
松尾 豊 監修
ニュートンプレス 出版
ヴィジュアルブックと謳っているだけあって、全ページがカラーで、視覚的に理解できるよう工夫されています。また、AI が得意とする分野と不得意とする分野、つまり、AI と人間の相違点や共通点が捉えられるよう配慮されている印象を受けました。
ヴィジュアルにするとわかりやすいと特に感じたのは 2 点です。ひとつは、ディープラーニングの入力層・中間層 (隠れ層)・出力層の概念です。ニューラルネットワークやノードのイメージとともに層の重なりが図になっていて、なぜディープラーニングと呼ばれるのか直感的に理解できそうです。もうひとつは、クラスタリングの概念です。AI が画像診断でがん細胞を見つける際、がん細胞を正常な細胞と見分けるためにどう処理を行なっているかが、一目瞭然です。
AI と人間の相違点や類似点には、数々の具体例があげられています。まず、AI が人間が到底できないことをいとも簡単にやってのける例は、かくれた系外惑星を AI が見つけた事例などです。惑星が、恒星と地球のあいだを横切るとき、恒星から地球に届く光がわずかに暗くなる (減光) をシグナルとして観測し、解析したケースです。ノイズを見分ける学習を少しさせたあと、大量のデータを処理させると、『Kepler-90i』と『Kepler-80g』という惑星が見つかったそうです。
人間がいとも容易く対応しているのに AI ができない例は、フレーム問題やシンボルグラウンディング問題が取りあげられています。さらに、これらの問題に対し、AI に身体性をもたせると解決されるのではないかという意見も紹介しています。
敵対的サンプル (adversarial example) に脆弱であったり、自然言語を扱う際、文脈から省略された内容を読み解くことができなかったり、一見、人を模しているように見える AI が実はすべて 2 進数の世界の存在だと再認識させてくれる話題も揃っています。
わたしは知らなかったのですが、AI も、なにげない風景などを学習すると、錯視図形に騙されるそうで、人を模すのに成功している範囲が思った以上に広いと感じました。前述の AI に身体性をもたせるという仮説だけでなく、全脳アーキテクチャ・イニシアティブが進める『全脳アーキテクチャ』(人間の脳と同じような機能を有する汎用 AI を目指すため、大脳基底核、大脳新皮質、小脳、海馬などの脳の各モジュールを模して、AI を構築しようとするもの) という試みもあるそうです。それらが実現すれば、もっと人間に近づくのかもしれません。
しかし、そうなると、自分自身を改良できる AI が登場する日が来る気がしてきます。そうなったら、一番手の AI の開発者が総どりですべてを手に入れる可能性があると同時に、複数の AI が均衡状態になる可能性もあると、この本では紹介されています。
ペーパークリップマキシマイザーという思考実験がありますが、リスクを正しく評価する術をもたないまま、AI を開発しているのでなければいいと、あらためて思いました。