2021年04月30日

「地図でスッと頭に入るアメリカ 50 州」

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昭文社企画編集室 編
デイビッド・セイン (David Thayne) 監修
昭文社 出版

 各州が見開き 2 ページに掲載されています。大まかな地図に、その地域の知らなくてもいいけど知っていると楽しいトリビアがイラストとともに記されているいっぽう、地図の欄外には教科書的な色合いの州全体に関する説明があります。

 地図のおかげで、これまで見逃してきたことが目に留まりました。カナダとの境にあり、アメリカの冷蔵庫と呼ばれるミネソタ州に飛び地があることを初めて知りました。ジョン・ミッチェル地図 (1755 年作成) に基づいてアメリカとカナダの国境線を引いたものの、のちの調査で地図の間違いが発覚。しかし間違った地図に基づいた国境線を引き継いだため、妙な形の飛び地『ノースウェスト・アングル』ができたそうです。

 トリビアでわたしが気に入ったのは、アーカンソー州にあるダイヤモンド・クレーター州立公園です。世界唯一の公共ダイヤ採掘場で、入場料とシャベルレンタル代だけで採れたダイヤを持ち帰ることができるそうです。2015 年に 8.52 カラットの逸品が掘り当てられたと書かれてありますが、調べてみたところ、2020 年には 9.07 カラットのダイヤを持ち帰った方もいるようです。そのサイズに驚かされました。

 比較がしやすいよう、人口、面積、世帯収入、州都、主要都市、主要産業、州の花、州の愛称、選挙人の数などの基本情報が州ごとにまとめられています。これまで州の愛称を目にしても気にかけたことはなかったのですが、今回、アーカンソー州が 1995 年に『機会の州』から『自然の州』に愛称を変更したことを知り、愛称が何かの意図をもって (アーカンソー州の場合、観光産業を盛り上げることが狙い) 公式に変更される類のものだと初めて理解できました。

 また、1 月 6 日の議事堂襲撃事件につき、当時大統領だったトランプ氏が煽動したようにしか見えなかったことと票集めにトランプ氏を頼りにしている共和党がその煽動を咎めなかったように見えたことから、以前よりもずっと各州が民主党寄りか共和党寄りかが気になるようになりました。各州の選挙人の数だけでなく、どちらの政党に傾いているのか、ひと目でわかるようになっていた点は良かったと思います。
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2021年04月29日

「James and the Giant Peach」

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ロアルド・ダール (Roald Dahl) 著
Penguin 出版

The WITCHES」と同じく、両親と死に別れた男の子が主人公のファンタジーです。たった 4 歳で孤児になった James Henry Trotter は、とても意地悪な Aunt Spiker と Aunt Sponge に引き取られ、丸々 3 年間こき使われて過ごしたあと、素敵で不思議な体験をします。

 顔じゅう髭だらけで禿頭の小柄なおじいさんに遭い、石にも水晶にも見える米粒大のものが何千と入った小袋をもらいます。その小さな粒は、緑色に輝いて美しいだけでなく、不思議な魔法の力をもっているとおじいさんは言います。小袋の中身を水に入れ、自分の髪の毛 10 本を加えて一気に飲み干すと、素晴らしいことが起こり、二度と惨めな思いをせずに済むと言うのです。

 胸躍らせた James は、しかし、その大切な小袋の中身を桃の木の近くでぶちまけてしまい、緑の粒は地面に吸いこまれたかのようにひとつ残らず消えてしまいました。おじいさんは、緑の粒を逃してしまったあとは、最初に緑の粒を見つけた者が魔法の恩恵に浴すのだと言っていたことから、James は、自分がチャンスを逃したと覚ります。

 こうして魔法の力により、タイトルにある Giant Peach が生まれ、紆余曲折を経て、James は、この大きな桃を乗り物に、緑の粒で同じく巨大化した 7 匹の仲間、Old-Green-Grasshopper、Centipede、Miss Spider、Silkworm、Earthworm、Glow-worm、Ladybird と共に冒険します。

 なんとなくジャックと豆の木の片鱗が感じられる物語ですが、どうでもいいようなところで正確だったり、桃に乗って旅する空は空想の世界だったり、地上と空のコントラストは読んでいると楽しくなりました。

 たとえば、Centipede (ムカデ) は、足が 100 あると周囲から言われると、正しくは 21 対だとやり返します。(調べてみたところ、オオムカデ科の場合、21 対の足があるようです。)

 また、Green-Grasshopper は、その名前から緑色をしていることがわかりますが、自らのことを short-horned grasshopper だから、バイオリンを奏でるように演奏できるのだと自慢しています。いっぽう、触覚が長いバッタ類は、翅をこすり合わせて音楽を奏でるので、バイオリンというよりバンジョーのような音色だと言うのです。さらに、自分の耳は、おなかにあるが、cricket (コオロギ) や katydid (キリギリス) は、前足に耳がついていると言って、James を驚かせます。

 これら昆虫の描写と正反対にあるのが、空の描写で、Cloud-Men なる集団が空における自然現象を担っています。彼らは、図体が大きいわりに子供のように振る舞い、雹を降らせても虹をかけても楽しそうです。

 物語の最後、James と 7 匹の仲間たちは、とんでもない場所にたどり着き、偶然による見事な着地を果たします。おばたちに虐められていた頃とは正反対の James のハッピーエンドに束の間幸せな気分に浸ることができました。
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2021年04月28日

「アメリカ 50 州を読む地図」

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浅井 信雄 著
新潮社 出版

 正直なところ、アメリカ 50 州のうち、わたしに区別がつくのは東海岸と西海岸の数州のみでした。

 それが本当に少しずつですが、南部や北部の州のことも区別がつくようになっていったのは、この本の影響が大きいと思います。本棚にずっと置き、州の名前がわからなくなると必ず引っ張り出してきたのが、この本です。

 この本を読んで以降、他国に比べ相対的に歴史が短い国であっても、過去のできごとが現在に大きく影響を与えているのは他と同じだと痛感します。印象に残った過去のできごとがいくつかあります。

 メーン州は、1820 年にマサチューセッツ州の一部が分離されてできた州です。その分離の理由が、驚きです。当時、北部の自由州と南部の奴隷州のあいだの微妙な勢力バランスが保たれることが連邦維持のために必要な状況にありました。それなのに、南部のミズーリ州を新たに奴隷州に加えることになったとき、バランスをとるために北部の自由州もひとつ増やさなければならなくなり、北部のマサチューセッツ州をふたつに割り、メーン州を自由州にしたそうです。これは『ミズーリの妥協』と呼ばれています。

 東海岸に位置するコネティカット州は、1636 年に事実上州憲法として認められる『基本的議事規則』を定め、これを参考に合衆国憲法が起草されたともいわれています。州のニックネームは『憲法州』です。州都であるハートフォードは、保険産業発祥の地とも呼ばれ、いまも保険会社が数多く集まっています。最初は海上保険からスタートし、物を輸出するときのリスクに対応したのが発想の原点だったそうです。

 わたしが勤める会社の本社があるノース・カロライナ州には『リサーチ・トライアングル・パーク』があります。文字どおり、研究開発機関が集まっているのですが、思いのほか歴史が古く、第二次世界大戦後、ローレイのノース・カロライナ州立大学、ダーラムのデューク大学、チャペルヒルのノース・カロライナ大学を結ぶ三角地帯に、IBM などの企業と環境・林野行政の研究部門が加わってでき、日本企業からの参入も相次いだそうです。

 第 7 代アンドリュー・ジャクソン大統領は、(カロライナが南北に分割される前の生まれで、出生地は未調査地域だったため、推測の域を出ないそうですが) 現在のサウス・カロライナ州に生まれたと言われています。また彼は、書類を承認するとき、(All Correct ではなく) 発音どおり Oll Korrect と書くのがくせで、それが『OK』の語源になったという説があるそうです。真偽のほどは不明ですが、大統領という立場とのギャップが印象的なことばの由来です。

 逸話も楽しめる 1 冊だと思います。
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2021年04月14日

「のばらの村のものがたり はる・なつ・あき・ふゆ」

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ジル・バークレム (Jill Barklem) 著
岸田 衿子 訳
講談社 出版

 本棚を整理していて見つけた、昭和 61 (1986) 年出版の本です。大型本なので、絵本だと思って開き、思った以上に数多くの文章が連なっていて驚きました。

 子供だけでなく大人の想像力もかきたてられるような、緻密に練りあげられたネズミの世界が広がっています。ルビが振られているものの、難しい漢字も使われていることから、大人も対象読者に含まれているのかもしれません。カバーのそでには、こう書かれてあります。
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 麦畑のはしに小川にむかってのびる、ひとすじのいけがきがあります。
 みかけは、ごくふつうのいけがきです。でも、もっと近づいてごらんなさい。からみあった根の間には、小さなドアが、幹の葉かげには、かわいらしい窓があります。また、長い草のかげには、いくむれかのねずみの姿もみえます。
 これが『のばらの村』なのです。
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 のばらの村の概観を描いた絵は、どこにでもある普通の原っぱにしか見えません。でも、そこは、ほかでもない『のばらの村』なのです。のばらの村に住むネズミには、みな名前があり、快適な住まいを持ち、働き者で、祝いごとが大好きです。

 たとえば、アップル夫妻は、野りんご荘に住み、アップルおばさんは料理が大好きで、アップルおじさんはきりかぶぐらの管理人です。きりかぶぐらというのは、のばらの村の倉庫で、貯蔵室、食料置き場、食器だな、乾燥室、地下室などの部屋が備えられた、かなりの施設ですが、外観は、ただの大きい切り株です。

 ネズミたちの住まいや粉ひき小屋がどうなっているのか断面から描いたイラストは、シルバニアファミリーの家のようです。下のほうの階は貯蔵室になっていたり、子供部屋のぬいぐるみにはネズミが多かったり、高い位置の収納スペースに梯子が立てかけられてあったり、なんとも細かい描写で、眺めていると想像が膨らみ、さらに細部に目がいき、また想像が刺激されるという繰り返しに陥ってしまう魅力があります。

 ジム・バークレムはロンドン郊外にあるエピングの森の近くで 1951 年に生まれたそうです。きっとこんなネズミの世界がひっそりと隠れていてもおかしくないと思える環境で育ったのでしょう。

 本物のネズミを見たときは、身体が凍りついたように動かなくなってしまったのに、この絵本のなかの世界は食い入るように見てしまいました。
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2021年04月13日

「ライオンのおやつ」

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小川 糸 著
ポプラ社 出版

 一見意味不明なタイトルですが、この『ライオン』は、『ライオンの家』という名のホスピスを指しています。百獣の王であるライオンは何も恐れず、安心して食べたり寝たりできることから、ゲストと呼ばれるホスピスの入居者たちもそう過ごしてほしいという願いからきた名前です。

 27 歳という若さで癌に罹り、抗がん剤などの苦しい闘病を経て、32 歳で余命宣告を受けた、海野雫という女性が主人公で、彼女が最後の住まいとして選んだのが、瀬戸内海に浮かぶ島の『ライオンの家』でした。

『ライオンの家』では、毎週日曜日におやつの時間があり、そこで供されるおやつは、入居者がリクエストすることになっています。おやつを食す前に読み上げられるリクエストの手紙を通して、その人の人生を垣間見ることができます。どんな過去があったのかだけでなく、死を目前にしてその過去をどう振り返るか、どう捉えなおすかにその人の人となりがあらわれます。

 もちろんこれは物語であって、経済的に余裕のない人が、これほど恵まれた環境で最期を迎えるという奇跡は実際には起こらないでしょう。でもそのフィクションのなかに、そうなのかもしれないと共感できることばもありました。

『思いっきり不幸を吸い込んで、吐く息を感謝に変えれば、あなたの人生はやがて光り輝くことでしょう』と、ゲストのひとりであるシスターが言っています。『いっつもここで料理作ってると思うんだ。生かされているんだなぁ、って。だって、生まれるのも死ぬのも、自分では決められないもの。だから、死ぬまでは生きるしかないんだよ』と、余命宣告を受けたあともライオンの家の料理人を務める女性が、さりげなく語っています。そして雫は、『一日、一日を、ちゃんと生き切ること。どうせもう人生は終わるのだからと投げやりになるのではなく、最後まで人生を味わい尽くすこと』と死に向き合っています。

 もちろん現実社会では、そんないい人ばかりではなく、だからこそ、この物語が広く読まれることになったのかもしれません。また、誰もが迎える最期を誰もが気にしているからこそ、多くの方が手にとったのではないかとも思います。
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