2008年09月04日

「石の花 (1) 侵攻編」

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坂口 尚 著
新潮社 出版

 米原万里氏のエッセイが好きな理由はいくつかありますが、一番はその考え方に共感できて盛り上がれるから。そして、二番は知らなかったおもしろい本を読む機会が得られるから。

 そして今回の「石の花」もエッセイに触発されて読みたいと思った本。実は漫画なので、米原氏の「ガセネッタ&シモネッタ」で絶賛されていなければ、手にとることはなかったと思います。別に漫画が嫌いというわけではないのですが、漫画は流行に敏感な媒体なので、その時期に読んでもわからないことも多く、時期が過ぎるとさらにわからなくなり、わたしの読もうという気持ちを維持できないので、ほとんど読みません。しかし、「石の花」はユーゴスラビアの歴史が元になっているそうで、わたしの普段の心配外にあり、興味が湧いたのです。

 そして、読もうという気持ちになったもうひとつの理由は、昔の知人です。ユーゴスラビア出身で、子どもの頃、治安や政情に不安を抱いた両親がアメリカへの移住を決意され、アメリカの永住権を取得されたそうです。ご両親がふたりとも医師で、移住が比較的簡単だったことは幸運だったと、口癖のようにおっしゃっていたのを思い出しました。彼は本当にアメリカが好きだったようで、ご自身が医師になられてから、アメリカ国籍も取得されたそうです。そんなに、ユーゴスラビアに住むのは大変だったのか、と漠然と思ったものの、今まで何かを学ぶ機会はありませんでした。

 まだ読み始めたばかりですが、そういう国民が逃げ出したくなる国の雰囲気が見えるだけで、日本という国が見えてくる気がしました。ユーゴスラビアは日本と違う地形条件で、随分不利な状況になったのではないかと思うのです。ひとつは、大国と陸続きになっている脅威。もうひとつは、民族の多様性です。島国で、民族の種類が限られている日本とは大差があります。

 登場人物のセリフに以下のようなものがあります。

(1)この国(ユーゴスラビア)は、複雑だ・・・・・・スロヴェニア クロアチア セルビア モンテネグロ マケドニアの五民族が住み 四つの言語があり 三つの宗教があり そしてラテン文字とキリル文字の二つが使われている・・・・・・
(2)こういう多民族国家はいざという時 てんでばらばらです
だからクロアチア地方を独立国家と認めセルビアから解放してやったと宣伝した
政治の中枢を握っているのが ほとんどセルビア人だった不公平さに日ごろからクロアチア人は不満を抱いていましたからね

(2)はドイツ将校の会話として出てきます。民族間の不和を煽ろうとする陸続きの大国に操られやすい状況に陥れば、どんなことになるのか、わたしには想像ができません。この話の後半で、クロアチアのファシスト団体「ウスタシ」がドイツ兵と一緒にユダヤ人狩りをしている場面がありました。独立とは、自らの国を守るだけの武力と知力が必要なことだと、今さらながらに思いました。それらがなければ、長いものに巻かれるしかないのでしょう。

 しかし、物語の流れ追ううちに、そう簡単なものでもないという気もしてきました。一市民の意識から見たとき、民族というのは、そんなに大きな意味を持つのでしょうか。生まれというのは、そんなに大事なのでしょうか。

 この物語の主人公は、スロヴェニアにあるダーナス村の少年、クリロ。そして、その兄であるイヴァンは、ユーゴスラビアの解放と平和を願う共産主義者と信じられていたのですが、実はナチス軍人と繋がっていたのです。イヴァンはクリロの兄ではなく、従姉妹で、生まれはドイツだったため、ナチスに対し、祖国はドイツであると信じさせたのでした。

 ドイツに生まれたことが本人にとって、本当に大きな意味をもつのでしょうか。先を読み続けたいと思います。
posted by 作楽 at 00:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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