![20080828[NairobinoHachi].jpg](https://witch-sara.up.seesaa.net/image/200808285BNairobinoHachi5D-thumbnail2.jpg)
John Le Carr´e 著
加賀山 卓朗 訳
集英社 出版
ジョン ル・カレといえば、スパイ小説というイメージがありますが、今回の主人公はスパイのイメージとは程遠い人物、英国外務省一等書記官。ケニアのナイロビで勤務する、出世街道から脱落したガーデニングが趣味で草木をこよなく愛する中年男性。原題の「The Constant Gardener」のGardenerはガーデニング好きの主人公を指しています。Constantのほうは、過去から現在にわたりずっとガーデニングが好きという意味もあると思いますが、(妻に対する)愛情や忠誠心を失わないという意味もあるような気がしてなりません。
そう、この小説は壮大な恋愛小説ともいえます。物語は、主人公であるジャスティン・クエイルの妻、テッサが遺体で発見されたところから始まります。ケニアの貧しい人々を助ける活動に熱心だったテッサは、普段から援助活動を共にしていたアーノルド・ブルーム医師と一緒にロッジで一夜を過ごし、ロッジを発ったあと行方不明になります。結局発見されたときには、裸体で首をかき切られて殺害されていました。その隣には、運転手の首のない死体が。ブルーム医師は行方不明のままです。
周囲では、テッサとブルーム医師は愛人関係にあったと思われていますが、ジャスティンは信じていません。しかし、ブルーム医師はどこにいるのか、テッサに何があったのか、なぜテッサが殺されなければならなかったのか、ジャスティンには疑問ばかりです。英国へ戻ったジャスティンは、テッサの最後を探す旅に出ます。数々の中傷や脅迫にあい、ジャスティンは強く逞しく変貌していきます。彼を変えたのは妻の愛であり、妻に対する愛です。
そして、ジャスティンは大規模な不正にぶち当たります。それは、妻が暴こうとして殺された企業の悪。残念ながら、現代社会における企業や官僚の悪辣さを考えると、ここに描かれている企業の陰謀は、かわいいものとしかいえません。(巻末の「著者の覚え書き」には「製薬業界のジャングルを旅するうちに、現実に比べれば、私の話は休暇の絵葉書ぐらいおとなしいものだと思うようになった。」とあります。)やはり、読みどころは、ジャスティンの内面であり、その変化だと思います。
時間軸を自由に行き来しながら、少しずつ真実が明らかになる展開にぐいぐいとひっぱられ、サスペンスとしても高く評価できました。難をいえば、邦題の「ナイロビの蜂」は、先の展開を読者に知らせている気がして、好きになれませんでした。
スパイ物が好きではない方もル・カレのファンになってしまうような一作ではないでしょうか。