
田渕 直也 著
日本実業出版社 出版
『金利』といえば、銀行の普通・定期預金の利息を思い浮かべ、知っている気がしていましたが、あらためてその理屈を知ると、さまざまな金融商品に影響を与える数字だけに興味深く、金融システムについてもっと知りたくなりました。
この本の冒頭に紹介されているイギリスのエピソードが金利のコントロールがいかに重要かを物語っています。イギリスは、1688 年の名誉革命以降、オランダの支援を得て金融システムや財政制度を近代化しました。具体的には、議会が政治的主権を握ったことにより、徴税権を裏付けに国債を発行するようになり、その債務をきちんと履行するようになりました。いっぽう、スペインやフランスは王政だったため、変わらず借金を踏み倒していました。
その結果、イギリスの支払う金利は徐々に下がり続け、他国との金利差が広がり、資金調達力に差ができたというのです。著者は、『イギリスが世界屈指の海軍力を整備できたのも、大国フランスに対抗し続けることができたのも、最終的に起きたナポレオンとの苦しい戦争を戦い抜けたのも、この資金調達力があったればこそ』と書いています。金利は、リスクの数値化とも言えるエピソードだと思います。
日本でもインフレが話題になるという久方ぶりの状況にあるいま、わたしが興味を惹かれたのは、ブレークイーブン・インフレ率 (BEI:Break Even Inflation rate) です。計算するには、(普通の) 10 年利付債の利回りから、同じ 10 年ものの物価連動国債の利回りを引きます。(名目金利から実質金利を引くと、インフレ率になるというわけです。) 利回りの計算には国債の流通価格が用いられるため、債券市場の参加者の予想が反映されている、つまり BEI は市場参加者によるインフレ率予測になるという理屈です。
興味深いのは、債券市場の参加者全体の予想というのは、かなり正確だと著者が説明している点です。理由として、『債券は、株式に比べて価格がそれほど動かず、金融政策の将来予測などから適正な利回りを計算しやすいので、市場全体が楽観的になりすぎてバブル化するといったことが比較的起きにくい』点があげられています。
債券市場参加者の予測能力がきわめて高いと知って気になるのが、ことし米債で見られた逆イールドカーブです。短期金利が長期金利を上回る逆イールドカーブは、景気後退の強いサインとされているそうです。つまり、市場は今後景気が後退し、長期金利が下がると見ているというわけです。
このイールドカーブから読み取れることはいろいろあり、おもだった動きには、次のような名前がつけられているそうです。イールドカーブを今後もっと見るようにして、金利や景気の行方を知ることができるようになりたいと思いました。
