2009年02月25日

「世界は村上春樹をどう読むか」

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国際交流基金 企画
柴田 元幸/藤井 省三/沼野 充義/四方田 犬彦 編
文藝春秋 出版

 サブタイトルが、"A Wild Haruki Chase"。これは、"Wild-goose chase"の「もじり」だそうです。追いかけても追いかけても、捕まえられない春樹ってことなのでしょうか。

 帯には、"17カ国・23人の翻訳者、出版社、作家が一堂に会し、熱く語り合った画期的なシンポジウムの全記録"とあります。

 ここでいうシンポジウム「国際シンポジウム&ワークショップ 春樹をめぐる冒険−−世界は村上文学をどう読むか」が開催されたのは、2006年3月25日・26日(東京)と29日(札幌・神戸)。ずいぶんと盛況だったようで、あらためて村上春樹人気を思い知ったという感じです。(しかも、シンポジウムの内容が本というかたちでも記録されているわけですから、尋常ではありません。)

 各国から翻訳者が集まり、各国での春樹文学の受け入れられ方の違いや、各国の装丁の違いを比べています。比較してはじめて見えてくることもあり、楽しめます。しかし、一番印象に残っているのは、やはり翻訳の難しさです。

 文化の違いを意識しながら、別の言語に訳すわけですから、難しい点はいろいろあると思うのですが、今回は村上春樹の作品独特の難しさが伝わってきました。

 ひとつめは、村上作品独特のおかしみを伝える難しさ。たとえば、日本語は、ひらがな、カタカナ、漢字など表記方法が多彩です。そういう仕組みを利用して、おかしく仕上げている作品(例に挙げられているのは、「夜のくもざる」)を訳すのは大変です。意味があるように聞こえて、実は意味のないことを並べ立てているセリフなど、どう訳するのか、迷う気持ちが翻訳者から伝わってきます。また、普通ではありえないことを、淡々と話している場面なども、意外性などをそのまま伝えるのは困難でしょう。例として挙げられている短編「スパナ」は、「真由美が最初に鎖骨を砕いた若い男は、スポイラーのついた白いニッサン・スカイラインに乗っていた」と始まります。鎖骨を砕くなどという非日常をいきなりもってくる「おかしみ」を損なわないようにするのは至難の業に思えてきます。

 ふたつめは、固有名詞が多い点。言われてみると、商品名や曲名など、その時代を象徴するようなかたちで、頻出するような気がします。商品名などは特に、国によっては発売されていなかったり、別の名前になっていたり、簡単に転記できない難しさがあります。

 わたしは、あまり村上作品を読んでいませんが、この本で翻訳者の思い入れや人気の高さが伺えると、ミーハー気分で少し読んでみたくなりました。
posted by 作楽 at 00:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(本) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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