2024年05月15日

「もっと悪い妻」

20240515「もっと悪い妻」.png

 以下の短編が収められています。

ー悪い妻
ー武蔵野線
ーみなしご
ー残念
ーオールドボーイズ
ーもっと悪い妻

 帯のコピーは、本が売れるように書かれるため、読み終えたあとに目にすると、本の実際の内容とのギャップに驚くことがありますが、この本の推薦文は、簡潔かつ的確に思えました。
不幸な『悪い妻』は許されるが、満たされた『もっと悪い妻』は断罪される。『妻』という呪いと、『妻』を理想化する社会へのしたたかなカウンター。

 ここで断罪された妻は、もし妻ではなく夫であれば、甲斐性があると言われ、大目に見てもらえたことでしょう。「もっと悪い妻」では、そういった社会の空気が見事に描かれています。

 また、「武蔵野線」では、すべてを見透かされていながら、それを離婚されたあとも気づけずにいる男が、辛いときに元妻を頼る滑稽な姿がうまく描かれています。しかも元夫が、おとなになれずに落ち込んでいる自分を『男の絶望』を味わっていると信じているあたりも社会が許容してきた男の地位を的確に指摘している気がします。

 時代が変化していく方向を心地よく感じる女と昔にしがみつきたくて仕方のない男の対比を感じた作品でした。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年05月14日

「これってシロ? クロ? 身近な法律の 135 の事例集」

20240514「これってシロ? クロ? 身近な法律の135の事例集」.png

高橋 裕次郎/村尾 遼平 著
セルバ出版 出版

 本書は、クラウドファンディングで調達された資金で出版されたそうです。出版のかたちも多様化しているのかもしれません。ただ、商業的に厳しいと判断された可能性が感じられる内容でした。

 事例はいずれも、『概要』と『弁護士 (高橋氏) の見解』と『村尾の見解』で構成されています。

 135 もの事例が 200 ページほどに詰め込まれているので、事例の背景を知るだけのじゅうぶんな情報が概要部分に提示されていない事例がかなり見受けられました。

 また、弁護士によるコメントも刑法上の犯罪が成立するかしないかだけで、説明らしい説明がありません。たとえば、フォルクスワーゲン社、日野自動車、三菱自動車が性能データを偽装したケースでは、『3 社の不正はいずれも、刑事的に犯罪が成立するものではありません。しかしながら、社会的な制裁は当然に受けます』とだけあります。詐欺罪が成立しないということだと思いますが、一般消費者を欺きながら、なぜ詐欺罪が成立しないのか、また、不当景品類及び不当表示防止法などで課徴金が課せられたりしないものだろうかといろいろ気になりましたが何も解説がなく、残念に思いました。

 また、事例のなかには『いつ』という大切な情報が欠けていて、『このケースが実際に起きたのは飲酒運転が今よりおおらかに許された時代の話』とコメントされている例もあります。法律を扱う以上、どの時点のどういった法律に照らし、犯罪となるのかならないのか論じてほしかったと思います。
posted by 作楽 at 20:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年05月13日

「思い出せない脳」

20240513「思い出せない脳」.png

澤田 誠 著
講談社 出版

 脳科学は、わたしにとって興味深い分野で、この本のなかで特に興味深かったのは、『人間の脳は 100% 使われています。少なくとも私たちが普通に生活していれば、脳の中に使っていない部分はありません』という点と『マウスの特定の神経細胞を光で操作する「光遺伝学」という手法で行なわれた研究から』『人工的に記憶を消したり植え付けたりできることが分かって』きた点です。

 自らの経験から、記憶は不確かなことだと誰もが知っていると思います。著者は、『順向干渉』(すでに記憶している古い記憶が、新たに入ってきた情報の記憶に干渉) と『逆向干渉』(新たに入ってきた情報がすでに記憶している情報に対して干渉) などを例にして、記憶の変容を説明しています。後者の例としては、事件の目撃者の記憶が、事件後新たに知った情報によって変容するケースがあげられます。変容してしまった記憶を取り戻すことはできませんし、記憶とはそれほど不確かなものなのに、さらに記憶を消したり植え付けたりする技術が現実になるのは、怖い気もします。

 ただ、この本の主題は、思い出したいのに思い出せないことを減らすためにできることは何かという点です。まずは、記憶を蓄える神経細胞の減少を食い止めるため、血管の健康を保ち、適度な運動をし、質の良い睡眠をとる必要があります。

 さらに、好奇心をもち、心を動かしながら過ごすことも大切です。記憶は、ポジティブな情動 (一時的で急激な感情の動き) によって強化されます。感情が動いたときの記憶は思い出しやすいということです。

 記憶の種類としては、『エピソード記憶』(経験や体験にもとづく記憶) と『意味記憶』(名前や数学の公式など、現代社会で知識と呼ばれているようなものの記憶) があり、前者のほうが情動が動くぶん、後者より思い出しやすくなっています。そのため、意味記憶を丸暗記せずに、なぜそうなるのかという仕組みや理由を知って納得したうえで覚えると、心が動くので記憶に残りやすくなります。

 脳の記憶の仕組みを知れば、これまでよりも記憶力を味方につけることができそうに思えました。
posted by 作楽 at 20:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする