2021年03月06日

「歌集 滑走路」

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萩原 慎一郎 著
KADOKAWA 出版

小説 滑走路」のもととなった歌集です。32 歳という若さで自死した歌人の最初の歌集です。短歌を始めたきっかけは、17 歳の秋、ミーハー感覚で参加したサイン会で俵万智氏の短歌に出会ったことだそうです。

 俵氏の影響を受けただけあって、短歌は口語です。わたし自身が 32 歳だったころと比べると、現代に生きる若い世代の人たちは大変なんだと溜息が出ました。

- 毎日の雑務の果てに思うのは「もっと勉強すればよかった」

- 逃げるわけにもいかなくて平日の午後六時までここにいるのだ

- 頭を下げて頭を下げて牛丼を食べて頭を下げて暮れゆく

 非正規で就業していた歌人の後悔や諦念を感じずにはいられません。でも、彼は孤独だったようには思われません。

- ぼくも非正規きみも非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる

- 一人ではないのだ そんな気がしたら大丈夫だよ 弁当を食む

- 疲れていると手紙に書いてみたけれどぼくは死なずに生きる予定だ

 そして大切な人もいたようです。

- 遠くからみてもあなたとわかるのはあなたがあなたしかいないから

 たった三十一文字に 3 度も『あなた』と呼ぶその方と、前を向いて歩いていく気持ちも、まだまだあったはずです。

- 内部にて光り始めて (ここからだ) 恋も短歌も人生だって

 この「滑走路」という歌集を出版しようと計画した彼は、こんな素敵な歌を生み出しました。

- きみのため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい

 この歌集が、歌人が用意した滑走路から高く飛び立つことができればいいと思います。
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2021年03月05日

「がんから教わるワンショットセラピー」

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中本 雅子 著
文芸社 出版

 家の整理をしていたら、この本が出てきました。著者のサインと 2005 年 10 月 27 日という日付のそばに Givers Gain, Takers Lose と記されていました。

Dr.チャック・スペザーノのセルフ・セラピー・カード 」の講座に参加した際、そのインストラクターが出版された本にサインしていただいたのです。

 昔のことなので、すべてを覚えているわけではないのですが、著者であるインストラクターが、がんと診断され闘病したことをきっかけに、それまでご自身が教えていたことを必ずしもご自身で実践できていなかったことに気づいたとおっしゃっていたことが印象的でした。

 この本に書かれてあります。『自分の研修の中で、人に「こんなわけない、じゃなくて、こんなわけあるんですよ。間違いなく、これがあなたの人生なんですよ〜」と、偉そうに言っていた』のに、ご自身は、『なんで、私はがんなんだ!』と、受け入れられずにいたそうです。そして、いくばくかの時間をかけて『自分の人生が、これなんだと実感することを「気づき」と呼ぶのだとつくつく』思うようになったそうです。

 研修の講師をされてきた立場で、そんなことを認めてしまっていいのかと思いましたが、その誠実な発言が印象に残る方でした。

 そのほか、この本に登場する、『ゴキゲンに人生を過ごしている人は、自分にとって嫌なことが起きても、それにつける解釈を三個以上、即座に選択することができる』という考え方にも共感できました。

 たとえばある独身女性がこう言ったとします。『私、乳がんかと心配で心配で、訪ねた病院の先生は「ご主人と話しましょう」と言ったんです。私は独身なんですよ! ひどいと思いませんか?』彼女のように医師が悪いと責め、自分を被害者に仕立てるのは簡単です。

 でも、こう思うこともできます。誰かほかの患者さんと勘違いしたのかもしれないし、結婚している人が醸し出す落ち着いたムードを自分がまとっていたのかもしれないし、その医師は勉強ばっかりしていまの職業に就いたので、人の微妙な心の機微について思いやる訓練はなされていないのかもしれないし……。どちらが機嫌よく過ごせるかは、比べるまでもありません。

 また『心の平和は、人から何かしてもらうことを考えている限り、やってこないもの』だという考え方も、そのとおりだと思います。これだけやってあげたのだから、あの人もこれくらいやってくれなきゃと、すべてを交換をベースに考えると、常に腹立たしさを抱えて過ごすことになります。そういう人に限って、自分が他者にしてあげたことは一生忘れないのに、他者からしてもらったことは一瞬で忘れるといったことも起こりがちです。

 こういった考え方が、サインに添えられた Givers Gain, Takers Lose (与えて人は得て、もらって人は失う) にあらわされているのだと思いました。
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