![20100413[Saiaku].jpg](https://witch-sara.up.seesaa.net/image/201004135BSaiaku5D-thumbnail2.jpg)
奥田 英朗 著
講談社 出版
三人の登場人物がそれぞれの立場で、少しずつ最悪な状況へと向かっていく物語です。
第一の登場人物、川谷信次郎は、中堅どころの工場から仕事を請ける零細企業経営者。隣に建ったマンション住人からある日突然騒音の苦情を言い立てられ、急ぎの仕事をこなさなければ下請けとして切られてしまう立場の弱さから対応に困ります。その一方で、銀行から融資を受け、設備投資をしてくれれば仕事の発注を増やすと一番の売上がある企業担当者からうま味があるような怪しいような話を持ち込まれるのですが、町工場が簡単に融資を受けられるはずもなく、動きがとれなくなってしまいます。
第二の登場人物、藤崎みどりは、銀行に勤め、窓口業務を担当しています。あるとき、支店長からセクハラを受け、その相談を持ち込む先を誤ってしまい、派閥争いに利用されそうになります。また、行内で親しくしている女性同僚が付き合っているエリート行員となりゆきで関係を持ってしまったり、家では妹の家出に心を痛めたり、小さな問題が重なっていきます。
第三の登場人物、野村和也は、カツアゲしたり、パチプロの真似をしたりして暮らしています。しかし、金に窮し、ヤクザの車を借りた友人と一緒にその車を使って盗みをはたらいたことをきっかけにヤクザに追われることになってしまいます。盗みを重ね、金を工面したのですが、思わぬトラブルになり命さえ危うくなってしまいます。
三人三様の暮らしがあり、たぶんそれぞれの最高も最悪も異なるなか、それぞれが問題を抱え、解決しようともがいているうちに、徐々に深みにはまっていってしまいます。そして、その三人が最後の最後に出会い、それぞれの最悪を避けようと、お互いがぶつかりあいます。
最悪に向かって徐々に進んでいるあいだは、どこまで落ちていくのかわからない不安からどきどきするのですが、実際に最悪の状況に達すると、世の中どうにもならないことなんてないんだろうな、という開き直りのような気分になるところが、読んでいる自分自身の心の動きとして一番おもしろかったです。
そもそも、三人の暮らしぶりが最初から違っていて、三人に接点ができたあとも自分が一番最悪だと思っているあたり、外から見るとやや滑稽といえなくもありません。
ジェットコースターに乗って、ゆっくり少しずつ高みにあがっていくときのあの感覚を味わうような作品でした。