
Stephen King 著
Pocket Books 出版
物語は、過去と現在が交錯して進みます。過去のほうは、「スタンド・バイ・ミー」を思わせる、男の子たちの友情が軸になり、現在のほうは、映画の「エイリアン」を思わせる、SF ホラーが軸になっています。わたしは、地球外生命体と戦うタイプの小説が苦手なのですが、この作品に限っていえば、さまざまな謎に魅せられ、最後まで読んでしまいました。
わたしにとって一番謎だったのは、タイトルになっている dreamcathcer です。重要な小道具として登場しますが、わたしは実物を見たことがありません。インターネット上のさまざまなサイトでその画像を見られますが、かたちは蜘蛛の巣に似ています。アメリカ先住民のあいだで、悪夢を消し去ってくれる魔除けとして知られていて、室内装飾品として吊り下げるようです。
物語が進むなか、dreamcathcer は、繰り返し登場し、なにかを暗示あるいは象徴しているように、わたしには思えました。なにかを捉えるものに見えることもあれば、誰かと誰かをつなぐものに見えることもあれば、なにか、それも広い空間のようなものを包みこむものに見えることもあり、登場するたび、考えさせられました。ただ、最後に、それがなんなのか明かされても、わたしにはうまくイメージできず、残念でした。過去と現在が同時に存在する空間やそれを生み出す能力をわたしがうまく想像できないせいかもしれません。わかったような、わからないような中途半端な感覚に陥りました。
ほかにも、登場人物の過去に関する謎がありました。おもな登場人物は、お互いを Jonesy、Henry、Beaver、Pete と呼びあう 30 代の男性 4 人で、子どものころからの親友です。おとなになって、それぞれ異なる道を歩んでいても、付き合いは続いています。彼らには、普通なら知りえないことがわかる能力があり、物語のなかでは『線が見える』と表現されています。その能力のルーツを辿ると、4 人組には、子どものころ近しかった友人がもうひとりいて、その 5 人めの仲間を通じて不思議な能力を授かったことが明かされます。Duddits と呼ばれる、5 人めの仲間にはどんな力があるのか、過去にひとを殺めたのはなぜかなど、疑問がいくつも浮かびました。
あちこちに散りばめられた謎だけがこの作品の魅力というわけではありません。この 5 人の友情に共感し、自らの経験を思い起こすきっかけにもなりました。たとえば、Duddits と疎遠になってしまったことを悔いる場面、知性や判断力に秀でる友人に信頼を寄せる場面、Duddits と再会した Henry が 5 人で過ごした時間を振り返る場面など、そうしたいという理由だけで、ひとと一緒に時間を過ごしたころを思い出しました。
以前読んだ作品に似ているような気がするものの、物語の展開がまったく読めず、つい最後まで読まされてしまったあたり、ベストセラー作家の実力なのかもしれません。