2025年03月31日

「移動する人はうまくいく」

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長倉 顕太 著
すばる舎 出版

 自己啓発書の場合、著者自身が成功した方法は万人に役立つと考えて、書かれていることが多々あります。この本も、相関関係があるだけなのに因果関係があると誤解しているように見受けられる点があったり、全体的に根拠が乏しく感じられました。ただ、感覚的にそうかもしれないと納得できた点もありました。行動を変えたいと思いながら変えられないひとに対し、著者が意志の力で変えるのは難しくとも、環境を変えると感情が動き、その結果として行動が変容すると説いている点です。

 ひとは『安定』を望む傾向があり、毎日の繰り返しを退屈と感じながら、そこから脱することができません。だから、人生を変えたいと思えば、旅に出るとか、多拠点生活をするとか、意図的に行動範囲を変えると、接するひとや情報も変わり、自ら考えるようになり、自然と行動に移せるようになるという意見です。さらに、タイトルにある『うまくいく』の意味が、収入を増やすでも、恋愛を成就するでも、昇進するでもなく、行動を変えることにあり、具体的な目標を設定していない点で、結果を出せそうな気がしました。

 そもそも、著者にとって、目標設定自体意味のないことのようです。動き続けていれば、目指すものも変わり続けます。この本も、途中で話題があちらに飛びこちらに飛びで、テーマに沿っているようでいて、そうでもありません。どうやら、著者が目指すのは、特定の目標ではないようです。『いろんなことができるようになるというより、いろんなことに対応できる人間になっておく必要がある』と書いているからです。AI の発展が今度どういった速度で進んでいくのかわからず、人間の寿命が伸びているいま、そのとおりだと思います。さまざまな経験を積み、人脈を増やし、自らの対応力をあげるために動き続けるというのは、理にかなっているかもしれません。

 問題は、潜在的に対応力を有するひとが、その能力を目覚めさせるために移動するのは効果的かもしれませんが、移動すれば、あらゆるひとに対応力が備わるかについては、根拠が乏しい印象を受けたことです。
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2025年03月30日

「追伸、奥さまは殺されました 伯爵夫人のお悩み相談」

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メアリー・ウィンターズ (Mary Winters) 著
村山 美雪 訳
原書房 出版

 事件の解決を生業としない主人公が活躍するコージーミステリ―のなかでも、本作の主人公の立場が珍しいのは間違いありません。舞台は、1860 年のロンドンで、主人公アミリア・エイムズベリーは、伯爵未亡人です。彼女は、レディ・アガニというペンネームで週刊誌のお悩み相談欄で読者の相談にこたえています。しかも、25 歳という若さの未亡人でありながら、10 歳になる姪の後見人を務めています。

 連続殺人事件を扱う本作の最初の被害者は、元海軍提督の長女であり、公爵の婚約者です。転落事故として処理されたものの、その死の真相を目撃した侍女は、どうすべきか考えあぐねた末、レディ・アガニに相談の手紙を送り、その直後に第二の被害者になってしまいます。公園の池で溺死したため、第一の殺人事件同様、事故として処理されてしまいます。

 そこで調査に乗り出したのが、侍女は口封じのために殺されたと推理した、主人公です。レディ・アガニの正体が伯爵未亡人だと知られたくないアミリアは、警察を頼らず、自ら犯人捜しを始めます。

 キャラクター設定など、珍しさがてんこ盛りではあるものの、わたしの好みとは言い難いコージーミステリーでした。19 世紀が舞台とあって、数多く披露されるお悩み相談はどれも、怖い先生の前で優等生が吐露するささやかな愚痴といったレベルで共感しづらいですし、素人探偵の活躍はゆっくり過ぎて犯人候補がなかなかあらわれませんし、さらには、一緒に謎解きをする侯爵と主人公のロマンスは遅々として進みません。

 また、犯人捜しの動機もしっくりきませんでした。世間の目を気にして当然の伯爵未亡人という立場を考えると、会ったこともない侍女の事件を自らの身を危険にさらしてまで解決しようと主人公が執着する理由が腑に落ちません。すでに本作の続編も発表されているようですが、それも読みたいという気持ちには、残念ながらなれませんでした。
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2025年03月29日

「コンサルタントが毎日見ている経済データ30」

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小宮 一慶 著
日経BP 日本経済新聞出版 出版

 わたしにとっては、学ぶ点が多い本でした。まず、巻末に『主な経済指標一覧』が掲載されていて、とても便利です。次に、長年日経電子版を購読しながら、便利な『経済指標ダッシュボード』を知らずにいたので、その存在を知るきっかけになりました。最後に、著者の説明がわかりやすく、世の中の流れを推測できる見方を学ぶことができました。

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 上記の『主な経済指標一覧』は、全部で 58 です。日本と米国の指標が多いのは当然ですが、意外だったのは、中国の指標が少なかったことです。内訳は、日本 41、米国 14、ヨーロッパ 2、中国 1 です。中国で唯一選ばれたのは、中国・国家統計局発表の消費者物価指数です。

 著者の解説で印象深かった点は、4 点あります。ひとつは、なんといっても、マネタリーベースです。『異次元緩和』といわれながら、どのくらい異次元なのか、わたしは全然理解できていませんでした。ここには、『日銀が大量に国債を購入する「黒田バズーカ」は 3 度実施され、マネタリーベースは 10 年で約 5 倍の水準に達しました。日銀当座預金残高は、異次元緩和スタート当時は約 60 兆円でしたが、約 570 兆円 (2024 年 4 月 25 日時点) まで増加。マネタリーベースは約 700 兆円 (同) まで膨らみました。このような異常な状態になるまで、政府はまさに日銀を "使い切った" のです』と書かれてあります。

 次は、日本の国力の低下に関する著者の解説です。『有事の円買い』といわれた円も、いまやその立場を失ったようです。『規模は異なりますが、2009 年 10 月に起こったギリシャ危機では 1 ドル=80 円前後まで円高が進みました。ところが、シリコンバレーバンクに端を発した米国の金融危機の兆しが見えたときは、円高は 1 ドル=130 円台までしか進みませんでした。これが、2009 年から 2023 年の 14 年間における日本経済の実力の低下だと私は懸念しています。円安の理由は、ひとえに日本の国力が落ちた結果だといえるでしょう』と、書かれてあります。この先、まだまだ円安は進みそうです。

 3 番目は、貯蓄率です。米国の貯蓄率は、新型コロナのパンデミック時は、30% 前後と高い数字を記録しましたが、ポストコロナといわれる時期になると、3%〜4% で推移しています。わたしは、もう少し高いと思っていたので、意外でしたが、驚いたのは日本の貯蓄率です。米国が 30% 前後だった時期でも 10% 前後で、ポストコロナでは、0% 前後です。理由は、貯蓄を取り崩して暮らしている高齢者の割合が増え、勤労世帯の貯蓄と相殺されて、0% 前後になるようです。

 最後は、景気の先行きを知りたいときは、不要不急の消費を見るべきだという助言です。具体的には、『旅行取扱状況』や『全国百貨店売上高』などです。言われてみるとそのとおりなのですが、先行きに不安を感じると、旅行や非日常的な支出がまず減らされます。どういったデータをどう見ればいいのか、参考になりました。
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2025年03月28日

「人は、なぜさみしさに苦しむのか?」

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中野 信子 著
アスコム 出版

 さみしさに限らず、感情には個人差があります。わたしは、さみしさを感じることが比較的少ないと自分では思っていますが、新型コロナウィルスが流行した折りは、さみしさ、不安、心細さといった負の感情を意識せざるを得ませんでした。それ以降、『感情』というものを理解したいと思うようになりました。

 この本で目指しているのは、さみしさが生じる仕組みを理解して上手にさみしさと付き合い、人生をより豊かに過ごせるようになることです。確かに、さみしく感じたからといって、その感情に浸っているばかりでは、よい方向に進めません。

 著者によれば、さみしさは、人間が生き延びるための仕組みだそうです。現代は、成人すればひとりでも生き延びられる環境にあると言えますが、人類の歴史において、それはつい最近実現した状況です。それまでは単独よりも集団でいるほうが生存の可能性が極めて高く、共同体や組織などの社会的集団をつくることで人類は生き延びてきました。そのため、危険や危機を予測する防御反応として、さみしいという感情が生じるのではないかというのです。

 そのほか、さみしいという感情の特徴として、痛みなどとは違って個人差が非常に大きいと説明されています。つまり、第三者のさみしさを想像するのは難しく、本人にしか、そのさみしさをうまく扱えないようです。また、1 歳半までの時期に、スキンシップを多くとるなど『愛情ホルモン』であるオキシトシンの分泌が多くなれば、愛着関係を築けますが、その逆だと、誰かがそばにいることを好まないようになります。さらに、孤独が寿命に与える影響力は、タバコやお酒による害や、太り過ぎ、運動不足という生活習慣に起因する害よりも大きいという研究結果もあるそうです。

 こういった、さみしさの特徴を理解し、さみしくなるのはひととして健全な反応だと捉え、それでもいい人生を生きていけるように考えることを著者は勧めています。さみしさを克服しようとせず、さみしいときは話を聞いてくれるひとに騙されやすくなっていることなどを頭の片隅で警戒しつつ、自分が本当に必要としているのは、どんなつながりかを認識することが大切だというのです。

 さみしいという感情に振り回されず、適度な距離感でひととのつながりを築きつつ、機嫌よく日々を過ごす参考になる本だと思います。
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2025年03月06日

「ペーパーバック読解法 ミステリ-で英語漬け」

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藤田 悟/出口 正喜 著
アルク 出版

 わたしが英語でミステリーを読むきっかけになった本を再読しました。大昔の本ですが、目から鱗とはこういうことだと思ったのを今でも覚えています。日本語の本を読み、もし知らない単語が出てきても、あまり深く考えず、文脈から推測して読み進めるのに、なぜ英語の本を読んだときには、それができずにいたのか、指摘されるまで考えたこともありませんでした。著者は、そのことを気づかせるために『英語のリーディングも誤解をしながら読み続けることで上達する。日本語を読むことだって結局はそうして身につけたのではないか』と書いています。

 そのことばに納得して、このなかのミステリー用語辞典の単語を覚え、ミステリーを英語で読みだしました。この用語辞典は、ほんの数十ページなのですが、homicide (他殺、殺人) や assault (暴行) などの罪名、inspector (警視、警部) や lieutenant (警部補、部長刑事) など警察官の職位、first offense (初犯) や mug shot (<容疑者などの>顔写真) など警察小説に頻出する単語、法廷 (裁判) の基本用語、薬物用語など、ミステリー小説で見かける単語がまとめられていて、重宝します。裁判の原告や被告は、民事の場合、the complainant (原告) と the plaintiff (被告) が多く、刑事事件の場合、the accuser (原告) と the accused (被告) が一般的と、民事と刑事で差があることを知ったのもこの本だったと思います。

 再読して気づいたのは、リーディング力を診断するテストで、初読時よりずっと高いスコアを得られたことです。多少は、単語力があがったかもしれませんが、おそらく前後から単語を推測する力があがったのではないでしょうか。ミステリー本の紹介もあって、次に何を読もうか、迷いながら選んだことも思い出します。さらに、この本を読んでから、語源などを学び、単語の意味を推測することなども覚えました。

 ただ、この手の本を最近はあまり見かけない気がします。インターネットが一般的になって、調べようと思えば簡単に調べられるけれども、ひとところにまとまっていたら便利といった本のニーズが少なくなったのでしょうか。
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