2010年02月03日

「大阪ことば学」

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尾上 圭介 著
創元社 出版

 大阪の価値観がことばを独自に発展させ、それがまた大阪の価値観を強固にしたのかもしれないと思いました。たとえば、東京と対比すると、大阪では面と向かって相手にもの申すことが多く、それによってことばも変化し、変化したことばを使ってよりもの申しやすくなったのではないかと推測しました。

 武士が中核をなした江戸では、上意下達が意思疎通の基本だったのとは対照的に、商人が中核をなした上方では、横並びでの交渉の必要性があったという背景があるのではないでしょうか。しかし、そういうコミュニケーションを円滑に進めるには、あまり角を立てずに、相手の非を指摘したり、自分のわがままを通したりする必要があります。それは、この本に挙げられている、次のような大阪ことばの特徴のうち、「当事者離れ」によくあらわれていると思います。
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大阪のことばに見られる特徴を整理しなおして、(A)相手との距離の近さ(開放性)、その一面でもある(A')会話の共同作業の感覚(共同性)、そのほかに(B)「当事者離れ」の感覚、(C)大阪独特の「照れ」あるいは「含羞」、(D)停滞を嫌い、変化を好む感覚、の四つないし五つをあげた。
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 たとえば「そない言わんと、まあ、堪忍したって」というセリフがあったとします。これだけを見ると、登場人物が三人いる状況に見えます。腹を立てている人、腹を立てられている人、そして両人をとりなす人。しかし、大阪では、腹を立てられている人が腹を立てている人に直接使っていてもまったく不自然さはありません。

 わたしたちは、当事者のくせに第三者のようなことを言うのです。腹を立てられている状況では近づきにくい距離まで近づいて、言いにくいことを言う場合に多用する方法です。立場をあやふやにしているのです。この考え方は、正反対のニュアンスのことばをくっつけることによっても実現しています。この本では次のように説明されていました。
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「何してんねんな。はよせんかいな」
というときの「せんかいな」がそれである。「はよせんかい」というのは、どうしてはやくしないのか、ぼやぼやするなと叱りつける言い方である。だから当然、言った人と言われた人とは対立的な関係になってしまう。相手を叱る以上、少々とげとげしくなるのは仕方がないと覚悟するのが普通の感覚かもしれない。ところが大阪人は、ここで「な」という助詞を一つ付ける。「はよせんかいな」と言うと、とげとげしさはすっかり消えてしまうから不思議である。
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 相手と逆の立場にいて叱っているのか、相手と同じ立場にいて「なあ」と言っているのか、立場ははっきりしなくなっています。でも「はやくすべき」ということは伝わっています。何気なく使っていたことばの意味や役割を再確認できました。

posted by 作楽 at 00:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(関西) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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