2022年03月14日

「日本語文章チェック事典」

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石黒 圭 編著
東京堂出版 出版

 文章を書く際のチェック項目が列挙され、リファレンスのように使うこともできそうな点と、わたしにとって説得力のある内容だった「文章は接続詞で決まる」と同じ著者だという点から、この本を手に取りました。

 チェック項目は、ⓐ論文・レポート向き、ⓑビジネス文書向き、ⓒビジネスメール向き、ⓓブログ・エッセイ向き、ⓔSNS・チャット向きにジャンル分けされ、気になるジャンルだけ拾い読みすることができます。また、それぞれのチェックポイントごとに修正する前の文と修正した後の文が比較できるようになっています。

 いつも気になる、読点と表記については、今後わたしのガイドラインになりそうな内容でした。

 まず、読点で区切ったほうがよいところは、@文章構成に関わる切れ目、A文の中の節の切れ目、B文の中の係り受けに関わる切れ目、C語句の切れ目、D文字の切れ目、とされていました。(これは、「辞書編纂者の、日本語を使いこなす技術」にあったルールより、細分化されていて、よりわかりやすいと思いました。)

 @については、これまで意識してきたことがありませんでしたが、次の例文を見ると、納得できました。
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・このように、曖昧な返事をされた結果がこの惨状の原因である。
・このように曖昧な返事をされた結果がこの惨状の原因である。
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 接続詞に読点がある場合は、文章全体のまとめとして機能しているいっぽう、読点がない場合は、まとめではなく、直前に書かれていると思われる曖昧な返事の内容を示しています。

 そのほかも、読点を打つほうがわかりやすいと納得できる内容です。Bの具体例は、次のようなものです。
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・個人情報は個人情報保護ポリシーに則り厳正に扱い、受付事務および催し物のご案内以外には使用しません。
・個人情報は、個人情報保護ポリシーに則り厳正に扱い、受付事務および催し物のご案内以外には使用しません。
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・返却期限の過ぎている図書をお持ちの方は返却をお願いいたします。
・返却期限の過ぎている図書をお持ちの方は、返却をお願いいたします。
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 Cの語句の切れ目の読点とは、並列関係を示すときに使う読点のことで、次のような例があげられていました。
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・本日は、資料の準備翻訳依頼打ち合わせを行いました。
・本日は、資料の準備、翻訳依頼、打ち合わせを行いました。
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・必要なことやらなくていいことを分けて考える必要があります。
・必要なこと、やらなくていいことを分けて考える必要があります。
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 D文字の切れ目は、文字の種類が同じものが続くときに必要とされるものです。
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・『月 50 件の契約獲得』というより明確な目標を持つことが求められる。
・『月 50 件の契約獲得』という、より明確な目標を持つことが求められる。
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 前者は、読点があることにより、『より明確な目標』=『月 50 件の契約獲得』という関係がひと目でわかるようになっています。また、次の例では、漢字が続く読みにくさが解消されています。
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・申し込み承認後参加情報等が自動送信されます。
・申し込み承認後、参加情報等が自動送信されます。
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 次に、表記については、漢字で書かないほうがよいものが次のようにまとめられていました。
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Ⓐ形式名詞
『もの (物)』『こと (事)』『とき (時)』『ところ (所)』『ため (為)』『わけ (訳)』『ほう (方)』

Ⓑ使用頻度が高い基本的な動詞
『ある (有る)』『なる (成る)』『できる (出来る)』『する (為る)』

Ⓒ補助動詞、補助形容詞
『〜ていく (〜て行く)』『〜てくる (〜て来る)』『〜てもらう (〜て貰う)』『〜ていただく (〜て頂く)』『〜てほしい (〜て欲しい)』

Ⓓ副詞
『あまり (余り)』『あらかじめ (予め)』『いかに (如何に)』『いずれ (何れ)』『おおむね (概ね)』『すべて (全て)』『たびたび (度々)』『なぜ (何故)』『まず (先ず)』『まったく (全く)』『ぜひ (是非)』

Ⓔ接続詞
『および (及び)』『かつ (且つ)』『したがって (従って)』『もしくは (若しくは)』『ゆえに (故に)』『よって (因って)』

Ⓕ助動詞
『ごとく (如く)』『ような (様な)』

Ⓖ副助詞
『くらい (位)』『など (等)』『ほど (程)』
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 迷ったときに立ち戻りたい内容でした。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | 和書(日本語/文章) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年03月13日

「アイスクライシス」

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笹本 稜平 著
徳間書店 出版

 北極点を中心に広がる北極海は、北米大陸とユーラシア大陸に囲まれ、氷盤があるだけで南極のような大陸がありません。冬には容易に飛行機が離発着できる、その分厚い氷がなくなれば、その下に埋蔵されている膨大な化石燃料が手に入りやすくなるだけではなく、北極海航路を簡単に行き来できるようになり、その経済効果は、計りしれません。

 その事実がこの小説の出発点になっています。1 月のある日、ロシアが開発した純粋水爆 (起爆剤として原爆を使わない水素爆弾で、放射性降下物を生成しません) の実験が北極海で実施されるところから物語は、始まります。実験地点では、爆発の影響で急激な海水温上昇が起こり、大地のように見えていた氷盤に亀裂が次々と入って、一気に不安定になります。

 その近くでは、油田探索調査が実施されていました。日本の資源探査会社とそのクライアントである米国の準石油メジャーから成る 7 人の調査チームは、水爆実験について事前に何も知らされておらず、突然探査基地が海に沈むかもしれない状況にさらされます。しかも、極地特有の雪あらしの真っただ中で、飛行機による救助も望めません。

 最初は、調査チームの生還が叶うのか気になって、ページを繰る手が止まらなかったのですが、途中から単調に感じられるようになりました。その理由は、ふたつの単調さにあります。ひとつは、景色の変化が乏しい点です。雪あらしのために視界が悪く、氷盤の状態が悪くなるといっても、そう大きな変化は望めません。そのためか、極端な思想の持ち主がひとり登場人物に入っているのですが、それでも単調さは否めません。もうひとつは、良心のある人とない人がわかりやすく分かれている点です。国益を振りかざして国民を犠牲にする、良心なき政治屋連中と、それに逆らってでも一丸となって民間人を守る軍人たちといった、わかりやすい構図が少し単調に感じられました。

 北極の氷盤がなくなったときの経済効果を巡って、経済大国が芝居を打つといった設定はリアリティもあり、おもしろいと思いますが、小説を終わりまで支えるには少し足りないのかもしれないと感じました。
posted by 作楽 at 19:00| Comment(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年03月12日

「世界でバカにされる日本人」

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谷本 真由美 著
ワニブックス 出版

 著者は、『日本人は自国が世界の先進国で、世界中の人が日本にあこがれ、日本を尊敬し、日本を見習いたいと思っていると勝手に思い込んでいるようですが、実はそう思っているのはほとんどわれわれ日本人だけなのです』と書いています。そして、外国の人々が日本および日本人をどう見ているかに関する自らのイメージを披露し、続いて、世界でバカにされている外国の人々の話で締めくくっています。

 全体的に井戸端会議の域を出ないレベルで、時間を割いて読むほどのことは書かれていないように思いました。著者の論理の出発点、『日本人は自国が世界の先進国』と思い込んでいるという点さえ、何のデータもなく、日本を出たことのないわたしにさえ、噂話程度の信憑性しか感じられませんでした。(同じく井戸端会議レベルですが、わたしは、年齢層が若い世代になればなるほど、日本を先進国だと思っている人の割合が減っていくように感じています。)

 わたしは、多国籍企業に勤めていて、日本人が外国人からどう思われているかにつき、著者と似たような印象をもったことはありますし、著者の言い分すべてに反対するわけではありません。ただ、書籍というかたちにする以上、井戸端会議以上の信頼性や根拠を求めたい気持ちがあり、この本に価値を見出すことはできませんでした。
posted by 作楽 at 20:00| Comment(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする