2025年04月19日

「ChatGPT 翻訳術」

20250419「ChatGPT 翻訳術」.jpg

山田 優 著
アルク 出版

 この本では、AI、特に ChatGPT などの大規模言語モデル (LLM) が得意とすることが説明され、どう対話すべきか、つまりプロンプトがいくつか紹介されています。特徴的なのは、翻訳を業としないものの、英語を使う立場のひとたちが、どのように ChatGPT の力を借りたらいいか、具体的に説明されている点です。

 翻訳を仕事にしていないと、翻訳をどういった観点から評価すればいいのか、何をもってよい翻訳とすべきかわからないものです。著者は、それを『正確性』と『流暢性』に分け、翻訳を生業としないビジネスパーソンの流暢性より機械翻訳のそれが優れていることを指摘し、流暢性を補うためのツールとして AI を勧めています。
20250419「ChatGPT 翻訳術」1.png

 これらの数字は、たとえ TOEIC のスコアが高く、ある程度正確に英語を使えても、流暢性においては機械翻訳よりだいぶ劣るという点で説得力があります。また、著者は、正確性を担保するための工夫や流暢性を向上させるために必要な知識を紹介しています。
20250419「ChatGPT 翻訳術」2.png
20250419「ChatGPT 翻訳術」3.png

 さらに、翻訳の工程を『前工程』、『制作工程』、『後工程』と分け、翻訳そのもの、つまり『制作工程』だけでなく、『前工程』も『後工程』も、AI と一緒に取り組めば、精度があがると述べています。機械翻訳のために、ひとがプリエディットやポストエディットを行なっていたのが、いまは AI と対話しながら進められるというわけです。

 たとえば次は、用語集を使った翻訳を AI に依頼するプロンプトですが、そのほかチェックを依頼する方法やひとの理解を助ける説明の求め方なども紹介されています。
20250419「ChatGPT 翻訳術」4.png

 プロンプトテンプレートを使いながら、自らテンプレートを増やしていきたいと思える本でした。
posted by 作楽 at 20:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(データ活用) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年04月18日

「The Coffin Dancer」

20250418「The Coffin Dancer」.png

Jeffery Deaver 著
Simon & Schuster, Inc. 出版

 真相解明のプロセスでは、楽しめた部分とそうでもなかった部分の両方がありました。楽しめた部分は、犯人を追う側の主人公 Lincoln Rhyme が科学知識や経験をもとに些細な手がかりから犯人の意図を見抜き、行動を予測していくプロセスです。

 Coffin Dancer と呼ばれる殺し屋は、何年も犯行を重ねてきたにもかかわらず、警察はその本名も年齢も掴めずにいました。Coffin Dancer の最大の武器は、deception (欺き) です。相手を欺き、捜査を攪乱することによって、自らの足跡を消し去り、次の行動予測を不能にして、逃げ切ってきました。

 その殺し屋を追うのが Lincoln と彼の部下 Amelia Sachs です。Lincoln Rhyme には身体障害があり、事件現場に自ら赴くことができません。彼の代わりに証拠を見つけ、Lincoln の分析を助けるのが Amelia です。個性的なこのコンビは、Coffin Dancer が仕掛ける巧妙な罠に立ち向かっていきます。

 追う者がまんまと騙されたり、追われる者が真意を見抜かれたりといった攻防が続き、距離が徐々に縮まるプロセスは、読み応えがありました。Lincoln は、超能力者と見まがうほどの予見力を有するため、現実味に欠ける場面もあるものの、なかばファンタジーとして楽しめました。

 そのいっぽうで、大詰めに明かされる、いくつかのどんでん返しのなかには、それは余計だったのではないかと思うものもありました。意外な結末にインパクトがあるのは確かですが、あからさまなミスリードに少し落胆しました。

 ただ、そういった不満はあっても、2 日ほどの緊迫した追跡劇は全体的におもしろいと思います。周到な伏線、緻密な分析、捜査機関内部の駆け引き、最後に明かされる意外な黒幕など、楽しめる要素が揃っていた気がします。とりわけ、個性的な登場人物、灰汁の強い犯罪学者 Lincoln と独立心旺盛な Amelia の関係性、法廷の証人として保護された被害者遺族 Percey Clay と Lincoln との関係性など、人物描写としても興味深い場面が多くありました。結末では、恋愛感情が思った以上に色濃くあらわれ、犯罪だけでなく、ひとの感情の謎も解かれた気がします。
posted by 作楽 at 20:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 洋書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする