![20100730[NayamashiiHonyakugo].jpg](https://witch-sara.up.seesaa.net/image/201007305BNayamashiiHonyakugo5D-thumbnail2.jpg)
垂水 雄二 著
八坂書房 出版
生物学に造詣の深い著者が、外国語から取り入れられた科学用語のなかから、日本語への取り込まれ方が不適切なものを列挙し、なぜそのような過ちをもって取り込まれたかの説明もなされています。
生物学に関わる誤訳で犯しやすいミスのひとつは、「形容詞と名詞の組み合わせが特定の種名を表す場合」だとしています。
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たとえば、box treeは箱の木ではなく、ツゲ属の木の総称であり、red wood は赤い木ではなくセコイア (Sequoia sempervirens) のことで、これとよく混同されるセコイアデンドロン (Sequoiadendron giganteum) は、giant sequoiaと呼ばれるが、big tree という単純な言い方も使われるので、要注意である。
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これだけを読んでも、その方面の知識がないと日本語にする難しさは並大抵ではないと感じますが、個別のことばを見るとさらにその印象が強まります。
ひとつは、指摘されなければ過ちに気づけないようなイメージの違いによる誤訳です。たとえば「guinea pig」というのは実験動物用のモルモットのことだそうです。pig とあると、つい食用などになる豚を思い浮かべてしまい「ギニア豚」が誤訳だといわれると、純粋に驚いてしまいます。
もうひとつは、同じことばに対して違う訳語が定着してしまっている場合です。たとえば fauna ということばは生物学では動物相と訳されていて、古生物学では動物群と訳されているそうです。このことは、医学や心理学などさまざまな分野で起こっているそうで、具体例を読み進めると頭が痛くなってくるほどです。
最後に、以下の分類が印象的だったので、抜粋してみました。杉田玄白の時代の人々は、現代のわたしたちに比べ、(2)の作業に多大な労力を割いたのだろうな、と思えました。また、(3)でさえ、カタカナ表記の変遷ひとつをとっても難しい問題だと感じました。
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西洋語から日本語への訳語の問題について本格的に論じた最初の人物は、おそらく杉田玄白であろう。彼は『解体新書』の凡例において、翻訳・義訳・直訳の三つを区別している。現代風に説明すれば、(1)「翻訳」:原語に対応する日本語がすでにある場合にそれを当てること。(2)「義訳」:対応する日本語がないので、意味の上で適切な日本語をつくってそれを当てること。現代の意訳に当たる。(3)「直訳」:適当な造語がむつかしい場合に、原語の音をとりあえず当てておくこと。現代で言えば音訳に当たる。
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