三浦 しをん 著
新潮社 出版
雑誌の書評欄に載っていたこの本の表紙が気に入り、手にしました。この絵は、クラウス・ハーパニエミ(Klaus Haapaniemi)というフィンランド出身(英国在住)のデザイナーというかイラストレーターの方による作品だそうです。タイトルは、"Basque"。
実は、肝心の本の内容は、帯を見てびっくりした次第です。「『心中』をテーマに当代一の名手が描く、生と愛の物語。」
「まほろ駅前多田便利軒」や「仏果を得ず」を読み、三浦氏に対し、エンタテイメント性の高い作品に大多数の人が共感できるメッセージを込めて書く作家だというイメージを抱いていました。でも、「光」のような、閉塞感を感じる陰のイメージの作品も書くのだと意外に感じた次に読んだのがこの短編集です。それで、テーマが心中。意外性があり過ぎではないかと思いました。
でも、読み終えてみると、よかったです。少なくとも、帯を見たときに期待した以上のものはありました。
ひとつは、心中という重いものがテーマになってはいても、明るさ/暗さにバリエーションがあったことです。死ぬつもりの主人公なのになぜかコミカルさが漂っている「森の奥」、心中を遂げて幸福感に包まれているはずなのに、その心中には実は裏があったのではないかと疑ってしまう悲哀が滲む「君は夜」、焼身自殺した恋人のために真実を暴こうとした女子高生がもしかしたら自身の恨みを晴らそうとしたのではないかという疑惑を抱いてしまう「炎」など、心中ということばのもつイメージからは簡単にはたどりつけない、陰と陽と簡単には分けられない話になっています。
あと、バリエーションといえば、登場人物の年齢性別性格などがうまく描きわけられていたことも楽しめた理由のひとつだと思います。近く死を迎えると感じている老齢の男性が心中しようとした過去を認める「遺言」、昔話を聞かせて欲しいという学生の求めに応じて女性が語る「初盆の客」など、それぞれの個性が伝わってきます。
こういう作品を書いてもうまい作家さんなのだとはわかっても、やはり個人的には「仏果を得ず」のようなエンタテイメントを期待してしまいます。


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