
ミック・ジャクソン (Mick Jackson) 著
デイヴィッド・ロバーツ (David Roberts) イラスト
田内 志文 訳
東京創元社 出版
次の 10 篇が収められています。全体として、風変りな展開が多いというか、わたしたちが日常的に簡単に諦めてしまっている何かに固執してしまう主人公が多かったように思います。
- ピアース姉妹
- 眠れる少年
- 地下をゆく舟
- 蝶の修理屋
- 隠者求む
- 宇宙人にさらわれた
- 骨集めの娘
- もはや跡形もなく
- 川を渡る
- ボタン泥棒
「ピアース姉妹」では、ロルとエドナのピアース姉妹が、ふたりだけの暮らしに入り込んだ男に、「地下をゆく舟」では、定年を迎えたモリス氏が自ら造った手漕ぎボートを漕ぐことに、「蝶の修理屋」では、バクスター・キャンベル君が美しい蝶の数々に、「骨集めの娘」では、ギネスが地中に埋まった骨に、「もはや跡形もなく」では、フィントン・ケアリーが奥深い森に、「ボタン泥棒」では、セルマがボタンに執着し、追い求めます。
特に印象深いのは、「蝶の修理屋」です。読む前は、『蝶』に『修理』ということばは似つかわしくないと思ったのですが、読み終えたときは、しっくりきました。主人公の男の子が蝶を修理することにのめり込んでいく心情にあまり違和感を覚えることなく読め、ふとしたきっかけにこんなことが自分にも起こるかもしれないという気持ちになったからかもしれません。理性では不可能だと理解していても、それを物語のなかでは現実として見てしまう感覚でした。
この作品は、新たな着想を人に与えるのか、15 分ほどの実写映画になっています。映画では、再生や復活だけに焦点があたっていて、命を奪った者の最後を描いた原作の結末がなくなっています。そのため、物語の陰の部分が失われたように感じました。原作のほうがわたしの好みでした。
「蝶の修理屋」に限らず、常識を外れた何かに魅入られてしまう不思議な感覚に襲われる物語がいくつかありました。タイトルどおりの短篇集でした。