2022年11月18日

「解決できない問題を、解決できる問題に変える思考法」

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トーマス・ウェデル゠ウェデルスボルグ (Thomas Wedell=Wedellsborg) 著
千葉 敏生 訳
実務教育出版 出版

 社内教育などで認知バイアスを学ぶ機会が増えました。広辞苑によると、『バイアス』とは、『偏向』のことだそうです。色眼鏡、思いこみ、固定観念などに言い換えられるケースも多いことばだと思います。

 素人考えですが、認知バイアスは、脳が効率化を求めた結果ではないかと推測しています。つまり、ひとつひとつ吟味していては時間がかかり過ぎる状況において、これまでの経験などをもとに近道をして判断したり、心理的負担を極力減らそうと不安をなかったことにしたりといったことから成り立っているのではないかと想像しています。

 ただ、やはり思いこみや固定観念がマイナスに働く場合もあるので、大切な局面においては、バイアスに囚われないようにする必要があると思います。この本では、『解決できない問題』だと捉えているその問題は、実は、誤った考え、つまりバイアスの影響を受けた結果なのではないかと問いかけています。

 たとえば、ビジネスの現場において、競合他社の打破、イノベーションの促進、リーダーへの昇進などの目標が掲げられた場合、それを追求にふさわしい目標だと無意識に思いこんでいないか、いま一度冷静に吟味する必要があるのではないかと諭しています。

 解決できないと思い悩んでいる問題をより大局的に見て、目標を達成するためにすべきことは本当にその問題の解決なのか捉えなおす作業を著者は、『問題のリフレーミング』と呼んでいます。

 リフレーミングの手順は、この本で詳細に説明されていますが、わたしがその手順に従う価値があると思ったのは、ある事例が紹介されていたからです。それは、社内情報を共有するためのプラットフォームの利用が進まない理由は、ソフトウェアの使い勝手の悪さにあるので、そのユーザービリティを改善してほしいという依頼に対応した事例です。

 その事例では、情報共有をするメリット (インセンティブ) がなく、情報を共有しない理由としてソフトウェアが槍玉にあがっただけだということが判明しました。その対応として、インセンティブ制度を改善したところ、ソフトウェアの大幅改修をすることなく、情報共有が大幅に進みました。ソフトウェアが悪いと言われて改修しても何も変わらないという『IT 業界あるある』に陥らなかった好例だと思います。

 わたしたちは思いこみによって動いていることが多々あると認識して、意図的に自分あるいは自分たちを疑ってみる必要性を実感できた一冊でした。
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2022年11月17日

「メタバース進化論」

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バーチャル美少女ねむ 著
技術評論社 出版

 学ぶことが多いだけでなく、わたしの好みに合った本でした。好ましく思った理由は複数あります。まず、新しい技術の分野では、用語の認識を合わせるのが難しいのですが、この本では、著者の視点で『メタバース』が最初に定義されている点が良かったと思います。次に、データをもとに現状を分析しようとしている点、さらには、実体験をもとにしている点なども好感がもてました。

 著者は、次の 7 つを満たしたものを『メタバース』と定義しています。

@ 空間性:三次元の空間の広がりのある世界
A 自己同一性:自分のアイデンティティを投影した唯一無二の自由なアバターの姿で存在できる世界
B 大規模同時接続性:大量のユーザーがリアルタイムに同じ場所に集まることのできる世界
C 創造性:プラットフォームによりコンテンツが提供されるだけでなく、ユーザー自身が自由にコンテンツを持ち込んだり創造できる世界
D 経済性:ユーザー同士でコンテンツ・サービス・お金を交換でき、現実と同じように経済活動をして暮らしていける世界
E アクセス性:スマートフォン・PC・AR/VR など、目的に応じて最適なアクセス手段を選ぶことができ、物理現実と仮想現実が垣根なくつながる世界
F 没入性:アクセス手段の 1 つとして AR/VR などの没入手段が用意されており、まるで実際にその世界にいるかのような没入感のある充実した体験ができる世界

 この定義から、さまざまな問題を解決せずに今後メタバースが発展していくことは難しいと理解できます。たとえば、大規模同時接続性や没入性は、技術の発展や量産展開などがなければ、現実的ではないかもしれません。また、経済性は、法整備をクリアしないといけないように思います。

 また、著者が分析しているデータは、2021 年に著者とスイスの人類学者リュドミラ・ブレディキナ氏が全世界のソーシャル VR ユーザーを対象に大規模なアンケート調査を実施して得た回答 1200 件がもとになっています。標本数も多く、とても説得力のある内容でした。

 著者自身の体験をもとにした意見のうち、一番印象に残ったのは、次の記述です。『物理現実の世界では、基本的に生まれたままの肉体の姿で生きていくことしかできませんでした。私たちの人生は、その姿の美醜や性別、属性により大きく左右されてきました。これからは、それらは旧時代の強いたやむを得ない理不尽であったと認識されるようになるでしょう。』
 
 わたしは、世の中とは理不尽なものと思って生きてきたので、天地がひっくり返るほどの衝撃を受けました。なりたい自分を創造して生きる場がメタバースだと定義する著者の思うとおりの空間としてメタバースが発展していくのを応援したくなりました。
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