
宇治 則孝 著
日本経済新聞出版社 出版
タイトルにある「クラウド」は、オンプレミスと比較する際のクラウドといった構成の話ではなく、『アプリケーションやプラットフォーム、ネットワーク、端末などさまざまな技術が融合してできた状態あるいは環境のことを指す』と定義されています。
つまり、スマートフォンやタブレットなどの個人レベルの普及、高速ネットワークなどのインフラ、認証機能などのセキュリティを堅牢にしたりサーバーを仮想化したりするプラットフォームなども含めてクラウドと呼び、そのクラウドが可能とすることを考えています。
しかも、ICT のことを考えるとき、ビジネスの世界だけに目を向けてしまうわたしとは違って、著者は、行政、医療、教育などでのクラウド活用を提案しています。それによって起こりうる社会の変化をイメージしたとき、これからの少子高齢化社会で必要とされる解のひとつがクラウドではないかと思えました。
医療の例では、医療記録のクラウド化が挙げられていました。病院間のカルテ共有を促せば無駄な検査や投薬を省く効果が期待できます。また個人が自らの端末で血圧など自己データをクラウドにアップすることにより予防医療が進み医療費が削減できる可能性があります。
行政システムをクラウド化すると、住民票移転なども個人が自らの端末からクラウドにアクセスして手続きを進めることが可能になり、行政の費用を削減できるだけでなく、国民の利便性も上がります。
著者がここで示す数字を見る限り、官がかかわる分野でのクラウドの活用は、他の先進諸国に大きく遅れているようです。国民も、プライバシーが守られないといった漠然とした不安から反対するのではなく、どういった個人情報の保護を実装すればいいかといった具体的な考えをもち、既得権益に走る人たちを批判すべき時代になったと思いました。