2023年04月01日

「文豪と怪奇」

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東 雅夫 著
KADOKAWA 出版

 文豪と怪奇という、わたしがこれまで触れたことのない組み合わせの妙に惹かれました。また、著者が『はじめに』で定義した『文豪』にも共感できました。著者によると、文豪とは『自らを取り巻く世界の不思議さと真っ向から向き合い、かれらが垣間見たこの世の秘密を、真相を、文筆という行為を通じて作品化し、われわれ読者の眼にも明らかにしようと努めた人たち』のことだそうです。

 そういう意味では、この本にとりあげられている作家、泉鏡花、芥川龍之介、夏目漱石、小泉八雲、小川未明、岡本綺堂、佐藤春夫、林芙美子、太宰治、澁澤龍彦は、間違いなく文豪でしょう。わたしにとって、怪奇譚といえば、小泉八雲です。小学生になったころ、児童文学集で読んだ小泉八雲版の『耳なし芳一』が、わたしにとって初めての怪奇譚経験で、その印象は、薄れることがなく、この 10 人に選ばれていることを好ましく思いました。また、夏目漱石の作品では、有名な『吾輩は猫である』よりも『夢十夜』のほうが好きなので、彼の章も楽しく読めました。

 文豪と怪奇のかかわりを広く浅く紹介しているこの本は、作家ごとに、文豪と怪奇の関係性に注目したメイン、怪奇作品をほんの少しずつ切り取って紹介するアンソロジー、評伝の 3 部で構成されています。怪奇譚とは無縁だというイメージを抱いていた林芙美子のミニ・アンソロジーを読み、読んでみたい作品が見つけられましたし、怪異談の再話に力を注いでいた小泉八雲の評伝を読み、彼が記者や教師といったキャリアをもっていたことを知ることができました。

 また、怪奇に焦点を絞った本作全体を通して思ったのは、わたしたちの暮らしにはかつて暗闇、精神的な面ではなく明かりのない物理的空間があったということです。それが作家たちの創作意欲をかきたててきた面があるように思います。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする