2010年01月06日

「向日葵の咲かない夏」

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道尾 秀介 著
新潮社 出版

 結末に読者を驚かせる種明かしがあるのですが、素直には驚けませんでした。実は、この作品の作者はあの「弁護側の証人」の解説を書かれました。そのなかで、「弁護側の証人」が読者に与える衝撃を絶賛しています。同じような驚きを読者に与えたかったのかなと想像しましたが、わたしから見ると全然異質な種明かしのような気がします。「弁護側の証人」では、「やられた。すっかり騙されてしまった」と潔く種明かしを受け入れられたのですが、この作品に対しては、なんか狡い気がするなあ、とすっきりしません。それはたぶん、種明かしのひとつが社会通念ではありえないといわれていることに対するもので、書き手と読み手の間のルールが独自に確立されるべき問題なのに、そこが読み手のわたしからすれば不充分だからでしょう。(書き手からすると、充分だということになると思うのですが。)あと、語り手が読者に隠す秘密が大きく、前半と後半では別人のような印象を受けたことも大きいと思います。

 解説では、この小説に対する好き嫌いは分かれるだろう、と書かれています。フェアでないように感じられた分、わたしは嫌いでした。

 ただ、記憶に残る作品だとは思います。「弁護側の証人」のときと同様、書き手がミスリードした部分を読み直したりしたこともありますが、大きかったのは少年の心の内の描写に唸ってしまったことです。ふとした拍子に少年のなかに湧き起こる残酷さ。それに自分自身がとまどい、受け止めきれない気持ち。また、自分を守るために、自分が見たい世界だけを見ようとする姿勢やそんな自分に気づいている別の自分など、少年のなかの多様性や動揺などが、うまく描かれていると思います。

 最近評判の作家ですが、この作品が入り口になってしまい、ほかの作品を読もうかどうしようか迷っています。
posted by 作楽 at 07:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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