2024年06月15日

「語りかける季語 ゆるやかな日本」

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宮坂 静生 著
岩波書店 出版

 その土地の文化や慣習が感じられる、四季のことばを俳句の季語に擬して、『地貌季語』と著者は呼び、それらをここにまとめています。

 その土地独自の方言が消えつつあるだけでなく、地球温暖化の影響からか、春や秋が消えつつあるいま、『地貌季語』を慈しむ著者の気持ちがなんとなく理解できます。

 それで、わたしにとっての一番の『地貌季語』を春夏秋冬それぞれに選んでみました。

 春は、『木の根明く (きのねあく)』。雪国では本格的な雪解けが始まる前に、木の根元から雪が消え始めます。木の根元だけぽっかりあいた様子をあらわすこのことばは、雪に覆われた木々とそこはかとなく感じられる春の到来をたった五文字であらわしています。

 夏は、『立ち雲 (たちくも)』。沖縄の入道雲、雲の峰のことです。空の高さも雲の厚さも陽射しの強さも伝わってくるようなことばだとわたしは思いましたが、この本では立ち雲は『夜に入っても月光に照らされながら白く光って、でんと据わっている』と説明されています。また、『夜明け前の立ち雲は豊年の約束』という言い伝えもあるそうです。

 秋は、『黄金萱 (ごがねがや)』。萱葺屋根の萱のことですが、伊勢神宮が 20 年に 1 度遷宮の折りに葺き替えられるときに使われる萱は、その地域で黄金萱と呼ばれているそうです。20 年に 1 度の大仕事に向けて、地元では秋がくるたびに黄金萱を収穫し、貯蔵するそうです。収穫前、黄金色に染まる萱山の風景が伝わってくるようです。

 冬は、『雪まくり』。3 月頃の北海道では、固くなった積雪のうえに降り積もった新雪が風に拭かれ、ロール状に巻きながら転がっていくさまが見られ、雪まくりと呼ばれているそうです。その大きさは、小さいもので直径 10 センチほど、大きいものは 50 センチほどにもなるそうです。東北や信州などの山でも見られ、雪の塊がくるくる回転しながら斜面を転がっていくのは、自然が雪の球送りでもしているようだと著者は書いています。豪雪地帯に暮らすことでもなければ見られないだけに、一度見てみたい気もします。

 こういったことばが失われていくのは残念だと思ういっぽう、自分たちの暮らしやすさのためにしてきたことの自然への影響を考えると、自業自得かもしれないと思いました。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本語/文章) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする