2025年01月31日

「九十八歳。戦いやまず日は暮れず」

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佐藤 愛子 著
小学館 出版

九十歳。何がめでたい」を読んで、違和感を覚えたものの、ほかの作品なら、また数十年前のように楽しめるのではないかと思って読みました。昔は、この作家はわたしの気持ちの代弁者だと思ったり、文章に溢れるユーモアのセンスに喝采したり、爽快な読後感を味わえましたが、そんな経験は、今回叶いませんでした。

 印象に残ったのは、ふたつのことです。ひとつは、老いると、たとえ執筆を続けていても、わたしたち現役世代の感覚から離れてしまうのだろうということです。著者と同世代の読者にとっては、おもしろく読めるのかもしれませんが、わたしには何も響かなくなっていました。もうひとつは、この作家の世代、つまり戦争を経験したひとたちが何かを書き記すということがこの先なくなるということです。著者は、『戦争というものがいかに人間を愚かにするものか。それを批判しながら、抵抗出来ずに同調してしまうことのおかしさ、滑稽さ、弱さ、不思議さ、そして国家権力の強力さ、それをいいたい』と、書いています。そういった、経験からくる感覚、現代において『同調圧力』と呼ばれるもののルーツを知っているひとたちが書かなくなってしまって大丈夫なのだろうかと不安を覚えました。

 時代が移りゆくように、ひとも去る者と新しく登場する者との入れ替わりがあるのだと、しみじみと感じました。
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2025年01月30日

「カタカナ語 すぐ役に立つ辞典」

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日本語倶楽部 編
河出書房新社 出版

 わたしにはカタカナ語を多用するきらいがあるのではないかと常々不安に感じています。身を置いている業界は、カタカナ語で溢れていると言われていて、わたしもその影響を受けているのではないかと。ただ、多用と適度の境界を知るのは難しそうです。国語辞典に載っていないカタカナ語だからといって、伝わりにくいとも言い切れない気がします。もしかしたら、カタカナ語だけを取りあげた、こういった本は、一助になるかもしれません。

 この本では、カタカナ語を次のように分類しています。この分類だけで、カタカナ語が日本語でどういった位置づけにあるか窺い知ることができます。

1. 「日本語で言えよ!」とツッコミたくなるカタカナ語
2. "意識高い系" ビジネスパーソンが使いたがるカタカナ語
3. よく耳にするけどちゃんとした意味は危ういカタカナ語
4. 外国人には通じない…なぜって日本人専用のカタカナ語
5. 日本語よりしっくりくるハマりすぎのカタカナ語
6. 上品な香りが漂うセレブリティなカタカナ語
7. こっそり学んでおきたい時代先取りのカタカナ語
8. さらりと使いこなしたいデキる大人のカタカナ語
9. 一生使いそうにないけど知っておくべきカタカナ語

 5. に分類されるカタカナ語は使ってよさそうですが、1. に分類されるものは避けたいものです。ただ、わたしは使っていました。具体的には『ソリューション』や『イシュー』です。『ソリューション』は、業界内でも多用され過ぎた印象があるので、使わないほうがよさそうですが、『イシュー』は、改善すべき問題点のときも、議論の候補となる論点のときも、幅広く使え、ひとによって分類がわかれることをまとめられる点が便利なので、5. に分類されることばだと思っていました。

 2. に『エビデンス』が 分類されていたのは、意外でした。意識が高くなくとも、判断・決定には『エビデンス』(『根拠』、『証拠』など) が必要なので、1. に分類されるものだと思っていました。

 分類は、そのほかにも気になる点が多々あり、カタカナ語をネタにした軽口と受けとるほうがいいかもしれませんが、ひとつひとつの解説は役立つと思います。わたしは、これから聞く機会がありそうなことばを新しく覚えることができました。たとえば、『トゥイナー』や『リアルクローズ』です。どちらも、わたしにとって身近なことがらをあらわしています。前者は、大金持ちでも貧乏でもないひとたちを指していて、between (中間) からきた造語、つくったのは、FOX ニュースの人気司会者だったビル・オライリー氏だそうです。後者は、普段着を意味し、実用性に長け、仕事やデートでふつうに着られるオシャレな服などをイメージしたことばのようです。

 おそらく今後もカタカナ語は増え続けるので、ときどきは、日本語にしたほうがわかりやすいカタカナ語ではないかチェックしたり、新しいことばを仕入れたりする機会があってもいいかもしれません。
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