2024年03月17日

「小さな町」

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ソン・ボミ 著
橋本 智保 訳
書肆侃侃房 出版

『私の夫は三十六歳だが、新聞や雑誌を切り抜いてスクラップしている』という一文で始まるこの本を読むうち、スクラップブックがひとの人生を象徴するものに見えてきました。

 ひとは、自身のことでさえ、すべてをわかっているとはいえず、まして自分以外のひとのことは、その一部を見ているに過ぎないことをあらためて思い知り、それがまるでスクラップブックのようだと感じたのです。

 あるひとの人生を第三者が見たとき、そのひとのほんの一部だけを見て、スクラップするようなイメージです。各人の取捨選択は異なるため、同じひとの人生も、スクラップするひとによって違って見えるに違いありません。もしかしたら、自分自身を含め、見たい部分だけをスクラップブックにして、ひとの人生だと思いこんでいることもありえます。

 ただ、この物語のスクラップブックは、主人公の人生における点のひとつが切り抜かれている点に意味があります。遠い世界のできごととして報じられた記事が、主人公の人生に点在する数々のできごとのひとつとして、ほかの記憶と線でつながれていきます。その過程の叙述には、なぜか惹かれます。

 主人公が、ある小さな町で過ごした幼きころの記憶を辿り、父との再会を機にその記憶を違ったかたちで認識する過程を読みながら、なぜか自身の昔が呼び起されると同時に、自分の記憶の不確かさをあらためて感じました。
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2024年03月16日

「小学生がたった 1 日で 19×19 までかんぺきに暗算できる本」

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小杉 拓也 著
ダイヤモンド社 出版

 いまさら自らの計算力を磨く意味もないのですが、ベストセラーの理由を知りたくて読みました。

 タイトルにあるとおり、2 桁の掛け算のうち、19 以下の数字に限って暗算ができるようになります。21×22 のような掛け算は含まれませんが、大切なのは、筆算以外で答えを求める方法があり、しかも、暗算できるほど簡単な手順が見つけられることを子どもでも理解できる点です。

 問題解決には、それまでと違う視点をもつことも大切だと学べる本だと思います。15×19 という掛け算を例に種明かしをすると、次のようになります。著者は、独自の計算手順に『おみやげ算』という名前をつけて紹介していて、15×19 の掛け算を四角形の面積計算になぞらえています。ポイントは、四角形を分割して配置を変えるとき、一辺が 10 になるように分けることで、暗算ができるようになっている点です。

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 教えられた方法を実践するだけでなく、違うアプローチで答えを見つけられないかと子どもたちが思ってくれたら、素晴らしいと思います。
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2024年03月15日

「日本とウクライナ 二国間関係 120 年の歩み」

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ヴィオレッタ・ウドヴィク 著
インターブックス 出版

 ウクライナがロシアに侵攻され、毎日のようにウクライナのニュースを見聞きする状況でなければ、この本に興味をもつこともなかったと思います。ただ、実際に読んでみると、120 年にわたる、日本とウクライナの交流が、よくまとめられているという印象を受けました。浅くとも広く記録された有益な内容だと思ういっぽう、退屈にも感じます。多岐にわたって紹介されているものの、すべてに関心をもてるわけではないためです。

 わたしが関心をもったのは、文学です。新潮社クレスト・ブックスから出版されている「ペンギンの憂鬱」(2004 年) や「大統領の最後の恋」(2006 年) などの翻訳作品を読んでみたいと思いました。

 しかし、何よりも一番印象に残ったのは、原発事故にかかわる両国の関係です。1986 年 4 月、チェルノブイリ原発 4 号炉が爆発しました。その年の 10 月、読売新聞社と日本対外文化協会は、広島と長崎の被爆者の治療、調査などに実績をもつ 4 人の放射線医学者を『医学協力団』として派遣したそうです。

 それから 25 年経ち、東日本大震災のおり、福島第一原発事故が起こり、日本からウクライナへの支援は相互協力へと発展し、ウクライナの専門家が日本側と経験を共有するようになったそうです。

 地震や津波が日常的に起こる日本において、『安全』を第一に考えれば、電力の一部を原発に依存するのは誤りだったとすれば、それは、セーフティーカルチャーが欠落していたチェルノブイリ原発事故と同じところに原因があると考えられるのではないでしょうか。

 同じ過ちを犯してしまった、ウクライナも日本も、これからどのように廃炉していくのかといった知見を共有しながら、原発のリスクやコスト、付随するさまざまな情報を発信してほしいと思います。
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