2022年08月30日

「「お金の流れ」がたった 1 つの図法でぜんぶわかる 会計の地図」

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近藤 哲朗/沖山 誠 著
岩谷 誠治 監修
ダイヤモンド社 出版

『会計の地図』とは、企業業績を知る際に鍵となる用語が図式化されたものです。さまざまな数字の位置づけ (ほかとの関係性) を見える化して理解につなげる意図があるようです。具体的には、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の財務 3 表を基本に、売上、費用、利益、資産、負債、純資産、現金、時価総額、のれん、PBR、ROE が取りあげられています。

 株式投資が身近な人と違って、わたしは、ROE の長所も短所もわかっていませんでしたが、この本を読んで初めてその意味がわかった気がしました。ROE が次のようが分解されていて、収益性をあらわす売上高当期純利益率、効率性をあらわす総資産回転率、安全性をあらわす財務レバレッジを一度に見ているようなものだとわかり、その長所がわかりました。

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 その ROE 分解図が、ソフトバンク、NTT ドコモ、KDDI の数字をもって次のように比較されると、ROE という指標は、負債を増やすことによって、意図的に操作することも可能だと理解できます。(ソフトバンクは、同業他社に比べて、負債が多いため、財務レバレッジの数字が大きく、結果的に ROE も高い数字になっています。)

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 著者は、「ROE は、あくまで短期的な企業の価値を測る指標として、とても有効」だとしつつ、ROIC という指標も紹介しています。ROIC は、「企業が事業活動のために投じた資金を使って、どれだけ利益を生み出したか」を示す指標ですが、理解するのが難しいそうです。

 企業業績がわかる数字を多角的に見られるようになるメリットを実感できました。
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2022年08月18日

「日本・日本語・日本人」

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大野 晋/森本 哲郎/鈴木 孝夫 著
新潮社 出版

 著者たちの鼎談とそれぞれの執筆文から構成され、日本・日本語・日本人について論じられています。言われてみればそのとおりと思ったのは、文明と言語の関係です。

 大野氏は、言語は文明とともにあると鼎談で語っています。つまり、「文明力を持てば、その言語は生き残るが、衰えれば別の文明に巻き込まれる。オランダ語がそうでした。江戸時代、日本人はオランダ語を学んできたが、オランダの国力が衰えた途端、それを習う日本人はいなくなった」のです。

 同様に、明治時代になって英語を学ぶことになった背景について、鈴木氏が「明治新政府は西洋文明を取り入れる手段として、最初は英独仏の三言語による英学、独学そして仏学という三本立ての体制で、日本の近代化 (西洋化) をはかるつもりだった。だが数年たらずして、これら三つもの西洋語の習得に乏しい予算と少ない人材を分散させることの非を悟った。当時世界最強の国力をもつ大英帝国の言語である英語に集中するほうが、全体として得策であることが判ったから」だと書いています。

 ただ、英語だけに絞ったわけでもなく、「優秀なドイツの医学や化学、そしてフランスの生理学や優れた軍事技術などの、イギリスよりも進んでいる分野を学ぶためには、ドイツ語とフランス語も全くは無視できなかった。このような事情を考慮して、結局英語を中心に置き (英学本位制)、それにこの二言語を補助的に位置づける」ことになったのです。これらの方針の根本にあったのは、のちに脱亜入欧と呼ばれることになった、日本を『西洋流の文明富強国』(福沢諭吉) とするための政策です。

 そののち、日本が戦争に負けて以降、政府は漢字を制し、日本人の漢字による造語能力が低下するという結果を招いたと大野氏は語っています。これは、いわゆる『和製漢語』(日本で日本人がつくった漢語で、『経済』や『資本』など数多あり、中国語にも外来語として取り入れられています) のことを指していると思われます。その影響もあってか、現代においては、外国の概念をあらわすことばをカタカナ表記でそのまま取り入れるようになり、漢字による造語は見られなくなりました。つまり、中国の国力が衰えたことを見てとり、漢字を積極的に使わなくなったということでしょうか。

 戦後、先進国に追いつこうとし、基本的に海外のものを手本としててきた日本のことを、鈴木氏は、先進国を「追い越した途端に目標が視界から消え失せ、迷走を始めた」と書き、日本が「こんな経済大国になったのが間違いかもしれない。資源をはじめ、あらゆる面でくらべものにならないアメリカに追随し肩を並べていきたいという発想からそろそろ脱却して、身の丈にあった国を目指さなければだめなのでは……」と語っています。

 鈴木氏の考えに心底共感するものの、法律にせよ文化にせよ、海外に存在する何かを持ってくるだけで間に合わせてきた日本に自らの目標を自らつくりあげることができるとは、わたしには思えませんでした。
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2022年08月08日

「ウォール・ストリート・ジャーナル式 経済英語がよくわかる本」

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ウォール・ストリート・ジャーナル日本版編集部 編
毎日新聞社 出版

 見開きごとに、@英文記事の抜粋 1 段落、Aその日本語訳、B『表現のツボ』、C『KEYWORD 解説』が掲載されています。『表現のツボ』欄は、文法の復習になりましたし、『KEYWORD 解説』欄では、日本とは異なる諸外国の制度や慣習を学べました。

 それぞれ印象に残ったのは、次のような内容です。

『表現のツボ』

(1) every と each

 多くの場合交換可能な同義語ですが、every は使えても、each が使えないケースに、大きなグループに属する各々の人、モノを指すとき (例: Every student in our school must follow the rule=わが校の全ての学生はこの規則を守る義務がある)、また『almost/nearly/virtually』に続けるとき (例:Almost every employee got a pay-raise=ほぼ全社員が昇給した) があります。

(2) any と every

 例文の『any big climate-change legislation appears unlikely=気候変動に関するいかなる大型法案も成立しない公算が大きいとみられる』をもとに、any と every の違いが説明されています。any の場合は、対象となる法律案がこれまでに示されていないものまで含めて『いかなるものも』との含意がありますが、every だと既に対象となる法律案は全部出揃っていて、その『どれも』が成立しないという意味になります。

(3) the

 同じ単語の繰り返しを回避するためにも使われる定冠詞 the は、経済記事において、会社名を繰り返さないよう、所在地名を使って言い換えるときにも使われるそうです。Apple 社なら『the Cupertino, California company』とされるそうです。

(4) to と at

 たとえば throw を例に考えると、『throw to』と『throw at』では、かなり意味が違ってきます。前者は、相手がそれを受け取れるように友好的な意図をもち(例:throw a ball to him=彼にボールを投げ渡す)、後者は、相手をそれで打とうとする敵対的な意味になります(例:throw a ball at him=彼にボールを投げ付ける)。

(5) only to不定詞

 わたしは、この用法のニュアンスを汲み取れていませんでした。『only to不定詞』は、ある行動をとったところそれが予想外の残念な結果になってしまうことをあらわしているとのことです(例:Some did so last year, only to watch demand increase after the Federl Reserve pumped money into financial markets and pushed interest rates lower=昨年そう判断した投資家もいたが、結局は、米連邦準備制度理事会 (FRB) の金融緩和によって金利が下がり、(ハイイールド債の) 需要は増した)。

(6) to不定詞

 to不定詞の行為が完了しているのか未完了なのかは、動詞の種類によって決まるそうです。try や urge (例:He urged the House and Senate to send him an overhaul of the immigration system, raise and expand the earned income tax credit for low-wage workers without children, and raise the federal minimum wage for all eligible workers to $10.00 an hour, up from $7.25.=彼 (大統領) は、移民制度改革や子供のいない低賃金労働者向けの給付付き勤労所得税額控除 (ETIC) の増額・拡大のほか、連邦最低賃金の時給 7.25 ドルから 10 ドルへの引き上げ法案の推進を上下両院に促した) の場合、未完了です。いっぽう、urged の代わりに forced を使うと、『強制的に送らせた』と送る行為が完了している意味になります。

『KEYWORD 解説』

(1) 大統領令 (executive order)

 初代大統領の時代から、さまざまな政策で使われている大統領令 (2014 年当時で13,000 ありました) ですが、歴史上違反と判断されたのは、1950 年代 (トルーマン大統領) と 90 年代 (クリントン大統領) にそれぞれ 1 回ずつしかないそうです。

(2) 投資意欲 (animal spirits)

 人間の行動心理に基づく経済活動を分析し、理論化したケインズ経済学の用語です。「The General Theory of Employment, Interest and Money (雇用・利子および貨幣の一般理論) の著作のなかで、ケインズが、起業家の投資行動を規定する心理として使った造語だそうです。

(3) 自律的成長 (organic growth)

 この organic growth は、企業の成長に関するコメントに登場した単語で、『既に手掛けている事業の売り上げや収益の成長』を意味します。『言い換えれば、会社の「事業という組織」が拡大して「組織的成長」を果たした』ということです。このため、『決算の文脈では、合併や買収 (M&A) 分を除いた既存事業の売上高の前年比や前期比の増加率を「organic growth rate」』と表現します。

(4) 繰り延べ税資産 (deferred tax assets)

 繰り延べ『税』資産とは、『企業会計上の費用と税法上の費用 (=損金) の定義が違うため、単年度でみると、ある企業が税金を過大に前払いすることがしばしば生じ』ますが、その支払い過ぎた税金分を貸借対照表の資産の一項目として計上し、費用の性格を持たせ、将来の法人税を減額させる効果を持たせるものです。たとえば、『不良債権を大量処理するため「貸し倒れ引当金=費用」を積んだものの、税務上単年度の引当金の損金算入は限度額が小さいためその分名目利益が大きくなり税金を過大に支払い、』「繰り延べ資産」になるようなケースが考えられます。

(5) ディスインフレ (disinflation)

『「ディスインフレ」とは本来、インフレが金融引き締めによって収束し、物価上昇率が徐々に低下する状態になること』を指しますが、『エコノミストや IMF が警戒する現代的な「ディスインフレ」とは、金融危機後の欧米先進国で物価上昇が小幅にとどまり、いつデフレに陥るかわからないような状況を指します。』驚いたのは、この後者の『「ディスインフレ」を指して「Japanization=日本化現象」と言う人』がいるそうです。

(6) ヘアカット (haircut)

 幅広い意味で使われていることに驚いた単語です。『金融用語としての「haircut」の本来の意味は、債券や株式などの証券を融資の担保として差し出す際に、その価格が将来的に下落するリスクをヘッジするために、一定割合を差し引いて融資すること』を指します。しかし、それ以外にも多様な使われ方が見られるそうです。『ギリシャ国家債務問題ではその国債保有者が、価格の数十パーセントを超える分の償還権利を放棄する「債務の棒引き」の意味』で使われたり、『委託投資した資産の運用が不振なためその受け取り利息などが単に「減額」される意味』として用いられたり、『株やオプション、先物などの金融商品が取引される市場では、信用取引で設定される「margin=証拠金」と同義語』として使われる例まであるそうです。

(7) エクスポージャー (exposure)

 この exposure は、いつも説明に困る用語です。ここでは、『債券や株への投資、融資などをして将来損失を被るリスクを負う状態』だと説明されています。例としては、『「Bank A has a 20% "exposure" in Country B = A 銀行は B 国に 20% のエクスポージャーを抱える」』があげられています。

(8) 給付付き勤労所得税額控除 (earned income tax credit)

 1975 年から米国で導入されている「earned income tax credit (EITC) = 給付付き勤労所得税額控除」は、『ある一定の所得までは税額そのものを控除する低所得者向け社会保障制度です。控除額が所得税額を上回れば、その超過分が米国政府から還付』されます。制度設計として興味深いのは『所得の一定額までは控除額が増えるように設計され、働く意欲を増進させるような工夫』がされている点です。EITC は、『課税最低限以下の低所得者に対し、税額控除できない分が給付される特性』があり、消費税の逆進性対策として有効性が認められているいっぽう、『米国では EITC の過払いが支払総額の 3 割に上るなど制度執行上の問題も指摘』されているそうです。
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2022年08月07日

「日本語と外国語」

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鈴木 孝夫 著
岩波書店 出版

 この本で著者は、日本語などの言語、つまり『ことば』を『人間が世界を認識する手段であると同時に、その認識結果の証拠 (あかし)』だと定義し、焦点を当てています。日本語と外国語を比較しながら、それらの言語で世界がどう認識されているかがとりあげるつもりだったようです。外国語とは、ここでは具体的に英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語を指しています。

 読んだことによって新しい発見が得られましたが、欲をいえば、範囲が広すぎ (つまり、論点が多すぎ) たので、もう少し論点を絞り、掘り下げたほうが良かったような気がします。意地の悪い見方をすれば、掘り下げられなかったから、複数の論点を寄せ集めたのかもしれません。

 わたしがこの本から得た収穫は、主にふたつです。ひとつは、自らが英語学習でつまずいた内容について、理由を知ることができました。もうひとつは、つい最近「訓読みのはなし」を読んで学んだことの理解が深まりました。

 1 点目は、色の話です。英語で、orange といったとき、温州みかんのような色をイメージする方は多いと思います。手元の英和辞典を見ても、色としては『オレンジ色』や『赤黄色』などと説明されています。しかし、『日本人の目には茶色の一種としか見えない色彩も、時には色としての orange に含まれる』と著者は説明しています。同様に、フランス語の enveloppe jaune (直訳では『黄色い封筒』) は、『日本での茶封筒、つまり書類を入れたり、事務的な用件を伝える手紙などによく使う薄茶色のものを指す』そうです。

 英語の orange が日本語のオレンジ色より幅が広いとわたしが知ったのは、Google の画像検索が登場する前でした。著者の例と同じ orange cat の描写がきっかけでした。同様に、dark もわたしにとっては難しい色表現です。dark hair は、『黒髪』がイメージされることが多く、dark eyes は『茶色い瞳』、dark skin は『褐色の肌』なのではないかと思っていましたが、画像検索を利用できるまでは、単なる想像でしかありませんでした。

 著者は、色が示す幅の広さ問題を色彩の『弁別的用法』と『専門的用法』ということばを使って説明しています。前者は『同類の対象を、色彩を手がかりに区別するための色彩語の用法』と定義されています。わかりやすい例としては、信号です。3 色しかないので、『赤、青、黄』で表現し、実際には青が緑色に近かったとしても、専門色の『緑』を使わないと語っています。弁別的用法で使われるのは基本色 (日本語の基本色名は、赤、青、白、黒の 4 色といわれています) であり、黄色は、フランス語では基本色に含まれ、日本語では専門色に含まれるため、カバーする範囲に差がでるということです。後者は、ものの色を指定するときなど『色そのものを問題とする時の使い方』としています。

 2 点目は、日本語における漢字の有用性です。2000 字近い漢字を覚えることは時間の浪費だという意見への一種の反論です。日本語は、英語などに比べ、文が長くなるしくみになっています。しかし、同じ内容をことばにするのに長くなればなるほど不便になります。その欠点を補うために漢字はなくてはならない存在だと著者は主張しています。

 言語ごとの音の単位 (音素) を比較すると、日本語は 23 個、フランス語は 36 個、ドイツ語は 39 個、英語は 45 個と、日本語は他言語より少なくなっています。つまり、日本語がこれらの言語と同じ数だけの単語をもつためには、音素の組み合わせからなる個々の単語が必然的に長くなり、それに応じて文も長くなります。

 また、英語と日本語の基本語を比較したとき、英語に比べて日本語は抽象的だと著者は主張しています。たとえば、日本語の『なく』に該当する英語の動詞を著者があげたところ、cry、weep、sob、blubber、whimper、wail、moan など、45 もあり、より具体的な意味がそれぞれにあります。したがって日本語では、『なく』を具体的に説明するには、副詞や副詞句を添えるため、文が長くなります。

 しかし、音素の少なさにも、抽象的な基本語が多いことにも、漢字が一定の役割を果たしています。同じ音であっても、漢字で区別できるため、音素の少なさが補われます。また、音だけであれば抽象性が高くても、同訓漢字によって具体的になる場合があります。たとえば『とる』の場合、『取』、『採』、『捕』、『把』、『盗』とあり、どの漢字を用いるかによって、意味が狭められます。

 わたしは、ローマ字表記で日本語を使うのは非現実的で、漢字を学ぶ意義はあると思っています。その考えは、日本語を母語とする者の感覚であり、著者のような視点で見たわけではなかったので、興味深くこの本を読むことができました。
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2022年08月01日

「デジタル革命の社会学――AI がもたらす日常世界のユートピアとディストピア」

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アンソニー・エリオット (Anthony Elliott) 著
遠藤 英樹/須藤 廣/高岡 文章/濱野 健 訳
明石書店 出版

 タイトルにある、『AI がもたらす日常生活』を考える際、まず AI が何かをはっきりさせる必要があります。著者は、2017 年のイギリス政府による『産業戦略白書 (Industrial Strategy White Papaer)』で、AI が『視覚的知覚や音声認識、言語翻訳など人間の知能を代替する業務を行う能力があるテクノロジー』と定義されていると紹介しつつ、そこには鍵となる条件が欠けていると指摘しています。それは、『新しい情報もしくは刺激から学び、適応する能力』としています。

 そのうえで著者は、『広い意味において AI を、環境を知覚し、思考し、学習し、そのデータを感知し、それに対応して反応する (そして、予期せぬことに対処する) ことができる、あらゆるコンピュータ・システムのこと』だと定義しています。

 この本では、さまざまな考え方を紹介しつつ、著者は、『デジタル・テクノロジーの中核、特にロボット工学と AI における構造的特徴−−それは社会、文化、政治における他の多くの変容と複雑な形で絡み合っている−−とは何か、明確に示そうと』しています。

 わたしはこの本を読んで、この『他の多くの変容と複雑な形で絡み合って』いる点を軽く見ていたと気づかされた気がします。AI より少し前に起こった変革のひとつにオートメーション化があります。それと同時に通信技術などの発達により、グローバル化も進み、生産拠点などがオフショアに移されるオフショア化も進みました。これらは、お互いに影響しあっていたと考えざるをえません。似たようなことが AI の周辺で起こっても不思議ではありません。

 論文などのさまざまな意見が紹介されているなかで、一番印象に残ったのは、イギリスの作家デビッド・レヴィ (David Levy) が立てた、2050 年までに『ロボットとの愛は人間との愛と同様にノーマルなものとされる』という仮説です。その仮説だけを取りあげると突飛に思えたのですが、マージェ・デ・グラーフ (Maartje de Graaf) が、高齢者たちが、友だちロボットを楽しさ、気づかい、友だち意識を伴って受け入れたと述べている例などを見ると、ロボットをペットと同じように家族の一員とみなすのは、ありえる気がしてきます。

 このままロボット工学と AI が影響しあって発展すれば、一緒に過ごせば過ごすほど自分を深く理解してくれる AI 搭載ロボットに愛情を抱くようになっても不思議ではない気がしてきます。そしてそのとき、ロボットを愛する人間のアイデンティティも AI の影響を受けるのでしょう。

 そのほか、ソーシャルメディアがより浸透したとき、ロシアゲート (2016 年米大統領選挙におけるロシアの干渉) のようなインフルエンス活動が AI を搭載し多様なネットワークを有するソーシャルメディア・ボットによって行われる可能性もより高まり、民主主義において主権を有するとされる国民の意思は、本当に国民が自ら考えたことなのかわからなくなる可能性もあるかもしれません。

 結局のところ、わたしたちは、AI によって何が起こるのか、完全に予測することはできず、ただそれが正しく使われているかどうか評価する術を維持し、その評価を政策や法律に反映させることができる道を何とか残していく以外、できることはないのかもしれません。
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