
浅田 次郎 著
集英社 出版
以下が収められた短篇集です。
- 鉄道員 (ぽっぽや)
- ラブ・レター
- 悪魔
- 角筈にて
- 伽羅
- うらぼんえ
- ろくでなしのサンタ
- オリヲン座からの招待状
死んでしまえば何も残らない、わたしは、そうであればいいと思っていますが、この短篇集を読んでいるあいだは、その考えも少し揺らぎました。
たとえば、「うらぼんえ」では、自分のことに親身になってくれる人がひとりとしていない主人公ちえ子のために、祖父が盂蘭盆会に帰ってきます。天涯孤独な身の上のちえ子にとって叶うことのない願いが叶えられる場面に立ち会った気分を味わうことができ、また理不尽な目に遭いながらも前を向く気力を取り戻すちえ子の姿に温かい気持ちになれました。
同じように「鉄道員 (ぽっぽや)」では、娘を亡くした日も妻を亡くした日も駅員としての職務をまっとうした男の前に、亡くなった娘が成長した姿を見せにあらわれます。たとえ彼がそのあと、たったひとりでこの世を去ったとしても、寂しくはなかったと思えました。
また「角筈にて」では、左遷されてリオデジャネイロに赴く貫井恭一が道中、とうの昔に亡くなった父親とことばを交わします。彼は、小学 2 年生のある日、父親に捨てられたときのことを鮮明に覚えていて、それまで、捨てられた子だから負け犬になったと言われたくないばかりに、勉強にも仕事にも必死に励んできました。でも、左遷された新天地では、もう無理をせずともよいと、安らぎが訪れたようにも思えます。また、父親の思いに触れ、過去の辛い記憶にひと区切りつけることができたようにも見えます。
それぞれ抱えるものがありながら、それを受け止めて次へと進むあたり、しんみりとさせられるだけでなく明るさが感じられ、この作家らしさがあらわれていたように思います。