2018年07月17日

「ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪」

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今野 晴貴 著
文藝春秋 出版

 ここでいうブラック企業は主に、新卒の社員を大量に採用し、いわゆる定型業務に従事させて極限まで働かせたり会社に盲目的に従う者を選別したあとに不要となった社員を自己都合退職に追い込む会社を指しています。ブラック企業の卑劣な手口を紹介し、若者にその対策を教示すると同時に政策を批判しています。

 新卒でブラック企業に入社した方々から相談を受けた経験が豊富な著者の若者に対する助言は適切だと思います。そのいっぽうで、ブラック企業を社会から排除する方法について政府を批判する論点は、狭い視野しか持ちあわせずに語っていると感じました。著者は、「低福祉+低賃金+高命令」(ここでいう命令は、会社が社員に対し下す命令のこと) から「高福祉+中賃金+低命令」へのシフトを主張しています。

 日本の GDP が伸び悩み、世界における GDP のシェアが低下の一途を辿っている状況、つまり、かつての中賃金を支えた生産現場が海外に流出してしまった事実が考慮されているようには見えません。さらに著者がいう「低福祉」を維持するだけでも、日本の平均的会社員の昇給を凌いで社会保険料が増える少子高齢化社会の状況も考慮されていないように思われます。恒常的かつ大幅な雇用のミスマッチを解消する手段もまだ模索中です。そんななか、ただ「高福祉+中賃金」を実現しようということに意味があるようには思えません。

 弱者を救おうという意気込みは素晴らしいと思いますが、国レベルのことを語るとき、国レベルの視野をもっていないと説得力は生まれないと思います。専門とする分野に話をとどめておいたほうが良かったのではないでしょうか。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする