2020年02月23日

「サイコセラピスト」

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アレックス・マイクリーディーズ (Alex Michaelides) 著
坂本 あおい 訳
早川書房 出版

 タイトルの「サイコセラピスト」は、本書では心理療法士と訳されています。著者は、セラピーを受けて助けられた経験から、サイコセラピストになる勉強をされたようです。それだけに本作品の主人公である心理療法士セオ・フェイバーが語る内容は、専門用語も混じってリアルです。

 ただ、日本語化に際し、その「サイコセラピスト」をタイトルにしたのはマイナスだったように思います。もとの The Silent Patient のほうが、最後の最後まで結末を想像できず、より楽しめたのではないかと感じました。

 The Silent Patient とは、本作品の主人公セオがどうしても自ら担当したいと願う患者アリシア・ベレンソンのことです。夫殺しという重い罪を犯し、司法精神科施設に収容されていて、一切ことばを発しません。

 アリシアが夫を殺害する 1 か月ほど前から書き始めた日記のようなものが本作品の最初に登場し、セオの心理療法士としての仕事の展開とプライベートの結婚生活の流れの要所で挿しこまれています。この作品において鍵となるのは、この 3 本の糸がどう絡まっているかですが、わたしはついこの日記が鍵だと思いこんでしまいました。

 昔読んだ「ゴーン・ガール」に登場する日記のことが思い出され、この日記に真実があるのか、最後まで気になって仕方がありませんでしたが、日記の役割が明かされたときは、ほんの少し正義が残されていたように感じ、読後感は悪くありませんでした。

 誰が精神を病んでいるのか、それを知りたいと思ってしまうページターナーです。
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2020年02月22日

「お金の流れで読む日本と世界の未来」

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ジム・ロジャーズ (Jim Rogers) 著
大野 和基 訳
PHP研究所 出版

 ジム・ロジャーズへのインタビュー内容を書籍にしたものです。投資するほどの資金を持っていないくせに、ジム・ロジャーズが語った内容を書籍にすると大概売れると評判なので、つい気になってしまい読みました。

 投資とは関連性の薄いみっつの話題が気になりました。ひとつめは、韓国語のチェボル (chaebol:財閥) という単語が英語でそのまま通用するということです。日本語の keiretsu が英語で通用するのと似ています。

 ふたつめは、総人口に占める子供 (0〜14歳) の比率が 30% 以下、高齢者 (65歳以上) が 15% 以下のとき、経済が飛躍的に成長する、『機会の窓』が開くという考えです。日本の場合、1965 年から 1995 年がその時期にあたり、イギリスの場合 1980 年、ドイツの場合 1990 年に窓が閉じたそうです。経済は人口構成次第だと、あらためて思い知らされました。

 みっつめは、フィンテックによる世界発の銀行『ITF』が香港に本店を構えたそうです。IT 業界に身を置いているので、『ITF』がどんなサービスを打ち出してくるのか興味が湧きました。

 最後に投資関連の話題をひとつだけ。いま国債を購入するのにふさわしい国はロシアだけだそうです。
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2020年02月21日

「医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者」

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大竹 文雄/平井 啓 編著
東洋経済新報社 出版

 医療現場における行動経済学の研究が、実例を交えながら説明されています。研究はおもに 2 種類あり、意思決定上の行動経済学的なクセによって医療健康行動が、積極的に取られたり、逆に、阻まれたりしていることを明らかにする研究がひとつで、もうひとつは、人の行動経済学的なクセを利用して、積極的な医療健康行動を促進しようとする、ナッジの研究です。

 わたしは医療従事者ではないため、後者より前者の研究に興味があります。特に、QOL に影響する判断で後悔したくないので、自らのバイアスを事前に理解しておきたいと思いました。

 行動経済学的なクセの具体例としては、損失回避、現在バイアス、社会的選好 (利他性・互恵性・不平等回避)、サンクコスト・バイアス、平均への回帰、利用可能性ヒューリスティック、極端回避性、同調効果などです。

 このなかで自分がもっとも自分が囚われやすいだろうと思うのは、サンクコスト・バイアスです。寛解が見込めないこともあり得る、癌などの治療をやめるタイミングは難しいと思います。ここまで頑張ってきた(もうコストは取り戻せなくなっている)のだから、治療をやめたくないと考え、最後にやりたかったことを果たせずに亡くなった事例が紹介されています。

 最後にやりたいことは何か、それをするのに必要な体力と時間はどのくらいかをイメージしながら、サンクコストに囚われないよう注意したいと思いましたが、現実にそのときを迎えたら難しいかもしれません。
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2020年02月20日

「イケア イングヴァル・カンプラード」〜世界の大起業家から学ぶ 〜

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フレドリック・コルティング/メリッサ・メディナ (Fredrik Colting/Melissa Medina ) 著
ジョルダーノ・ポローニ (Giordano Poloni) 絵
岩崎書店 出版

 あの IKEA の創業者の人生を絵本にしたものです。

 わたしは子供のころ、いちおういくらか伝記を読みましたが、そのなかの偉人たちに対し、自分が住む世界とはまったく異なる時代に生きた過去の人といったイメージを抱きました。しかし、この本で描かれるイングヴァル・カンプラードは、2018年まで活躍していた実業家で、同じ時代を生きた人生の先輩といった趣があり、こういう人生譚を絵本というかたちで子供たちが読むのもいいのではないかと思いました。

 薄い絵本にするために、IKEA の創業者のどのような面を切りとったのか興味深いところですが、決して裕福とはいえない家庭に生まれたこと、5 歳のころにはすでに商才が芽生えていたこと、失読症だったこと、17 歳で高校を卒業したことなど、押さえるべき情報は押さえられているようです。

 ただ古い車に乗り、仕事にお弁当をもっていくといったカンプラードのライフスタイルから『ぜいたくをしない』人だと判断し、その目的を『むだづかいをしない』ためと決めつけているのは、少し行き過ぎではないかと思いました。ビジネスパーソンとして、自分が所有する企業で働く人たちを慮っているだけかもしれません。また『ぜいたく』と『無駄』を同一視する価値観を押しつけることに対しても少し疑問を感じました。
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