2018年07月16日
「七つの会議」
池井戸 潤 著
日本経済新聞出版社 出版
これまで読んだ池井戸作品の「下町ロケット」と「陸王」には、頑張れば報われるといった、理想が現実になったようなヤングアダルト風の雰囲気に占められていたのですが、これは違っていました。
会社内の不正の始まりや隠蔽の進行が描かれているのですが、名立たる企業の不正や隠蔽が次々と発覚している昨今の状況を照らしあわせると、ありあまるほどのリアリティと醜悪さが見えました。
毛色の違う作品を書いても、この作家がうまいと思うのは、深刻な不正が行われた会社内にいるキャラクターに幅を持たせ、会社員なら誰でも自分に近い存在を見つけられるようになっている点です。たとえば、5 年間事務職として勤め、業績らしい業績を残せないまま会社を去る決心をした若手女性社員なども登場し、不正や隠蔽とは別次元で奮闘します。
また、不正に加担しながら、のうのうと逃げおおせる者がいるいっぽうで、不正に加担しないことで冷や飯を喰らい、そのうえ不正の後始末を担う者も登場します。読者は、自分と同じだと思ったり、羨望を感じたりするキャラクターが容易に見つけられると思います。そうした工夫が、読者をストーリーにうまく引き込んでいるように見えました。
そのなかで、「下町ロケット」や「陸王」と同じ路線で、理想を語る人物も登場します。不正の隠蔽で貧乏くじを引いた副社長の田舎に暮らす父親に『仕事っちゅうのは、金儲けじゃない。人の助けになることじゃ。人が喜ぶ顔見るのは楽しいもんじゃけ。そうすりゃあ、金は後からついてくる』と語らせています。
やはり理想を書く作家のようです。