2022年10月26日

「2020 年代の最重要マーケティングトピックを 1 冊にまとめてみた」

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雨宮 寛二 著
KADOKAWA 出版

 2020 年代がまだ半分も終わっていないのに、なんとも気の早いタイトルだとは思いましたが、『持続的な競争優位を築き上げる経営を実現している』企業の取り組みがわかりやすく説明されていて、興味深く読めました。

 この本で取りあげられている企業は全部で 16 社で、Pfizer Inc. (ファイザー)、株式会社木村屋總本店、アイリスオーヤマ株式会社、株式会社 SUBARU (スバル)、ソニー株式会社、オムロン株式会社、Starbucks Corporation (スターバックス)、株式会社良品計画、株式会社ニトリ、株式会社リクルートホールディングス、株式会社 FOOD & LIFE COMPANIES (スシロー)、サントリーホールディングス株式会社、Microsoft Corporation (マイクロソフト)、Amazon.com, Inc. (アマゾン)、Apple Inc. (アップル)、Google Inc. (グーグル) です。

 企業の取り組み内容だけでなく、どういった点が高い評価を得ているかなど理論面の解説も添えられています。ただ、『最重要』レベルの情報がまとめられているため、わたしにとっては、ほかでも知る機会があった事例も含まれていました。そのなかで、もっとも印象に残っているのは、スターバックスが取り組むダイバーシティの推進に関する解説です。

 多様性に富む職場環境のほうが、創造的な成果が生まれやすいと一般的に言われています。この本では、『ダイバーシティは、「タスク型ダイバーシティ (task diversity)」と「デモグラフィー型ダイバーシティ (demographic diversity) の 2 つに大別』されると説明されています。

 前者は、能力や知見、経験、価値観、パーソナリティなど外見からは識別しにくい多様性を意味し、後者は、年齢、性別、国籍、人種など目で見て識別しやすい多様性を指すそうです。そして、これまでの研究から、前者は、企業にとってプラスの効果を生み、後者は、プラス効果を生み出さず、場合によってはマイナスの効果をもたらすことがわかっているそうです。マイナスの効果が生まれるのは、組織内で認知バイアスが生まれることがおもな原因になっています。

 そのため、認知バイアスを取り除くプログラムを取り入れるなどの工夫が必要になるそうです。スターバックスでは、タスク型ダイバーシティが取り入れられ、パフォーマンス向上にひと役買っているそうです。『多様性』ということばがひとり歩きしている感がある昨今ですが、スターバックスが 20 年以上という時間をかけて取り組んできたことには、重みが感じられました。
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2022年10月25日

「美しき魔方陣」

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鳴海 風 著
小学館 出版

 デリバティブにおいて、誰もが知っているブラック-ショールズ方程式は、日本人数学者伊藤清氏 (1915 年〜 2008 年) の『伊藤の補題』なくしては証明できなかったと言われているそうです。そんな有名な数学者が日本にいたと知ったのは、最近のことです。日本では、STEM 人材が常に不足しているイメージがあったので、意外でした。

 また、この本を読むまで、久留島義太 (くるしまよしひろ、? 〜1757) という和算家 (和算とは、江戸時代に日本で独自に発達した数学) がいたことも知りませんでした。関孝和 (せきたかかず、? 〜1708) と建部賢弘 (たけべかたひろ、1661-1716) の 3 人で日本の数学を築いたといわれているほどの人物だそうです。

 タイトルにある魔方陣とは、1 辺が 4 つのマスから成る行列で、その縦の 4 マスも横の 4 マスも合計が 130 になるだけでなく、それを 4 つ重ねた状態で、上から下までの 4 マスの合計も、立方体を斜めに貫く対角線上の 4 マスの数の合計も 130 になるうえ、隣り合う 4 つの数 (2 行 2 列の組み合わせ) の和も 130 になるというものです。これを美しいといいたい気持ちはよくわかります。

 その魔方陣を導き出すまでの道のりが描かれているのが本作品です。久留島がかなり風変りな人物として描写されていますが、その奇行が彼の天才ぶりにリアリティを与えている気がするのが不思議です。また、久留島と友情を育む松永良弼 (まつながよしすけ) が対照的な人物として描かれていたり、久留島に目をかけている土屋土佐守好直 (つちやとさのかみよしなお) が彼の天賦の才を認めつつ、彼の振る舞いをおもしろがっていたりするのも、楽しく読み進められる要素になっている気がします。

 さらに、数学が江戸時代の藩政に直結していた点も興味深い気づきでした。たとえば、米の収穫高に大きく影響を及ぼす治水問題に取り組むにも数学の知識が必要でした。「天地明察」を読んだ際、いまでは当たり前に使っている暦の重要性に気づかされたときと似た感覚でした。
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2022年10月24日

「日本人が忘れてはいけない美しい日本の言葉」

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 国語学者で、「日本国語大辞典」初版の編集長を務めた著者が「日本国語大辞典」第 2 版を参考に書いた本です。ほぼ半月で仕上げたと言い訳めいた説明が最初にあるとおり、不備な点が散見されますが、わたしにとっては、これまで意識したことのない日本語に触れる機会になりました。

 それは、洒落言葉です。現代において、言葉は短くされるいっぽうのような気がします。たとえば、ダイレクトメッセージなどでは、『り』は『了解』を意味するそうです。

 しかし、言葉を付け足した洒落言葉が、かつては数多くあったようです。この本で紹介されているのは、地名に絡んだものです。『その手は桑名の焼き蛤』、『恐れ入谷の鬼子母神』、『嘘を築地の御門跡』、『堪忍信濃の善光寺』、『なんだ (涙) は目にある神田は東京』などです。

『その手は桑名の焼き蛤』の場合、『その手は食わない』と言えば済むところを『桑名』にひっかけて、その地の名物『焼き蛤 (蛤を殻つきのまま火で焼いたり、蛤のむき身を串に刺してつけ焼きにしたりした料理)』を付け足しています。『恐れ入谷の鬼子母神』の場合、『恐れ入る』の『入る』に地名『入谷』をひっかけて、その地にある有名な『鬼子母神』を付け足しています。

 別になくてもいいことを付け足すことにより、おどけている様子や皮肉めいた印象が加わります。遊び心が感じられ、無駄なものを徹底的に排除する流れとは逆の余裕があるように、わたしには思われました。

『嘘をつく』と築地を掛け、さらに、その地にある本願寺とつなげている『嘘を築地の御門跡』(門跡は、幕府が制定したもので、出家した皇族が住職を務める格式の高い寺院) などは、真っ向から『嘘をつくな』というより、当たりが柔らかく、好ましく思えました。同様に、『堪忍しなさい』というより、『堪忍信濃の善光寺』のほうが、言われるほうも仕方がないと思える気がします。

 ときには、言葉に何か付け足すことも大切なのかもしれません。
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