2018年08月28日

「たったひと言で変わる! ほめ言葉マーケティング」

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田村 直樹/藤咲 徳朗 著
コスモトゥーワン 出版

 高い従業員満足 (ES:エンプロイーサティスファクション) が、高い顧客満足を生みだすという論理 (インターナルマーケティング) は、納得のいくものです。だから、従業員満足をあげるために、褒めるという行為をビジネスの場にも取りいれていきましょうという考えも理解できます。

 ただこの本を読んでその内容を実践しようという気にはなれませんでした。説明のためにものごとが簡略化されすぎていて、実際に起こりうる問題を解決できるレベルの知識は得られないからです。

 たとえば『ありがとうメッセージ』を社員同士で伝えあうカードを作ることが紹介されています。『Thank you カード』を書くというイベントを社内で経験したことがありますが、末端レベルでは、下位ポジションの社員は、上位ポジションを褒めることを強いられているようにしか受けとれないと大変不評で、残念ながら不評のまま打ち切りとなりました。

 本書でも、『ストローク』(交流分析における、人々の会話や笑顔のやり取り) の解釈には個人差があることが説明されています。つまりポジティブな意味で発したことばも、ネガティブに受けとられることはあるということです。『Thank you カード』でわたしたちが経験したこともそれと同じですし、そういった経験は誰にでもあると思います。

 わたしが知りたいのは、伝えたいと思った内容と違う受けとり方をされた場合、それをどう把握し、どう修正していくかです。基本のキだけでなく、もう少し実践的な内容があれば良かったと思います。
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2018年08月16日

「テルマエ・ロマエ T-Y」

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ヤマザキマリ 著
エンターブレイン 出版

 何十巻と続くコミックは、途中で挫折することが多いのですが、これは 6 巻だけで完結するし、おもしろいと勧められて読んでみました。

 紀元 129 年のローマの浴場設計技師ルシウスが、現代の日本のお風呂に移動してしまうタイムスリップものです。その後数年にわたり何度か古代ローマと現代日本を往き来するようになります。(ルシウスは、2000 年近くもあとの時代に移動したとは認識せず、なぜか属州地に移動したと認識している設定です。)

 日本のお風呂のあれこれにいたく感動したルシウスは、それらをローマの浴場に取り入れるのですが、そのルシウスの四角四面な態度が笑いを誘います。

 映画になったのも納得のおもしろさでした。

 長風呂で周囲を驚かせるわたしですが、このコミックで描かれているとおり、お風呂は、寛げ、かつ、考えごともできるいい空間だと思います。ただ、そういった考えが古代ローマにもあったという想定で展開するのには驚きました。
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2018年08月15日

「遭難信号」

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キャサリン・ライアン・ハワード (Catherine Ryan Howard) 著
法村 里絵 訳
東京創元社 出版

 失踪とか行方不明というのは、自らの意思で存在を消し去ろうとした可能性も事件に巻きこまれた可能性も考えられ、それだけで謎めいて見えます。そこにどんでん返しを仕込みたいとミステリ作家が思うのも自然かもしれません。

 この作品のなかで、ひとつの話題としてそのタイトルが挙げられている「ゴーン・ガール」も、最後に驚くような展開が待っていましたし、この作家もそういった作品を意識して書いたのかもしれません。

 クルーズ船に乗ったあと行方不明となったサラの恋人アダムは、サラに何かあったに違いないと考えるいっぽう、警察は、成人女性が嘘のアリバイをつくって行方をくらました場合は家出だと考えるのが妥当だと判断します。

 単なる家出ならミステリとして成り立ちにくいこともありますが、アダムの視点だけでなくロマンという青年の子供時代の視点やクルーズ船のクルーの視点が差しはさまれてストーリーが進行すること、冒頭にアダムが海に落ちるシーンがあることから、ある一連の事件にサラが遭遇したに違いないと思われました。

 しかし、最後の最後で予想外の展開が待っていました。読み終えると、フーダニットでもハウダニットでもなく、ホワイダニット作品だったような印象です。大切な人が突然いなくなった人の心情としては『なぜ』行方不明となったのかを知ることは最大の関心事なので、その点をクリアにする結末に向かっていくのは、終わり方としては自然なのかもしれません。
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2018年08月09日

「日本でいちばん小さな出版社」

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佃 由美子 著
晶文社 出版

 出版社のすべての業務、企画も編集も DTP も営業も経理も、たったひとりでこなしているのが、この本の著者です。どうしてそんなことになったかという経緯から始まり、なんとか先行きの目処が立つようになった頃までの道のりが書かれています。

 出版業界の特殊性をある程度知っていたので、よくやるなあと少し呆れた感じで読み始めたのですが、自分が著者に似ていることに気づいてからは、応援したくなりました。

 本 (厳密には紙の本) が好きなこと、人が見ていないところでも社会のルールを守りたがるところ、ローリスク・ローリターンで利益を出そうとする慎重さ、ブラックボックスとなっている仕組みに対し想像を巡らしてあれこれ試しボックスの中身を解明しようとする行為など、わたしが著者に似ているところをあげれば切りがないほどですが、著者のように出版社をやりたいなどとは、決して思いません。

 なにしろ取次口座を持っているということが、日本でいちばん小さなこの出版社の凄さ、著者の行動力の真似できないレベルなどをあらわしていると思います。
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2018年08月08日

「遺伝子が解く! 女の唇のひみつ」

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竹内 久美子 著
文藝春秋 出版

 著者は、動物行動学研究家だそうです。タイトルの「遺伝子が解く!」は、ややオーバーですが、論文などの文献にあたって書かれてあり、説得力のあるエッセイになっています。

 おもしろいと思ったトピックは、ふたつ。ひとつは、樹木の紅葉がテーマです。秋になると紅葉を見に行こうとわたしたちが大騒ぎするのとは全然関係のない理由で紅葉は起こっているのではないかという有力な仮説が、今世紀になって登場したそうです。

 紅葉した木は害虫に向かって、「オレに取り付くのはやめときな。オレがこんなにも黄色い (赤い) のは、おまえたちが取り付こうとしたって無理だっていう意味なんだよ。ウソじゃないぜ。こんなにも黄色く (赤く) なるためには、ごまかしじゃなくて、本当に元気で、抵抗力が強くなきゃだめなんだからね」と言っているという仮説です。

 この仮説は、今世紀になって登場したもので、盤石な共通認識とはいえないようですが、害虫がつきやすい樹木ほど紅葉するという相関関係はフィールドワークで見つかっているそうです。

 もうひとつは、自分たちの耳というか、脳の働きについて驚いたことです。

 一般的に左脳が言語を司っているといわれています (左利きだと右脳が言語脳のケースもあるそうです)。しかし、言語が何かという判定は、環境に依存します。生まれたときから日本語に慣れ親しんできた (日本) 人の場合、母音 (あいうえお) も含めすべての音声言語は、左脳から入るいっぽう、欧米人 (欧米人の定義は書かれてありませんが、英米語を母語とする人を想定されている模様) の場合、母音は右脳に優先的に入り、雑音と認識されるそうです。

 日本語は、尾や絵など母音だけで意味のあることばになりますが、英米語では母音だけのことばは希少であることが影響していると考えられています。これにより、脳が母音と同じようにみなすコオロギの声を聞きながら原稿を書いたりできる日本人と、コオロギの声に邪魔されると原稿書きに集中できない欧米人の違いが生まれるそうです。

 論文を根拠にこういったことを披露されると、単純にすごいなあと思ってしまいます。
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