
ルイザと女相続人の謎
- アンナ・マクリーン 著
- 藤村 裕美 訳
- 東京創元社 出版
- 1050円
書評/ミステリ・サスペンス

学生の頃、「若草物語」が好きでした。何気ない日常に幸せがつまっているイメージがあり、平凡で何もない自分の生活も、考え方によっては幸せなのかな、と思えたからです。一番好きだったのは、ジョー。その活発さに憧れ、マイペースなところが気に入っていたのです。
そのジョーも含め、小説の登場人物についてあれこれ考えているのが、今回の事件の探偵。そう、「若草物語」の著者であるルイザ・メイ・オルコットが探偵なのです。物語は、あるお茶会に呼ばれるところから始まります。裕福な友だちが、欧州への1年間の新婚旅行を終えて帰ってきたので、お茶に招かれたのです。しかし、その友だち、ドロシー・ウォーサムはお茶の約束を1日取り違えていて、遅れてやってきます。そして、翌日また来てくれるよう皆を招待します。そして、ルイザには話したいことがあるということばを添え、皆より早く来てくれるよう頼みます。
そして、翌日、お茶に行くと、またしてもドロシーはいません。そこへ警官が訪れ、ドロシーが港で遺体で発見されたと、夫であるプレストン・ウォーサムに伝えます。自殺だとは思いたくないルイザ。しかも、ドロシーは、莫大な遺産を相続すると思われているだけに、疑惑は夫に向かいます。しかし、ドロシーの兄、エドガー・ブラウンリーも放蕩な生活をしているだけに、遺産の取り分が多くなるように、妹を殺した可能性も否定できません。疑問を解決しなければ気がすまないルイザ。最後に会ったあの日、なぜ強引にドロシーの悩みを聞きださなかったのか、後悔しているからです。
そして、ルイザは調査を始めます。といっても、裕福とはいえないけれど、中流階級の子女。外出するには、付き添いが必要だったりと、現代では考えられないような煩わしさがあります。その点、キンジー・ミルホーン張りとは言えませんが、当時としては特別活動的に捜査したルイザは、とうとう犯人を突き止め、危ない目に遭いながらも、見事な推理を披露します。
このシリーズ、すでに第3巻まで出版され、次の翻訳も決まっているようです。若草物語のように、個性的な姉妹に囲まれたルイザの今後の活躍が期待されます。ちなみに、ルイザは、次女にあたり、若草物語になぞらえると、ジョーにあたります。その活動的な雰囲気は、ジョーそのものといってもいいでしょう。ジョーが一番いきいきと映るのは、作家が反映されているからかもしれません。そう考えると、この作品のおもしろさは、ミステリ以外にオルコットを知る点にもあるように思います。