2021年08月30日

「ちょっとフレンチなおうち仕事」

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タサン 志麻 著
ワニブックス 出版

『予約がとれない伝説の家政婦』として有名な著者が、自身の暮らしぶり、フランスの家庭料理、重宝している料理道具や調味料など幅広く紹介しています。

 今回初めて知ったのですが、レストランでよばれるコース料理と違って、フランスの家庭料理は意外にも手軽な (やや時間はかかるものの手間はそうでもない) レシピが多いそうで、そのことには驚きました。『大根と牛肉のブレゼ』のレシピなどは試してみたいと思えるほどでした。

 また、伝説の家政婦さんは、わたしが知らないような特別なものを使っているに違いないと思い込んでいましたが、限られた料理道具と調味料を最大限活用されていると知り、自分の想像が理屈に合っていなかったことに気づけました。料理をしないわたしが一番使う道具、サラダスピナーさえ、著者は使われていないとか。サラダを作るときは、野菜をざるに入れて、ボウルでふたをして上下に振るそうです。

 料理人と家政婦という、異なる考え方が求められる役割をそれぞれにこなされてきた著者の柔軟性を素晴らしいと思うと同時に、著者は、制約のあるなかで結果を出す家政婦というお仕事に挑戦する楽しさを見いだされたのかもしれないとも思いました。
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2021年08月29日

「女は三角 男は四角」

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内館 牧子 著
小学館 出版

 この著者のエッセイを見かけるとつい読んでしまうのは、彼女の考え方に共感できるだけでなく、話にちゃんとオチがあったり、自虐ネタがあったり、なんとなく関西での暮らしを思い出させてくれるからかもしれません。

 この本の自虐ネタで大いに笑わせていただいたのは、化石を作ろうとした彼女の体験談です。小学校 4 年生か 5 年生のころ、石のかけらにくっきりと葉っぱの模様がうつった化石を見て羨ましく思い、平べったい石を家の裏庭に並べ、その上に葉っぱを乗せ、飛ばないように別の石でおさえておいたそうです。

 それらの石が化石になっていないか頻繁にチェックしながら、周囲に「今、化石作ってんの。もう少し待っててねッ。今、毎日水かけてるから早くできると思うよ」と、言っていたそうです。中年になって、そのことを蒸し返されても、エッセイに活用し、そのうえ子供たちのいじめ論議に発展させる手腕は、あっぱれです。

 転んでもただでは起きぬ姿勢を見習いたいものです。
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2021年08月28日

「ちいさなちいさなえほんばこ」

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モーリス・センダック (Maurice Sendak) 作
神宮 輝夫 訳
冨山房 出版

 ベストセラー中のベストセラーと言っても過言ではない「かいじゅうたちのいるところ」の作家が描いた 9.5cm × 7cm の絵本が 4 冊、子供だけでなくライオンやワニも読書にいそしむイラストの箱に入っていて、絵本箱になっています。

 4 冊の 1 冊目「アメリカワニです、こんにちは」は、かるたのように A から Z までのイラストとそれに添えられたひと言があります。A の alligator で始まり、Z は、Zippity Zound です。Z に添えられたことばは『"ほんとにびっくり"、このかぞく。/「アメリカワニです、こんにちは。」』というもので、このなかの "ほんとにびっくり" が Zippity Zound です。Zippity Zound なんてことば、初めて知りました。

 アルファベットごとのことばが変わっていて、Y には yackety-yacking (『だって、これだもんね。おとなのくせして、"べちゃくちゃおしゃべり"。』) が選ばれています。これは、子供ワニが父母ワニにうんざりしている場面ですが、子供ワニのやっかいなところも結構選ばれています。D の dish では『ちえっ、"さら"ふき。』と、皿ふきをさせられた子供が愚痴り、F の fool では『いつまで "ふざける"つもりかねえ。』と、ポニーに乗るように父ワニに乗っている子ワニが描かれ、T の tantrum では、『ほうら、また、"かんしゃく"。』と、父ワニが子ワニのかんしゃくに耳を塞いでいます。

 2 冊目の「ジョニーのかぞえうた」は、『1(いち) にんまえの ジョニーくん、/ ひとりぐらしを していると、』で始まり、『2(に) げこんできた こねずみが、/ たなのうえに とびのって、』と、呼ばれもしない客が 10 の音まで増えるさまが描かれ、そこから数は減少に転じ、1 に戻るという数え歌です。

 3 冊目の「チキンスープ・ライスいり」は、January から December までの各月にライス入りチキンスープが登場する歌 (詩) が描かれています。チキンスープは『ユダヤ人のペニシリン』 (薬膳料理といった位置づけなのでしょう) とも呼ばれる料理で、ユダヤ系移民であるセンダックにとって特別な意味をもつ味だから、この作品が生まれたのかもしれません。

 スープを避けたくなりそうな時季 8 月もチキンスープへの愛が語られています。『AUGUST は 8 がつ。/ かんかんでりだね、このつきは。/ ぼくらは みんな、/ まるで おなべさ あつくって、/ なんの おなべって そりゃ もちろん、/ チキンスープ・ライスいり。/ 1 かい ぐつぐつ / 2 かい ぐつぐつ / ぐつぐつと によう / チキンスープ・ライスいり。』

 4冊目の「ピエールとライオン」は、何を言われても『ぼく、しらない!』しか言わないピエールがライオンに食べられる話です。この作品の副題は『ためになるおはなし』です。センダックも子供には手を焼き、こんな結末を夢見たのだろうかと思わずにはいられない結末です。

 どの作品も、ステレオタイプではないところが好きですが、一番のお気に入りは、「ジョニーのかぞえうた」が『1(いち) にんまえの ジョニーくん、ひとりぐらしに もどって、/ やっぱり ひとりが / いちばんだあい!』と結ばれているところです。
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2021年08月27日

「1 日誰とも話さなくても大丈夫」

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鹿目 将至 (かのめ まさゆき) 著
双葉社 出版

 完全在宅勤務も 1 年半を過ぎ、この先もこれが続くと思うと、さすがに気が滅入ることもあり、ほかの人たちは、どのように在宅勤務をやり過ごしているのか気になって、この本を手にとりました。

 著者は、メンタルヘルスケアの専門家 (精神科医) ですが、難しい話はなく、そんなに簡単なことなら試してみようかと思うレベルのことが載っています。

 たとえば人は、肉を食べると幸せを感じるようにできているという話があります。肉は、中枢神経系において快楽に関する役割を担っている『アナンダマイド』という物質に変化することがわかっています。また、心の安定をもたらす『セロトニン』の材料になるトリプトファンという必須アミノ酸は、牛や豚などの赤身肉やレバーに多く含まれていることも理由としてあげられています。食事に肉を取り入れるのは、気軽に実践できそうです。

 著者のおすすめで一番わたしが意外に思ったのは、『ひとりごと』です。ひとりのときに思わず何かつぶやいてしまうと、なんとなく自分が危ない人に思えてくるのですが、そうでもないようです。たとえば、月や星などを見て、綺麗だとかすごいとかつぶやけば、本人に好影響を及ぼすらしいのです。脳科学では『人間の脳は主語を理解できない』説があり、美しい星に向かってつぶやいたことばも自分に向けたポジティブワードとして脳が受け取るというわけです。少なくとも、前向きなことばについては、ひとりごとも危なくないわけです。

 在宅勤務という習慣が続くと決まったいま、できることから取り入れたいと思います。
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2021年08月07日

「乱心タウン」

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山田 宗樹 著
幻冬舎 出版

 日本ではあまり聞かないゲーテッド・コミュニティが舞台になっています。『マナトキオ』と名付けられたこのゲーテッド・コミュニティは、総面積が 50 万平米で、区画あたりの面積は最低 200 坪、周囲に高さ 3 メートルの壁を張り巡らし、出入り用のゲートに警備員を常駐させ、セキュリティに万全の体制を敷くという、本格的な仕様です。

 郊外の『マナトキオ』から都心までヘリコプターで行き来する住人も多いのですが、そんな超高級住宅街が日本にあったとして、どんな人たちが住むのか、わたしには具体的に想像することはできません。でもライトというかシンプルなこの小説は、『マナトキオ』のなかは奇矯で、そとは真っ当という構図で対照的に描いています。

 マナトキオの人々は、権力や金銭や異性などに極度に執着し妄想に走っているいっぽう、そとの人々は家族や正義など大切なものを失わないよう踏ん張っていて、両者のあいだで揺れて行き来する人々もいれば、一見そとの人に見えたのに実はなかの人というケースもあります。群像劇のように見えなくもありません。

 多くの読者が共感するであろうそとの人々に、さまざまな困難が降りかかりますが、最悪の事態は起こらず、普通の暮らしを肯定しているといっていいと思います。

 伏線が張られていたり、意外な結末があったり、楽しめる要素もいろいろありましたが、全体としては物足りない印象でした。理由は、この小説のなかにある単純な社会のドタバタ劇にリアリティを求めてしまったことだと思います。展開のテンポも良く、ドタバタを純粋に楽しめるよう工夫された作品なので、これはわたしの性分の問題だと思います。
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