モーリス・センダック (Maurice Sendak) 作
神宮 輝夫 訳
冨山房 出版
ベストセラー中のベストセラーと言っても過言ではない「かいじゅうたちのいるところ」の作家が描いた 9.5cm × 7cm の絵本が 4 冊、子供だけでなくライオンやワニも読書にいそしむイラストの箱に入っていて、絵本箱になっています。
4 冊の 1 冊目「アメリカワニです、こんにちは」は、かるたのように A から Z までのイラストとそれに添えられたひと言があります。A の alligator で始まり、Z は、Zippity Zound です。Z に添えられたことばは『"ほんとにびっくり"、このかぞく。/「アメリカワニです、こんにちは。」』というもので、このなかの "ほんとにびっくり" が Zippity Zound です。Zippity Zound なんてことば、初めて知りました。
アルファベットごとのことばが変わっていて、Y には yackety-yacking (『だって、これだもんね。おとなのくせして、"べちゃくちゃおしゃべり"。』) が選ばれています。これは、子供ワニが父母ワニにうんざりしている場面ですが、子供ワニのやっかいなところも結構選ばれています。D の dish では『ちえっ、"さら"ふき。』と、皿ふきをさせられた子供が愚痴り、F の fool では『いつまで "ふざける"つもりかねえ。』と、ポニーに乗るように父ワニに乗っている子ワニが描かれ、T の tantrum では、『ほうら、また、"かんしゃく"。』と、父ワニが子ワニのかんしゃくに耳を塞いでいます。
2 冊目の「ジョニーのかぞえうた」は、『1(いち) にんまえの ジョニーくん、/ ひとりぐらしを していると、』で始まり、『2(に) げこんできた こねずみが、/ たなのうえに とびのって、』と、呼ばれもしない客が 10 の音まで増えるさまが描かれ、そこから数は減少に転じ、1 に戻るという数え歌です。
3 冊目の「チキンスープ・ライスいり」は、January から December までの各月にライス入りチキンスープが登場する歌 (詩) が描かれています。チキンスープは『ユダヤ人のペニシリン』 (薬膳料理といった位置づけなのでしょう) とも呼ばれる料理で、ユダヤ系移民であるセンダックにとって特別な意味をもつ味だから、この作品が生まれたのかもしれません。
スープを避けたくなりそうな時季 8 月もチキンスープへの愛が語られています。『AUGUST は 8 がつ。/ かんかんでりだね、このつきは。/ ぼくらは みんな、/ まるで おなべさ あつくって、/ なんの おなべって そりゃ もちろん、/ チキンスープ・ライスいり。/ 1 かい ぐつぐつ / 2 かい ぐつぐつ / ぐつぐつと によう / チキンスープ・ライスいり。』
4冊目の「ピエールとライオン」は、何を言われても『ぼく、しらない!』しか言わないピエールがライオンに食べられる話です。この作品の副題は『ためになるおはなし』です。センダックも子供には手を焼き、こんな結末を夢見たのだろうかと思わずにはいられない結末です。
どの作品も、ステレオタイプではないところが好きですが、一番のお気に入りは、「ジョニーのかぞえうた」が『1(いち) にんまえの ジョニーくん、ひとりぐらしに もどって、/ やっぱり ひとりが / いちばんだあい!』と結ばれているところです。