2018年07月30日

「解夏」

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さだまさし 著
幻冬舎 出版

「解夏」、「秋桜」、「水底の村」、「サクラサク」が収められた短編集です。

 詩のような短い描写のなかに、読み手に想像させる要素が詰まっていたり、相反する気持ちが違和感なく納まっていたり、音楽の世界で活躍する作家の作品を読んで、歌と短篇は通ずるところがあるのかと思いました。印象に残ったのは、「サクラサク」に登場する認知症を患った 80 歳の男性が記憶が失う前に残したいことを書きつけた文章です。

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生きることはもとより恥ずかしきことなりといへども
老いてその恥ずかしさにきづかぬことこそなほ恥ずかし。
我いのち永らへども いのちに恥ずかしきことなし。いのちを恨まず。
ただおのれにみえぬ老いのあはれのみ恥ずかし。
かといひて老いをまた恨まず。
与へられしいのち、与へられし人生、かなしきもまたよろし
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 わたしの友人が子供のころ、痛いと母親に訴えたらいつも、「生きてる証拠」と返されたと話していたことを思い出しました。陰になって見えていなかった部分に気づかされた一節です。

 どの作品も、辛いことのなかにも救いがあり、希望を感じさせる終わり方をしている点で似ていて、読後感が爽やかです。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする