ニェットプァン』と発音されていたと推測されるそうです。『日本』とは、唐王朝から名づけられた国名であり、中国語で読めばそういう音になるというのが根拠です。そして繰り返し発音され『ニッポン』に変化したのではないかと考えられています。それが 1000 年頃『パ、ピ、プ、ペ、ポ』という発音が『ファ、フィ、フゥ、フェ、フォ』と変わったのを機に『ニフォン』へと変化し、さらに江戸時代に現在とほぼ同じ『ニホン』になったとされています。

 そして昭和の時代、1934 年に『日本』の読み方を『ニッポン』に統一しようという動きがあったそうです。力強く響く国名にしたいという軍の意向から生まれた案です。しかし、皇室を中心とした和歌の世界が促音を嫌い、濁点や半濁点、促音のない世界こそが和語の伝統だと反対し、統一されませんでした。

 ありとあらゆる外来語をカタカナで日本語に取りこんでしまっているいま『和語の伝統』の意味を問いたい気分ですが、反対があったからと、国名の読み方をはっきりせずにここまで来たのは、いかにも日本らしいと思えました。

 この『日本』に限らず、それぞれ丁寧な解説で新しい発見がありました。ただ、タイトルにある『格上』という観点には、疑問を感じました。日本語のなかに格上も格下もないと思います。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | 和書(日本語/文章) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする